「そんなに腕に自信はないぞ、買い被り過ぎだ」
緊急避難をしたアーシラ村の避難民は、無事にスクルトリアに辿り着いた。
避難民の手当や緊急討伐に参加した冒険者から状況の聞き取りをするためか、
ギルド職員が大勢集まっていた。
馬車から降り立ったトールは、スクルトリアの城門やギルド職員などを見渡して、 一瞬だけ、随分と久しぶりに訪れた様な気持ちになった。
革鎧を身につけ、胸板も厚く筋骨隆々とした男臭い体躯のギルド職員が、
トールに向けて大股で歩いて来る。
顎には無精髭が生え、浅黒い肌と彫りの深い顔立ちである。
周囲にいる避難民に視線を向け、時折見定めるように足を止めるものの何も言う事なく、トールの元へとやってきた。
「どうだった?」
顎で荷台を指しながら告げてくる。
「もう一人の連れが、戻ってきてませんよ、戻れない理由が出来たのかもしれませんが、もうしばらくしたら戻ってくると思います」
トールは、軽く会釈をしながら、そう応える。
その返答にひょいと肩を竦めたギルド職員の表情は、何処か楽しげだ。
「やれやれ、これだがら駆け出しの冒険者は」
右手にペンと左手に紙を持っているそのギルド職員は溜息なぞついて見せるが、
それほど声音は深刻でもない。
「――――幾ら倒した?」
何でもない話のような問いかけ方で尋ねてくる。
トールが何か応えようとしたとき、頬骨の尖った貌に唇が厚く白い歯のギルド職員が男臭い体躯のギルド職員に近寄ってきて、一言二言、小声で言葉を交わす。
男臭い体躯のギルド職員が、少し驚いた表情を一瞬だけ浮かべた。
一体何を話したのかは、トールには分からなかった。
さらに二言三言を交わすと、ギルド職員はあとは互いに何も言わずに身を離した。
「大きな成果を出して、ギルドとの信用を繋ぐための道筋を作っているのか?」
苦笑とも言える表情を浮かべながら尋ねてくる。
「なんせ新人の冒険者なので・・・、ま、そうそう簡単に行かないのは承知してますよ」
トールがそう応える。
「少なくとも俺は―――――、いや、この討伐に参加した冒険者やギルド職員は、お前達2人の事を新人の冒険者とは思ってはいない事は、分かっているだろうな」
男臭い体躯のギルド職員が軽く息を吐きながら尋ねる。
「大金を手に入れて成り上がりたいという野心を抱いている、至って普通の冒険者ですよ」
トールは、肩を竦め、苦笑めいた笑みを僅かに見せながら応える。
「その通り、俺達は駆け出しの冒険者さ」
男臭い体躯のギルド職員は、その声がした方向に視線をゆっくりと向けた。
そこには、ニヤリとした表情を浮かべたラインヴァルトが立っていた。
男臭い体躯のギルド職員は、まったく気配も無く近づいて立っていたラインヴァルトに怪訝な表情を一瞬だけ浮かべた。
周囲を見回してから、男臭い体躯のギルド職員は2人に視線を交互に向ける。
「ここの冒険者ギルド職員の全員の意見でもあり勘だが、お前さんら2人は、
少なくとも駆け出しの冒険者のEランク程度の腕前ではなく、Aランク以上の腕前だ」
男臭い体躯のギルド職員がそう告げる。
「そんなに腕に自信はないぞ、買い被り過ぎだ」
ラインヴァルトは、相手の言葉を戯言にして笑いながら応えるが、内心では舌打ちをする。
「その通りです」
トールは、短くそう応えるが、内心ではどう思っているのかはわからない。
「後々で、詳しくランクアップなどの手続きがある」
男臭い体躯のギルド職員が、わずかに笑みを浮かべながら歩き出して、離れていく。
「(やけに早く戻ってきましたね)」
男臭い体躯のギルド職員の後ろ姿を見送りながら、トールが囁く様に尋ねてくる。
「(念のため、離れた場所に短距離テレポート・ゲートを設置していたんだ。
さもなきゃ、こんなに早くは戻ってはこれねぇよ)」
ラインヴァルトは、周囲を見渡しながら囁く様に応える。
「(いつの間にそんなのをこっそりと設置していたんですか)」
トールは、若干呆れた様な表情を浮かべながら尋ねる。
「(アーシラ村に向かう準備をしている間にな)」
ラインヴァルトが小声で短く応えた。




