「お前ら全部、「特殊能力」抜きで殲滅してやるから覚悟しろよ」
「こいつは酷いな」
過酷な戦場を渡り歩き、眼を覆いたくなるような光景を幾度も見てきたラインヴァルトでも、思わず眼を背けたくなった。
雨露をしのげそうな人家はほとんど見当たらない。
見渡す限り瓦礫の山と廃墟、村人の悲惨な死骸が転がっている。
付近で蠢いているのは、鬼獣の群れぐらいだろう。
ラインヴァルトは怒りの唸り声を漏らし、取り囲んでいる鬼獣の群れを見据える。
鬼獣の一群が束になって一斉に襲いかかってきた。
ラインヴァルトは、忌々しく思いながら、一番手近な鬼獣を漆黒の片手剣で斬り捨てる。
絶命した鬼獣が地面に倒れるより速く、ラインヴァルトは地面を蹴り、引き裂こうと身を屈めていた鬼獣の頸を軒並み斬り飛ばす。
噴出した血生臭さが辺りに漂い、鬼獣の頭部が地面に転がる。
「お前ら全部、《特殊能力》抜きで殲滅してやるから覚悟しろよ」
ラインヴァルトの言葉を理解できるはずはないが、その覇気に押される様に
鬼獣は躊躇った。
だが、自分たちが有利であると思い出したのか、けたたましい鬨の声を上げて襲撃を再開する。
ラインヴァルトは自ら打って出ると、鬼獣の攻撃を躱し、あるいは剣で払いながら、鬼獣の身体に吸い込まれるように剣を食い込ませる。
ほとんど上半身だけの力を使った攻撃だが、それでも致命傷を余裕で与えられる。
血が吹きがる鬼獣を蹴りつけ剣を抜き、横殴りに剣を振る。
直感だけの斬撃だったが、横手からのっそりと現れた鬼獣の貌を二つに裂く。
出来の悪い脳が目玉と共に放棄するが、圧倒的に不利な事は間違いない。
夥しい鬼獣の群れが、地面に横たわっている鬼獣を乗り越えて、続々とやってくる。
だが、ラインヴァルトは一向に引かず、暴嵐の如く鬼獣の群れに斬りかかる。
鬼獣の身体が斬撃で刻まれ、手や足、または頸が斬り飛ばされる。
「(使えずに殲滅できるか)」
「特殊能力」を使用すれば、簡単に殲滅は出来る事は間違いないが、ラインヴァルトは躊躇していた。
この付近にトールだけならば、限定的には使ったかもしれない
ラインヴァルトが躊躇する訳がある。
「特殊能力」については、未だに謎に包まれているが、飛躍させる技術がある。
管理局に入職し、特殊訓練にて飛躍させられた「特殊能力」は、ラインヴァルトにとっては使い所に困る物になった。
入職してから、初めてラインヴァルトは知ったのだが、「特殊能力」には四段階に
も及ぶ位階が存在していた。
位階が一つ違えば、その戦闘力は次元違であり戦闘能力も飛躍的に増大するという説明付きで教えられた。
・第一段階「魔動活動」
市販に流通している刀剣類、防具類、一般魔術師が習得している特性を使用出来る。
身体能力などはこの段階で既に遥か人外の領域に達しているが、さらに経験を重ねることにより身体能力などを遥か高みに達する事が可能。
魔物カテゴリーレベル1~2に分類される魔物と常人の殺傷には十分すぎるが、魔物カテゴリーレベル3以上に分類される魔物との通常戦闘に使えるレベルではない。
・第二段階「神魔形成」
世間一般に流通しても、少数しか出ていない刀剣類、防具類、少数の魔術師が習得した高度な魔術が使用出来る。
五感・霊感が超人化し、魔物カテゴリーレベル3以上に分類される魔物と単独で破壊と戦闘を高次元で行える。
・第三段階「夢幻創造」
切り札、必殺技を獲得する段階。
「特殊能力者」の魂に刻まれた渇望をルールにした己と己にとってのみ都合の良い異界を創り、吟遊詩人の奏でる英雄譚に出てくる未知の刀剣類、伝説の防具類、遥か古代の大賢者が習得した魔術が使用出来る。
この段階なら、魔物カテゴリーレベル4に分類される魔物との戦闘を高次元で行える。
・第四段階「始祖覇道」
特殊能力者周囲を異界に変異させ、他者を食い潰して広げる。
一対多の戦闘、魔物カテゴリーオメガ級の魔物との死闘に向いている。
許容量は特殊能力者によって異なるが、基本的には数千から数万、経験を重ねれば、数百万数千万以上の規模で取り込むことが可能だ。
自らの渇望を元にした戦略的戦場法則によって新たな異次元戦場を創生する権利を得、その戦場に存在する全ての武器、防具、魔力を己の力として、一時的に特殊能力者が世界の理から外れ、創造神と等しい存在となる。
ラインヴァルト、トール、ベルナルド、クラウディア、エレーナの5名は、
特殊訓練により、第四段階「始祖覇道」の階位まで達している。
そしてこちらの別世界まで来てラインヴァルトが使ったのは、まだ第一段階「魔動活動」までしか使用していない。
第四段階の「始祖覇道」に至っては、連合警備隊冒険者管理局に入職後に、第四段階まで飛躍させられてからは、「最高危険区域迷宮・遺跡」、「重要危険区域迷宮・遺跡」内部の遺品回収時にて遭遇した魔物カテゴリーレベル4に分類する魔物との交戦ほどしか使用していない。




