104話:銀朱の時
――パリィン!
俺が食堂を目前にしたとき、中からガラスが割れる音がした。
「来ないで!」
「来るな!」
その二つの声は、秋世と秋文だ。
「ぜぇぜぇ、テメェ、が、まさか、復讐なんぞ、しに来るとはなッ……!」
深紅さんは息が上がっていて、苦しそうだ。俺は、勢いよく扉を開けた。
「誰……?ああ、天龍寺カナタか」
そこに居たのは、黒い髪と長い刀を持つ少女。
「ふん、まあ、コイツに復讐が出来れば後は、二人だけだ」
深紅さんを見ながら言う。二人とは、紅紗さんと会長のことか?
「ハッ、テメェ如きじゃ、足元にもおよばねぇよ。特に、」
「五月蝿いっ!低脳な凡人は黙っていなさい!」
深紅さんを蹴り上げる。
「ガホッ」
深紅さんは血の塊を吐き出した。相当やばそうだ。内臓がやられているらしい。
「もういいわ。死んで頂戴」
冷徹な声音で少女は告げた。その瞬間、眩い光が深紅さんを包む。
「これは?!」
深紅さんの驚愕。少女も驚愕している。そして、深紅さんは、秋世の足元に移動していた。あれは、古具か?
「|《銀朱の時》《ヴァーミリオン・タイム》。これが私の古具です!」
秋世も古具を持っていたのか?いや、今、開花したのか。
「小賢しい、下等な家柄の屑がッ……」
少女が苛立ち舌打ちをする。
「《緋色の衣》!奴を捕らえなさい!」
会長も反撃に出る。しかし、難なく刀に切り裂かれる。あの切り方……まるで人を殺すためだけに剣を振ってきたかのような。
「邪魔を、するなぁあああああああ!」
まるで暴風のごとく、部屋中を切り裂く。まずい、このままだと、全員やられるな。どうにか、考えなくては……
――ヴァーミリオン・タイム
直訳すると朱色の時間。しかし、深紅さんを包んだ光の色は、朱と言うよりは、銀朱だ。銀朱の時。それが意味するものとは、
「死ね」
そこまで考えて、思考するのに夢中になっていたことに気がつく。そして、刃が、こちらへ向かっている。ああ、これは、あのときに似ている。俺が始めて、古具とであったときと。
《死ぬのか?そのまま死を受け止めるのか?》
剱の声が脳に響く。いや、死ぬしかないだろう。
《お前はまだ、全力を出していない》
何言ってんだ?
《お前には、まだ、力があるではないか》
確かに、俺には聖剱もつかえる。でも、あれは、本体があってこその力。
《聖なる力は、覇なる力と反対の力だ。しかし、お前はそれをひとつにできた。ならば、お前には、何でもできる》
何でもだ?
《そうだ。だから、一度だけ、チャンスをやろう》
チャンス?
《銀朱の時は、空間をつなぐ古具。神が夕暮れに、天に帰るのに造ったと言われるものだ。それを無理矢理開いてやろう》
おいおい、秋世の許可なしにかよ!
「きゃっ!」
「秋世?!」
秋世の周りの空間が銀朱に歪み、そこから、一振りの剱が現れる。それは、まさしく、愛剱――デュランダル、だった。
そして、俺に迫っていた刃が、秋世の周りに突如発生した光によって数秒止められる。
それを好機と見た俺は、喚び出された剱を即座に掴み取る。
「さあ、反撃の始まりだ」




