「(こっちは、まだまだ面倒な事ばかり続いているぞ)」
鬼獣の群れの襲撃により瓦礫の山と廃墟と化しているアーシラ村でも、
少数の生存者はいた。
肌は蒼白く、発達した筋肉が鎧の様に全身を覆っている鬼獣の群れに囲まれている
少年少女が抱き合って震えている。
少女が泣きそうな瞳で少年を見下ろしている。
取り囲んでいる鬼獣の何体かはじゅるりと舌を舐めた。
鬼獣が今にも一斉に飛びかかろうとした時――――
背後から人間のシルエットが凄まじい速さで接近する。
突然現れたのは、冒険者が着込んでいる様な動きやすくした軽装服の上から、フード付のマントを羽織った、緩くウェーブのかかったオールバッグ気味の青銅色の長髪の人間だった。
少年少女にはまったく見覚えのない成人男性だ。
その成人男性は、2人の傍に来るまでに、ついでとばかりに鬼獣を6体ほど斬り裂いていた。
「やあ、怪我はないかい?」
眼の前に辿り着いた成人男性―――、トールは笑みを浮かべながら尋ねた。
少年少女は安心したかのように床に腰を下ろす。
「(生存者はこれで最後か・・・)」
トールは一呼吸空気を吸うと、周りを取り囲んでいる鬼獣を睨めつける。
鬼獣の群れは、新たな獲物の登場に無い知恵を絞って何かを考えるようだった。
「(この村を襲撃したこの魔物群れの数は、多すぎる)」
正確の数字はわからないが、だいたいの感じではそれ相当数の群れの規模だと把握している。
その理由も至って簡単で、トールが習得している高度魔術の中で、魔術電波(?)
を対象物に向けて発射し、その反射波を測定することにより対象物までの距離や方向を明らかに出来る探知魔術を唱えたからだ。
遠くにある物との距離を電魔術電波によって計測し、図示することで輸送飛龍・
船舶の位置把握や雨雲の雨量計測、また物体の速度測定や障害物検知などに使われている高度魔術だ。
特にトールが唱えたのは、超高度探知魔術で半径数千から数万km内の全ての物を探知することが出来る。
それを唱えると、鷲、鷹、飛龍の仲間になったかのように超空を悠々と飛んでいる
様な鮮明で濃い映像が映像が脳内に流れ込んでくる。
その結果、分かった事は少人数で立ち向かえるほどの群れではない事だった。
(この魔術を使った事により、生存者の数も把握出来た。どのような鍛錬をすれば出来るのかはわからないが、この時、生存者、鬼獣、味方の色判別までした。
生存者は黄色、鬼獣は赤、味方は青・・・という具合に)
「生存者はこれだけかっ!!」
ギルド職員が尋ねながら、怯えた様に一か所に固まっている村人に尋ねた。
そこにいる村人は、老人、子供、乳飲み児を抱かえた女達だったが、貌は汚れ、
衣服はぼろぼろだった。
何人かの村人は頸を横に振った。
「一列に並んで、馬車に乗ってくれ!」
ギルド職員はそう告げた。
村人達はゆっくりと立ち上がって馬車に乗り込んでいく。
「(本当にあの2人はEランクの冒険者なのか?)」
ギルド職員は、付近に転がっている鬼獣の死骸に視線を向けながら思った。
トールと名乗った冒険者は、この場の鬼獣をほとんど1人で殲滅すると、
もう1人のラインヴァルトと名乗った冒険者が向かった村へと向かった。
そのトールと名乗った冒険者は加勢に向かったのではなく、生存者を拾い集めに向かったらしく、今馬車に乗りこんでいる村人は、そのトールが全て助けて連れてきた。
「(明らかにEランクというレベルじゃないぞ・・・・)」
ラインヴァルトとトールの戦闘を思い出して、背筋を震わせた。
――――その頃、ラインヴァルトは殺到してくる鬼獣の群れと激戦を繰り広げていた。
ラインヴァルトの持つ漆黒の片手剣が、血に飢えた魔剣の如く群がってくる鬼獣に
斬撃をあたえる。
喉と胸、腹が深く斬り込まれていく。
渋く血潮は、そのいずれも致命傷である事を告げている。
だが、鬼獣は死骸を踏み越えて殺到してくる。
手に持っている粗末な武器類でラインヴァルトに怪我を負わせようとしても、それらを全て躱され、逆に頸を斬り飛ばされていく。
―――その途中で、ラインヴァルトの頭の中に、ある言葉が突然響いてきた。
「(おおかた生存者は救助しましたよ、ラインヴァルトさん)」
それは、脳内に語り掛ける高度魔術思念言語だった。
その言語の主は、トールだったため、ラインヴァルトは一瞬だけ苦笑いを浮かべた。
「(こっちは、まだまだ面倒な事ばかり続いているぞ)」
ラインヴァルトは、脳内でそう返答した。
「(もう、そろそろ能力を使ったどうなんですか?)」
何処か呆れた様な声が返ってくる。
「(俺はセンチメンタルでガラスのハートを持った傭兵で、理想主義の戦闘行動しかできない大馬鹿野郎だから、使う気はまったくないな)」
ラインヴァルトは剣を構えながら返答した。




