0話:プロローグ
その日、俺は、いつものように帰宅していた。ふと何か、物音が聞こえたような気がして、路地の方を見る。そこには、倒れた女性。そして、黒い服を着た三十代くらいのおっさん。倒れた女性のほうには見覚えがあった。立原美園。三鷹丘学園生徒会副会長。俺の通う学園の副会長である。一方、男のほう。全く見覚えのない男だ。何かあったのか少し迷ったが、副会長の付近をよく見ると、赤黒い液体が飛び散っている。俺は、しばらく立ち呆けた。その間に男は逃げていく。
――血?
俺の頭に過ぎった単語。アレは、血、なのか?遠くからサイレンが聞こえる。誰かが通報したのだろう。どこか他人事のように、俺は、そんなことを考えていた。
警察からの事情聴取を受けた俺は、家に向かっていた。短い道のりが、何故だか長く感じた。足が重い。一歩一歩が重い。あんな光景を見た後だ。仕方ないのかもしれない。不意に、前に誰か現れる。誰だろう。見覚えのない男。いや、ある。副会長が倒れていた現場に居た男だ。男の手には、まるで、夜の闇を映したかのような闇色のナイフが握られていた。そのナイフが、一直線に、俺の心臓めがけて伸びてくる。
――嗚呼、これは、死んだな。
俺の体に、ナイフが突き刺さり、鮮血が傷口から飛び出る。嗚呼、死んだ。人生の終わりとは、案外、呆気ないものだ。ゴメン。ゴメンな、聖……。