「( やっと発見したな)」
薄日さえ差さない低く厚い雲に覆われ淀んだ空気を、わずかに拡散させるかの
ように、時折り拭吹く風が低木の葉をゆらす。
ラインヴァルトとトールは、いつ追いつくもわからない「鬼獣」集団の
気配に注意を注ぎながら移動を続ける。
ラインヴァルトは、頭の中ではこの異世界での冒険者としての次の展開に
考えを巡らしていた。
この異世界で、本格的に「特殊能力」をフルに活動すれば、間違いなく異常繁殖
している「鬼獣」と呼称される魔物を一掃することは、そう難しい事ではない。
飛龍の鱗すら貫く事が可能な対物狙撃銃、魔王や魔神と呼称される魔物を吹き飛ばせる携帯用ロケット兵器、千体以上の魔物群れに囲まれても薙ぎ払う事が可能な
重機関銃・・・・、そしてその銃弾の物量は、ラインヴァルトにかかれば押し寄せる大河の流れだ。
この世界に棲息しなおかつ知性のある魔物は、その押し寄せる銃弾の流れに
恐怖と憂いを浮かべる事だろう。
ラインヴァルトの「特殊能力」で、この異世界の魔物と人間種族とのパワー
バランスを激変させる事も可能ではない。
そこに、ラインヴァルトも一目置いているトールの「特殊能力」が加わるとなれば・・・・。
異世界でその源流を支配する者となれば、それは言うまでもなくラインヴァルト自身だ。
無数の銃器類と爆薬で出来た大河の流れを意のままに操り、それに堂々と
君臨し、それをさらに大きなビジネスへと繋げる事も可能だ。
はたしてその先はいったい何が待っているのか、ラインヴァルト自身がぼんやりとした予想では、一時的にも莫大な富を得たとしても、その先は間違いなく碌でもない事だけが待っている事だけは予想が出来た。
ラインヴァルトの様な性格ではなく、もしくは人並みの以上の欲を
持つ者なら、この様な可能性に気づけば、密やかな興奮が込み上げてくる
事だろう。
だが、ラインヴァルトには、その様な興奮は込み上げてはこなかった。
「(どう考えても、厄介すぎる展開しか思い浮かばねえな)」
ラインヴァルトは、そう思った。
連合警備隊冒険者管理局職員に入職する前の職業―――傭兵として、幾多の
戦場で学んだ事と傭兵士官学校で叩き込まれた戦場技術が、ラインヴァルトに
とっては全てだ。
召喚できる幾多の銃器とトールが召喚する異次元的な超高性能爆薬をいかに
して、完璧な販売オペレーションを考える事なぞ、教え込まれた記憶などない。
さほど長くない時間の経過があった。
風のざわめきとは違う気配に、ラインヴァルトとトールはより一層警戒した。
断続的に低く唸るような鳴き声が聞こえてくる。
「( やっと発見したな)」
ラインヴァルトが小声で告げる。
「(ですね・・・)」
トールも、小声で応える。
2人の視界に、ゆっくりと蠢く黒影が見えた。
正確な数はわからないが、少なくとも八十体ぐいらいの群れだ。
その中に、四メートル前後で肌は緑色で、右腕に薄茶色の白い線が
入っている「鬼獣」の姿があるのを見た。
ラインヴァルトは群れの中で、その変わった「鬼獣」が群れのリーダー各だろうと判断した。
蠢く「鬼獣」の集団は、さらに西に向けて移動している様だった。
「(さて、どうします?)」
トールが小声で尋ねてくる。
「(とりあえず写真を撮って、帰るぞ)」
ラインヴァルトは、懐から手の平サイズのコンパクトな特殊魔道携帯端末機「ゲートキーパー」を取り出し、相変わらず慣れない手つきで画面を触って操作を続けながら小声で応える。
「(・・・やっぱ、交戦しないんですか?)」
トールは、少し不満そうな表情を浮かべながら小声で尋ねる。
「(ランクEの冒険者が、あんな特殊個体が率いる群れを殲滅するのはまずいだろ?)」
蠢く「鬼獣」の群れに、「ゲートキーパー」を翳しながら、小声で応える。
ごく小さく写真を撮った様な音が鳴り、画面には「鬼獣」の群れが映し出されていた。




