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「それを言うなら、ハンサムな娘さんって言うんだよ」

「依頼完了の手続きを頼む。トール」

 両開きの押し戸を開けて、ゆっくりと冒険者ギルド内に入るなり、ラインヴァルトはトールにそう告げる。

「ラインヴァルトさん好みのハンサムな御嬢さんが受付嬢しているんですから、面倒腐らずに来てください」

 トールは、にや…と口元に笑みを浮かべながら応えると受付カウンターの方に歩いていく。

「それを言うなら、ハンサムな娘さんって言うんだよ」

 ラインヴァルトが告げると、渋々ながらトールの後を追いながらギルド内をさり気に観察する。

「ハンサムな娘」と言ったが、これはラインヴァルトが元いた職場の世界、つまり傭兵業界では女性に対して、

 最大級の褒め言葉である。

 左手奥の複数存在している5~6人囲める木製のテーブルとバーカウンターには、幾多の屈強な冒険者達が食事をしている姿が見えた。

 また、その中には商人らしき者が幾人が混じっているのも見える。

 その様子を見て、ラインヴァルトは思わず笑みを浮かべそうになった。

「(本当に古代冒険者時代を彷彿とさせるな、この世界は)」

 ラインヴァルトはそう思った。

 屈強な冒険者たちの中に混じっている商人達は、ラインヴァルトやトールがいる世界ではほとんど見かけなくなった、常に上を目指し、現状に満足せず一獲千金を夢見るハングリー精神の商人だ。




 受付カウンターに付くと、受付嬢にギルドカードを提示して何の問題もなく完了の手続きを終えた。

 受付嬢は、依頼手続き及び冒険者登録手続きをしてくれた受付嬢とは違った。

 長い黒髪、牝豹のように精悍な身体で、褐色肌に近く陽焼けした肌、貌の方も南方系の様に情熱的だ。

 男の冒険者にとっては、むしゃぶりつきたい事は間違いない。

「依頼達成です、お疲れ様でした」

 受付嬢が営業スマイルを浮かべなが告げてくる。

「どうも」

 ラインヴァルトは短く応えると薬草採取依頼料銅貨6ナハルを受け取って、巨大な掲示板がある方向へ歩いていく。

「(そんなそっけい返答はないですよ、もっとこう、情熱的に口説いたりとか)」

 同じように付いてきた、トールが小声で告げてくる。

「(俺が情熱的に口説いたのは、学生時代に惚れた女と死んだ妻だけさ)」

 ラインヴァルトが同じように小声で応え終えると同時に、巨大な掲示板の前に辿り着いた。

 掲示板の前には、複数の冒険者が張り紙を見ている。

 何人かは、ラインヴァルトとトールの方を一瞥だけしたが、それ以上の事は何もしてこない。

「何か受けますか?」

 トールが尋ねてくる。

「・・・・受けるのは明日にして、あの宿屋に帰るぞ」

 ラインヴァルトはそう応える。





 ギルドから出たラインヴァルトとトールは、この別世界に来て最初に泊った簡易宿所へと向かった。

「娼館なら、反対方向にあるらしいですよ」

 その途中で、普通の会話をするような口調でそう告げてくる。

 恐らくその情報は「鬼獣」の頸を金との交換手続き中に、トールがこの世界の冒険者とのコミュニケーションを

 していた時に手に入れたのだろう。

「愛情も何もないファックは、俺に取っては苦痛だ、それとそれほど女にも飢えてもいない」

 ラインヴァルトも、普段通りの口調で応える。

 簡易宿所の建物内に入ると、堪らないほどいい匂いが充満していた。

 漸く店内を見渡し空いているテーブル席は無いかと見渡したが、空席だったのはカウンター席だけだった。

 カウンター内には、無精髭だが貌だちは堀が深く、左右に前に流して緩い波をうつ黒髪を肩程伸ばした店主が見えた。

 空席のカウンター席に向かい、腰を下ろすとラインヴァルトが店主に声をかけた。

「すいません、適当になんか食べるものを」

 風貌と懸け離れた物腰の柔らかい口調のラインヴァルトが以外だったのか、店主は危うく水を注ぎ込んでいたコップを落としそうになった。

 その様子を見て、トールは必死に笑わない様に我慢している。

 ラインヴァルトの方は、一瞬だけ不機嫌な表情だけを浮かべた。




「(―――で、次は討伐系をメインにしますか?)」

 コップに注がれている水を喉に流し込みながらトールは小声で尋ねてくる

「(そうだな、見た所、この世界は「鬼獣」なる魔物が大量繁殖してかなりヤバいみたいだしな)」

 ラインヴァルトは応えながら、同じくコップに注がれている水を喉に流し込む。

「(その影響なんでしょうね、他の討伐系の依頼は夥しいほど掲示されてますが、この世界の冒険者は誰も

 引き受けていない様ですし)」

 トールが小声で応えた。

 ラインヴァルトがさらに小声で何か言おうとした時、眼の前に料理が置かれていく。

 野菜スープやサラダと、この世界の丼料理が出てきた。

 豚肉のロースやヒレのスライスを、パン粉をまぶした衣で揚げて調理し、鶏卵とじにした具を丼飯の上にのせた

 丼料理だ。

 トールはスプーンに手を伸ばしてから、スープを喉に流し込んでいく。

 ラインヴァルトは、丼料理に手をつける。

 丼料理の卵はぼそぼそとタマネギにからまっているが水分はなく、衣にはさくっとした食感だけが残った。

 元の世界でも、思わず唸る美味さの料理にはラインヴァルトもトールも出会えなかった。



 その食事姿は見ていて店主は、一瞬だけ物珍しい者でも見る様な表情を浮かべる。

「(この二人は、美味そうに食事をするな)」

 と思った。

 そしてもう一つ店主が感じた事があった。

 最初にこの二人がやってきた時、この二人が只者ではないと本能的に感じ取った。

 長年冒険者や旅人相手に商売していると、自然と培われる直感だ。

 ポートリシャスという、店主でも聞いたことのない国からやってきたと言っていたが、その国でこの二人は、

 一体どのような生活をしていたのか、店主は若干気になった。

 堅気の様な生活をしていた様には、その雰囲気からは絶対にありえないからである。







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