「(トール、おれはあの特殊個体を含めて、全て一掃する)」
丘との間に広がる平地まで戻ったラインヴァルトとトールは、そこで脚を止めなくてはならない状況に遭遇した。
数百メートル先に、来る時には姿も気配もなかった十体ほどの「鬼獣」の姿があった。
その十体の中で、この世界に来てからまだ見た事もない「鬼獣」の姿もあった。
見た事も遭遇したこともない「鬼獣」は、濡れた様に黒く、光の加減では玉虫色の複雑な光を放ちながら巨大な鱗を全身で覆っていた。
爛れた様に赤い頸、灰色の頭、そして眉間からラフレシアの華のような白い複雑な斑点を散りばめている。
――――まごうかたき特殊個体の「鬼獣」だ。
その特殊個体の前では、他の「鬼獣」などにでもいるありきたりな「鬼獣」でしかないため、また、本能的に逃げ切れるかどうかわからないため――――ラインヴァルトは渋々
交戦することに意識を切り替えた。
「(トール、おれはあの特殊個体を含めて、全て一掃する)」
ラインヴァルトは、短く告げる。
「(じゃあ、俺は周囲の警戒します)」
トールも、この特殊個体を視界に捉えて、交戦することに意識を切り替えたのか、
そう静かに応えた。
――――特殊個体の「鬼獣」は、見た限り、元の世界からすればカテゴリーレベル2以上に分類すると、この二人は判断を下したのだ。
そのクラス以上になれば、逃げるよりは交戦する方がまだ生存率が上がる可能性が
ある。
ラインヴァルトは、片腕を前にゆっくりと伸ばす。
ちりちりと焦げるような電流が空間一帯に広がり、空間に歪みが発生した。
空間が陽炎のように揺れて弾けぶれるような残像が、一つの物質を結像させて一丁の大型狙撃銃が出現した。
全長1168.0㎜、口径12.7㎜、重量11.80㎏、装弾数10発、使用弾薬
特殊魔呪殺式を使用――――。
それは、ラインヴァルトとトールのいる世界で、アディガリア大陸の列強国ヴァルバルド帝国に本拠を置く銃器メーカー「ヘルメウ」が開発・製造している主力商品の特殊
狙撃銃だ。
古代冒険者時代までは軍事目的で開発されいたが、新冒険者時代が開幕してからは、
利益を上げるため、冒険者が1人で運用できる重量や操作性と火力の両立を目指すために開発・製造販売が開始された。
軍事用の焼夷弾、徹甲弾、炸裂弾の他、冒険者用には、特殊攻撃魔術アルテマ式徹甲弾、同系統製造のラグナロク式爆裂弾、実態を持たない魔物類にも傷を負わせる事が可能な、高度特殊魔術ライフスティールと処女の血で製造開発された魔呪殺弾が市場に出回っている。
今、ラインヴァルトが召喚(?)した大型狙撃銃は、銃器メーカー「ヘルメウ」が開発・製造販売している商品より段違いでありより優れている。
ラインヴァルトは、素早く座射の構えをとり、安全装置を外す。
クロス・ヘアの十字の中心に小さな黒点がついた照準器を通して、特殊個体の「鬼獣」を狙ってみる。
照準器を通して覗くと、特殊個体の「鬼獣」が映し出されていた。
照準器の十字の中心のドットは、その「鬼獣」の眉間に重なっているが、小刻みに振動すらもしていない。
また、その大型狙撃銃には消音器が装着されているが、この消音器も一般市場に出回っている品物より断然優れている。
特殊個体の「鬼獣」が辺りを見渡し、ゆっくりと歩きだそうとした時――――。
ラインヴァルトは、躊躇わずそっと引鉄を絞った。
銃声と光、そして激しい反動も起こらず、大型狙撃銃は小さく囁いた。
その大型狙撃銃からは空薬莢すら吐き出される事もなかった。
空気を裂き、飛翔した銃弾は特殊個体の「鬼獣」を貫き、後方に弾き飛ばした。
その「鬼獣」の貌の上半分は眼球を含めて消失し、鼻の下からわずかに残った貌から、バケツの水を零す様に血が流れ落ちている。
特殊個体の「鬼獣」を突然殺された「鬼獣」らは、茫然と立ちすくんだり、腰を抜かしている姿が、照準器に映し出されていた。
大型狙撃銃はそれから九回囁き、「鬼獣」の群れを深い眠りにつかせた。




