102話:裏の理由
会長の家に護衛に来てから一週間と五日が過ぎた。昨日が、終業式だったので、今日から長期休暇になっている。俺は、早朝、いや、まだ朝とも言えぬ、この三時四十五分に会長の部屋を訪れていた。理由は、何故か知らないが会長に呼びつけられたから。
「まったく、こんな時間に何のようだ?」
そんなことをブツブツと呟きながら、ノックする。
「入ってきて」
俺は、扉を開けた。そして、その光景に目を奪われた。無論、会長の艶姿があるとかそう言うのではなく、ただ、部屋の豪華さに目を奪われただけだ。豪華な天蓋つきのベッド。高価そうな壷。煌びやかな飾り。見えるように飾られた宝石類。全てが凄かった。
「ちょっと話があるの。聞いてくれる?」
会長に椅子にかけるよう言われ、座る。
「実は、叔母様が、清二君を呼んだのには、理由があるのよ」
そう切り出された。それは知っている。会長を支えるた……
「実は、脅迫状が届いてるのよ」
は?
「それも三通。私宛と母様宛、叔母様宛の三通。いずれも『この恨みを晴らす』と血文字で」
血文字とか古典的だな。
「しかも、送り主の名は『白き復讐者』とか言うふざけた奴だから……」
「白き復讐者?」
「うん、叔母様は、何か心当たりがあるようだったけど」
それにしても、『白き』復讐者。心のどこかで何かが疼くような気がした。
「その白き復讐者ってのは、天龍寺家に恨みがあるのか、それとも会長を含めた三人に恨みがあるのか……どっちッスかね?」
「それに関しては、叔母様が、『オレへの恨みってか?あの野郎、まだ生きていやがったとは……!』って」
まだ生きていやがった?つまり死んだと思ってたのか?
「それで、おそらく、清二君を呼んだのは、その復讐者対策だったんじゃ、ってね」
それは一理ある。いや、むしろ、会長を支えるなんていうのは表の理由で、本当は、そいつから会長を護るために……考えすぎか?
「その復讐者とやらは、一体な」
何を考えてと続けようしたところで、異変に気づく。時刻は、四時。俺の耳が、感覚が、不思議な気配を察知した。いや、気配が不思議なのではない。気配は至って普通の人間。なのに、この既視感。おかしい。
「どうしたの?」
その判断は、もはや直感でしかなかった。俺は、会長をベッドに押し倒していた。




