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「有名なのは、元の世界だけで十分だ」

 

 ラインヴァルトとトールは身を低くしたまま、慎重に周囲を覗った。

 十体の「鬼獣」以外の魔物の姿は無さそうだった。

「(他の魔物の姿はないか)」

 そう思いながらもラインヴァルトはさらに注意深く周辺を観察するが、特に注意する様な物は無さそうだった。

 ラインヴァルトは、引き続きトールに周辺警戒を任せると、十体の「鬼獣」の死骸に向けて慎重に歩を進める。

 距離が徐々に狭まっていくが、「鬼獣」の死骸には特に変化はない。

 トールにハンドシグナルで合図を送ると、「特殊四次元道具袋」から蒼い液体が

 入った、掌サイズの薬瓶を取り出した。




 薬瓶の蓋をあけると、蒼い液体をそれぞれの「鬼獣」の死骸に振りかける。

 蒼い液体がかけられた死骸は、生肉が熱い鉄板で焼ける様な音を立てながら

 溶けて行く。

「何もそこまでしなくてもいいんじゃないですか?、その「鬼獣」の倒した

 証拠品持っていけば、かなりの金が稼げますよ」

 その様子を見たトールは、少し呆れた表情を浮かべながら告げてくる。

「まだこの世界では半人前にもならない俺達が、こんな大物倒したとなれば、否応なしに問題になるだろうが・・・」

 ラインヴァルトは応える。

「有名になれますよ」

 トールが周囲に視線を向けながら告げる。

「有名なのは、元の世界だけで十分だ」

 ラインヴァルトは応えた。

 トールはラインヴァルトの返答に肩を竦めた。




「それにあくまでも、俺達の受けた依頼は調査だ。討伐じゃない」

 ラインヴァルトがそう短く告げる。

「(・・・もうそんな平凡な依頼は無さそうだと思うんだけどなぁ)」

 トールは、そんなこと思いながら骨すらも溶けて行く「鬼獣」の死骸に視線を向ける。

「なんか言ったか?」

 ラインヴァルトが、「特殊四次元道具袋」に掌サイズの薬瓶を入れ直しながら

 尋ねてきた。

「いえ、何も―――」

 トールは、いつもの表情でそう応えた。

「鬼獣」の死骸が全て無くなるのを確認終えると、ラインヴァルトとトールは

 テオラギ村へと歩き出す。




 テオラギ村へ戻る道中は、特に「鬼獣」や他の魔物に襲われる事もなく無事に到着した。

 もちろん、ラインヴァルトの手には銃器の姿は見当たらないのは言うまでもない。

 テオラギ村は、来た時と同じように農作業している大人や遊んでいる子供達の

 姿があり、のどかな農村の光景だ。

 しかし―――もしも、「鬼獣」の大群に襲われたら、こののどかな風景も一瞬にして

 この世の地獄となる事だろう。

「(要らない心配だとは思うけど、ラインヴァルトさんは、はたしてそんな光景を

 眼の当たりにしても、特殊能力は使わない意思を貫くつもりなんだろうか)」

 遊んでいる子供達に笑顔を浮かべながら、手を振っているラインヴァルトを見ながら、トールはふっと思った。




 村長宅に到着すると、さっそくラインヴァルトは村長のセベアデに調査報告の結果を報告をした。

 もちろん、「鬼獣」を倒したことや「ゲート・キーパー」で撮影したものを見せずにだが、その代り、セベアデが用意していたこの近隣の地図を使いながらだ。

「その群れは、さらに西の方向に進んで行ったので、直接この村に害は及ばす事は無いとは思いますが」

 ラインヴァルトは、柔らかい口調で真剣な表情を浮かべながら訊いているセベアデに説明した。

 トールは、その様子を少しぼんやりとした眼で見ている。




 ――――このぼんやりとしているトールが、元の世界でタイノブラウ大陸西部小国ローテンリッツ公国が生み出した戦闘の天才であることは誰も思わない事だろう。

 攻撃に関する幅広いアイデアを持ち、それを実戦する技術にも優れており、

 その戦闘能力の高さから、タイノブラウ大陸近隣諸国の軍や傭兵関係者を震え上がらせているとは―――――。

 高速・抵抗力特殊工作員から成る、ローテンリッツ公国陸軍特殊部隊「ネルガル」に所属し、その最高の中でも飛び抜けて重火器の戦闘射撃や早撃ち技術を持ち、爆薬を扱え扱えさせればタイノブラウ大陸では並ぶものはいない黄金の指を持っている。




 トールが元所属していた「ネルガル」は、国王の密命でしか動かせない部隊だけでもあり、また、どのような任務を行っているのかは現在でもなお極秘扱いなため、世間には情報公開はされてはいない。

 所属していた数年の間、タイノブラウ大陸各地で隠密作戦に携わってはいたが、

 全てが非合法工作だ。

 具体的に言えば、マルフビィナス王国及び同盟国への非合法作戦、捕虜の情報収集や救出、国益に悪影響を及ぼす可能性があるマルフビィナス王国、同盟国要人の誘拐・暗殺といった純粋な軍事作戦とは異なる軍事活動を公には出来ない任務を

 行なっていた。




 小国ローテンリッツ公国と大国マルフビィナス連邦戦役を契機に、諜報機関の非合法特殊作戦支援隊「アングライファー・リスティヒ」で働いた。

 それについて知っている少数の者にとっては、「特殊愚連隊」と呼んでいる。

 非合法特殊作戦支援隊「アングライファー・リスティヒ」は、ローテンリッツ公国内で、ローテンリッツ公国陸軍特殊部隊「ネルガル」と並ぶ最高の殺戮部隊だ。

 数多の非合法工作での活躍により、ローテンリッツ公国正規軍や近隣諸国から

「ローテンリッツの死神」と呼称されているトールの戦闘能力なら、ラインヴァルトとは互角以上だ。




 その呼称された名を近隣諸国に轟かせたのは、小国ローテンリッツ公国と大国

マルフビィナス連邦戦役の中で、両陣営が直面した幾つもの激烈な市街戦や連邦後方地域での妨害工作、連邦側の要人暗殺などが上げられる。

 この戦役では、大国マルフビィナス連邦側は正規軍と雇った傭兵団を合わせて

 2万6千人を超える戦死者を出している。

 列強国の一つに数えられるマルフビィナス連邦が、小国ローテンリッツ公国に翻弄された事にマルフビィナスは非常に大きな衝撃を受けており、戦役終結後も未だに正規軍やこの戦役にマルフビィナス連邦側に加担した傭兵関係者には―――――、

「トール・クルーガ」の名は禁句である。

 例え、ぼんやりとした眼で興味深そうに辺りを見渡していてもである。



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