「(やはり、ここも無防備か・・・俺には馴染めんな)」
ラインヴァルトとトールは高度補助魔術を唱えて移動したために、本来なら四時間ほどかかる距離を、約二時間ほど短縮させてテオラギ村に到着した。
幸いにも、道中では「鬼獣」類の魔物とは遭遇しなかった。
2人は、テオラギ村に入るとその光景に思わず立ち止まった。
村の脇を流れる川辺からは、洗濯物をする若い女たちの和やかな歌声、村中を駆け回ってはしゃぐ子供たちの笑み、野菜類を栽培している畑では大人達が忙しそうに畑の世話をしている光景ーーー
村の家々はどこも低い石垣で周囲をしっかりと固め、敷地内に物置小屋、作業小屋、そして家畜小屋を備えているのが見えた。
その光景は人間種族しかいない事を覗けば、2人には古代冒険者時代の
のどかな農村の光景なため、何処か懐かしさを覚える光景だった。
元の現世界なら人間種族の他に、ドワーフ、エルフ、ホビット、フェアリー、
フェルパー、ラウルフ、ムーク、リザードマン、ダークエルフ、シャドウエルフ、各種の混血種族が生活をしているのが、2人がいる現世界だ。
人間種族しか生活していない光景は、2人に取ってはどうしても馴染める光景ではない。
トールは、その光景が楽しいらしく笑顔で村の様子を見ながら、出会った人々に挨拶をするが、もちろん人間種族以外の異種族が存在しないための違和感は感じている。
ラインヴァルトは周囲にさりげなく視線を走らせてつぶさに観察していく。
戦闘時の遮蔽物の有無と脱出路、そして特殊魔術結界などが施されているのかの目視による観察をしているのだ。
だが、どう見てもどう感じても特殊魔術結界などに関しては何も施されている様子はなかった。
「(やはり、ここも無防備か・・・俺には馴染めんな)」
ラインヴァルトはそう思いながら、この村の村長宅へと向かって歩いていく。
元の現世界では、このようなのどかな農村にも特殊魔術結界を施している
ため、ラインヴァルトとトールからすれば無防備に見えてしまう。
村長宅は、村人の家よりも少し大きめの家だったために、特に迷う事もなく辿り着いた。
「こんにちは、「スクリトリア」の冒険者ギルドで「鬼獣」調査を引き受けた、
冒険者のラインヴァルトです。隣にいるのは同じ冒険者のトール、テオラギ村の村長さんはご在宅でしょうか?」
ラインヴァルトは、風貌からは想像できない物腰の柔らかい口調で尋ねた。
「これはご丁寧に・・・、私がテオラギ村の村長をしておりますセベアデです」
ひょろっと背が高く、緩く癖のある灰色がかった柔らかな茶色の髪で、項を隠す程度の長さの男性村長は、風貌からは想像できない物腰の柔らかい口調のラインヴァルトに少し驚きながら、挨拶を交わす。
「どうも、冒険者のトールです」
親しみを覚えそうな口調と笑顔を浮かべながら、トールも挨拶をした。
村長からの簡単な聞き取りを終えるとラインヴァルトとトールは、テオラギ村の猟師が「鬼獣」らしき群れの足跡を発見した目的地へと向かうため、行動を起こした。
場所は、テオラギ村の西側に走る街道を進み、川に掛けられた橋から約三百メーター先の森だ。
「無理はなされぬように」
村長が告げてくる。
「それでは、早速いってきます」
ラインヴァルトは、柔らかい口調で応えた。
その横ではラインヴァルトの喋り方と口調が、面白いのか必死に笑いを噛みしめていた。
後で、軽く頭を叩かれるとは知らずに・・・・。




