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《覇》の古具使い  作者: 桃姫
美園編―間話―
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109話:立原舞子

 さて、ここで立原と言う家について、俺が知る限りのことを記しておこう。


 立原宰蔵。国会議員だ。あの境出議員に並ぶほどの有名で発言力のある議員だ。最近では、次期総理大臣に名を挙げるのでは、とマスコミが報道するほどの逸材だ。まあ、昨日の話から察するに、宰蔵氏よりも奥さんである立原舞子氏の方が人間関係上、上らしい。そして、一人娘の立原美園さん。我が三鷹丘学園、生徒会副会長である。どうやら舞子氏から溺愛さえている。


 さて、俺は、そんな立原家にお邪魔している。


 一体全体どうしてこうなったかと言うと、俺にもよく分かっていない。臨時生徒会の帰りに拉致されたとしか言いようがないからだ。

「貴方が、青葉清二君ね?」

「はいそうです」

立原舞子氏の質問に素直に答える。

「三鷹丘学園生徒会会計」

「ええ」

「と言うことは、アーティファクトと呼ばれるものについても知っているのよね」

と言うことは、舞子氏も古具について知っているらしい。

「はい、自分も持って」

と言いかけて、いや、そう言えば、《殺戮の剱》の意思が言っていた。血だけで、力は云々と。

「どうかしたかしら?」

「いえ、無論、自分も古具に関しての知識があります」

「そう、ではうちの娘の能力も知っているのね」

《刀工の剣製》。それは、

「様々な刀を生み出すことが出来る能力。由来は、神が武器を造る力を模したものと言われていますね」

俺は知っていることを述べた。

「ええ、それだけの知識があれば十分です。あの娘が、参謀と言っていただけのことはありますね」

俺、副会長に参謀だなんて思われてたのか。今までまともに、指示も作戦も出してないのに。

「別にそれほどの人間ではありませんよ」

「いえ、では、立原と言う家について何を知っていますか?」

立原について、それは、先ほども記したように、

「立原宰蔵氏の功績や、これからの期待度が高いことくらいしか」

「では、辰祓と言う言葉は、ご存知で?」

そう言いながら、メモに万年筆でさらさらと記す。

「辰祓。……まさか、|《龍滅士》《ドラゴンキラー》ですか?」

「ふふっ、まさに、歩く図書館、ですね」

歩く図書館って……

「まさしく、立原の一族は、昔から、日本に伝わる由緒正しき、龍を祓う一族でした。まあ、今となっては、本当に龍と呼ばれるものが存在していたのかすらわかりませんが」

龍神はいるけどな。

「そんな一族ですが、力と呼ばれるものは、もう、ありません。昔、家にあった刀も今や行方知れず」

「刀、ですか?」

俺は、少し興味を持った。龍を滅する一族の刀とすればアスカロンやグラムのような龍滅の剱なのだから。

「蒼王孔雀。それがその刀の銘です。刀身は太く、身の丈ほどの大刀。色は蒼」

《蒼王孔雀》。白城と言う少女が言っていたな。俺の《蒼天の覇者の剱》のことを、そう。

「元々、我が家には、三つの刀が納められていました。銘を《緋王朱雀》、《琥珀白狐》、《蒼王孔雀》。そして、この三位一体の刀のうち、二本は、或る神社に。《蒼王孔雀》は家に、と言うことです」

「その刀に、龍滅の力が?」

首を振り、舞子氏が答える。

「いえ、ありません。あの刀には、《蒼き力》が宿っているとだけ。《蒼刻》とも言うそうですが」

《蒼刻》。蒼き力の名称。

「その特徴は、武器に宿る思念と聞きます」

思念?それはつまり、俺の《殺戮の剱》と、同じ。

「ただ、蒼王孔雀は、今は、二つの剱になっていると聞き及びます。願わくば、それが、蒼き力の持ち主に渡ることを祈りますが」

そう、そして、それは、渡った。俺と言う、《蒼刻》に。

「それは、置いておきましょう。我が一族、辰祓、いえ立原は、強い力と頭脳を欲しています。うちの娘曰く、貴方は、どちらも条件を満たしているのですよね?」

数刻の逡巡の後、

「俺が、その条件を満たしているかどうかはわかりません。しかし、満たしていたとしてどうなるんですか?」

「特に何も、ただ、覚えておいて欲しいだけです。我が一族が、貴方を欲しているということを」

そう言いながら、その目線が少し横を見た気がした。俺はそれを追う。そこにあったのは、

「深紅さんと紅紗さん?」

の写真だ。

「あら、ご存知ですか?」

「ええ、この間、お二人にお会いしました。天龍寺家とは、少し」

「そうですか。あの、『剱使いの護衛』とは貴方のことだったのですね」

どうやら少なからず情報は共有しているらしい。

「先輩が買うほどの腕があるなら、少なくとも、うちの娘よりも強いということですよね」

先輩と言うのは、深紅さんか紅紗さんのどちらかだ。

「おそらく。ですが、副会長の本気を見たことがないので何とも言えません」

「副会長、ですか。いつものように美園と呼んで構いませんよ」

どうやらカメラの一件で俺と副会長が付き合っていると思われているらしい。

「副会長は、自分との関係をどうおっしゃっておりましたか?」

「愛し合っている、と」

嗚呼、厄介なことになっているな。

「あれは、芝居だったんですよ。なぜかは知りませんが、」

「芝居?うちの娘があんな顔を芝居でできるわけがないんですが、まあ、いいでしょう」

ごにょごにょと聞き取りづらく、前半はよく分からなかった。

「では、貴方は、うちの娘のことが嫌いですか?」

これまた答えにくい質問だ。

「嫌いなわけないじゃないですか」

「では、好きですか?」

「それは、どういう意味での?」

質問に質問で返す。

「無論、男女関係の恋愛として」

「先ほどもお答えしたように、自分は、副会長が嫌いではないです。ですが、恋愛の関係で好きかと問われると、考えたことがないので分かりません」

考えたことがない、分けではない。しかし、ここはそういうしかない。

「では、考えてください」

理不尽だ。

「少し時間をもらえますか?」

「いえ、今考えを出してください」

なぜ、こんなにも答えを急ぐのだろうか。

「自分は、お互い愛し合っていてこその恋愛関係だと思っています。だから、自分は、副会長と恋愛関係になることはできません」

「ふむ、そうですか。では、お互いに愛していたら問題はないのですね?」

そんなことはありえないだろうが、

「そうですね」

「そうですか」

そして、しばらく無駄な会話をした後、

「質問は以上です。お帰りください」


 そうして、俺は、またも、黒い車に押し込まれ、無理やり家に帰された。


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