「わかった」
――――翌日
ラインヴァルトとトールは、泊まっている簡易宿所を出ると、冒険者ギルドへ向かった。
冒険者ギルドの両開きの押し戸を開けてゆっくりと内に入ると、緊急討伐以前の光景に戻っていた。
ただ、一つ変わった所を指摘すれば、緊急討伐に参加した冒険者が2人の姿を見て、軽く手を上げて会釈している。
ラインヴァルトとトールは、同じように軽く会釈を返して受付に向かう。
受付に到着すると、切れ長で二重の細目で、黒に近い茶色の髪を肩甲骨辺まで
伸ばし、軽く巻き上げて簪で留めた受付嬢が笑顔で出迎えた。
「おはようございます、本日は何の御用ですか?」
受付嬢が尋ねてくる。
「おはよう、御嬢さん、緊急討伐参加の事情聴取に呼ばれたんだが」
ラインヴァルトが穏やかな声で応える。
「ギルドカードはご持参なさってますか?」
受付嬢が尋ねてくる。
ラインヴァルトとトールは、受付嬢にギルドカードを渡すと、受付嬢はカードを受け取り、書類に何かを書き始めた。
しばらくすると、受付嬢はラインヴァルトとトールに視線を戻す。
「冒険者のラインヴァルト・カイナード様とトール・クルーガ様ですね。
ギルドマスターがお呼びです。係の者がご案内します」
受付嬢がそう応えると、ダークブラウンの短髪で中性的な顔立ちの男性ギルド職員がやってきた。
ギルド内の冒険者同士の衝突に対処するためか、鍛えられた身体だ。
「どうぞこちらに」
と告げてくる。
ラインヴァルトはさっさと帰りたい気分だが、恐らく帰してはもらえないだろう。
ギルドマスターからの直接の事情聴取・・・、ラインヴァルトにとっては考えたくもない展開だ。
トールの方は、口元に笑みを浮かべている。
「(何がそんなに楽しいんだ?)」
ラインヴァルトは、そのトールの様子を見て何とも言えない表情を危うく浮かべそうになった。
「申し訳ありませんが、こちらに案内するには、手持ちの武器を預けておいて頂く
決まりですので」
係の男性ギルド職員が2人に視線を向けながら告げる。
「わかった」
ラインヴァルトは素直にそう応えながら、背中に背負っている漆黒の片手剣を、
トールは、幅の広い片刃の短刀を係の男性ギルド職員に手渡す。
特に、ラインヴァルトの漆黒の片手剣を受け取った係の男性ギルド職員は、その見掛けによらないほどの重さに貌を顰めた。
係の男性ギルド職員を先頭に、一階フロアを見渡す事が出来る様にしてある関係者以外立ち入り禁止の扉を潜る。
階段を辿るように上階へと進むと、ギルドマスターの執務室前に到着した。
ラインヴァルトとトールは、さりげに視線を流しながら付近を見渡すが、
やはりと言うべきか、2人がいる世界の様に、高度特殊魔術などは施されて
いない様だった。
男性ギルド職員は、扉の前に立つと、軽く三回ノックする。
「ギルドマスター、冒険者のラインヴァルト・カイナード様とトール・クルーガ様をお連れしました」
と告げた。
「――――入れ」
扉の奥から響いてきた声を確認すると、男性ギルド職員は扉を開けた。
「失礼します」
ラインヴァルトとトールは、一言声をかけてから入室する。
入室するラインヴァルトとトールを迎えたのは、象牙色の肌、色素の薄い茶色の髪、榛色の瞳をした奥二重の切れ長の瞳とすっきりとした鼻梁、薄い唇が細面の輪郭の中にバランス良く収まり、やや着痩せして見える身体だが、冒険者ギルドの
責任者としては、しなやかな筋肉を纏っている。
「朝早くて申し訳ない。まぁそこに座ってくれ」
部屋の中央に用意されたソファに座るよう促され、ラインヴァルトとトールは、
腰掛けた。
丁度、テーブルを挟んで対面になるようにギルドマスターも腰掛け、その後ろにここまで案内してくれた男性ギルド職員が無言のまま控える。
対面しているギルドマスターは、テーブルに置かれている二枚の書類と2人を、
眼を細めながら交互に視線を移す。
「まずは今回の緊急討伐ご苦労だった。特に2人の活躍は、討伐に参加した冒険者とギルド職員から聴いている。それでだが、今回の活躍により昇格だ」
ギルドマスターが告げてくる。
「恐縮です」
ラインヴァルトは丁重な口調で応えながら頭を下げ、トールは軽く微笑みながら
頭を下げた。
ラインヴァルトの内心は、昇格と聞いても不安だったが。
「2人は、他の冒険者よりも戦いに関して随分と教養があるようだが、何処で
それほどの戦いを?」
ラインヴァルトとトールの事情に興味が沸いたのか、何処かやけに気の抜けた柔らかい声で尋ねてくる。
「・・・・こちらの地域に流れてきて、冒険者として登録する前は、護衛や用心棒をして稼いでいたので」
ラインヴァルトは、無難な返答をする。
ギルドマスターは、その返答に何処か満足した様子ではなかった。
「まぁいいだろうーーー、今回の緊急討伐はAランクに匹敵するため、参加した冒険者は全員がAランクまで昇格だ」
ギルドマスターが告げてくる。
「(マジかよ、これは厄介な)」
ラインヴァルトは、内心舌打ちをして、トールの方に一瞬だけ視線を向けた。
トールの方は、それに気づいたのかにやりとした表情を浮かべた。




