「まだここに来たばかりで、初の冒険者としての仕事を終えたんだ。今回だけはさっさと帰るぞ」
未知の魔物との遭遇から、まもなくして2人は鬱蒼とした雰囲気の雑木林を抜けていた。
トールは、大型で丈夫な麻袋を担いでいた。
その麻袋は、元の世界から持ってきてた代物だが、元々の丈夫なそれに特殊魔術を施しているため、より丈夫で持ち運びを楽にしているためか、どんなに重い物を入れても羽でも持っているぐらいの重みしかならない。
この世界でも、麻袋はあるかもしれないが、そんな特殊魔術などを施している様な事はないだろう。
その特殊魔術を施した麻袋には、撃退した「鬼獣」の頸が詰め込まれている。
「高度補助魔術を唱えて、さっさと「スクルトリア」に戻るぞ」
ラインヴァルトは汗まみれになっていたため、「特殊四次元道具袋」から取り出したタオルで汗を拭いながら告げる。
「そんなに急がなくてもいいじゃないですか、ゆっくり帰りましょうよ」
トールが、何処か不満そうな表情を浮かべながら応える。
そう何度も異世界へは来れないと思っているためか、もう少し異世界の情景などを見ながら帰りたいのだろう。
「さっき遭遇した魔物や「鬼獣」がいつまた現れるかわからねぇのにか?」
ラインヴァルトがそう尋ねるが、トールは不満な表情を浮かべたまま応えない。
「まだここに来たばかりで、初の冒険者としての仕事を終えたんだ。今回だけはさっさと帰るぞ」
ラインヴァルトが、不満な表情を浮かべているトールに告げる。
「今回だけとは、それはいったい・・・」
トールが尋ねようとするが、ラインヴァルトは補助魔術の詠唱を唱え始めていた。
詠唱が終わると同時に、ラインヴァルトとトールの身体に大気中の水蒸気が昇華して出来る、ダイヤモンドダストと誤解をしてしまいそうな ごく小さな光の結晶が振り注いだ。
2人は、普段以上に身体が軽くなった事を実感した。
――――ラインヴァルトは、元々から超自然的、神がかり的な力による現象を起こす魔術などが使えたわけではない。
2人のいた世界では、魔術の習得、儀式、手段、また学究的身体的修練などは魔術学校で習うしかない。
傭兵士官学校では、実際の戦場で生き残れる傭兵式戦闘学力主義を知識として叩き込まれたが、冒険者などの
攻撃魔術、補助魔術、古代用語語学解読訓練、迷宮・遺跡内の座学などは教えられてはいない。
ラインヴァルトがそれらの知識を叩き込まれたのは、「連合警備隊冒険者管理局特殊訓練」からだ。
そこでは、一般の冒険者の知っている知識ではなく、連合警備隊冒険者管理局職員型の知識だった。
それは連合警備隊冒険者管理局が産声を上げてから、ラインヴァルトがこの世に生を受けるまでの、先人たちが命を代償にしてまで経験した迷宮・遺跡内の冒険者管理局式生存座学と、冒険者管理局式魔術知識だ。
ラインヴァルトにとっては、それらの知識は非常に衝撃的であり、その最先端な知識と技術を効率よく教育してくれる連合警備隊冒険者管理局に畏敬の念を抱いた。
ラインヴァルトは魔術関連と冒険者関連の知識はほぼ素人の域を出なかったため、ある分厚い三冊の本を手渡された。
辞典の様に分厚い本の中身は、魔術に興味のない一般人にもわかるように、初級から上級まで女性や子供が喜びそうな可愛らしい挿し絵と理解できるような分かりやすい説明で書かれている。
読んでいるだけでも、楽しく夢中になれる本だ。
そのため、冒険者や魔術などを志す者にとっては、かなり不名誉に値する本だ。
また、その本で理解も習得も出来ないとなれば、その人物は冒険者にも魔術師にも向いていないという事になる。
これ以上分かりやすく覚えやすく、また覚えればすぐに習得し使える本は、
2人がいた元のいた世界では存在していない。
だが、その様な物が一般市場に出回っていたら誰彼でも魔術を習得するだろうし、古代用語語学解読をする者もでる。
それが良い行為に使えば問題はないが、悪用されたりしたら、ただでさえ複雑怪奇な世界情勢な世界がより一層険しい世界になる。
しかし、その点は安心しても良いかもしれない。
なぜなら、市場には出回ってはいない本であり、連合警備隊冒険者管理局訓練生で魔術の理解と習得が遅く、
古代用語語学解読もままならない訓練生にしか渡されない本だからだ。
ラインヴァルトは、拭いきれない屈辱感も抵抗感にも苛まれる事もなく渡された本を受け取った。
「今日からあなたも魔術が使える!、ウーパールパー大先生による超簡単、楽しい魔術習得練習講座」、
「これを読めば明日からあなたも立派な冒険者!、大冒険者ジョン・ランボゥ師範による愉快痛快な古代用語語学講座」、
「~~「トラップの解除が面倒」、「別にホビット族じゃないし」という思いが、あなたの冒険者ライフを邪魔をする。では、何が必要か?、トラップ解除知識でしょ?~~、大盗賊王ロンメル先生による冒険者の冒険者による冒険者のための解除知識全集―――、これを読めはもうあなたはホビット族に馬鹿にされない」
それぞれの本に登場するキャラクターによる多彩な説明方法は注目である。
特にラインヴァルトが個人的に気に入っているのは、ジョン・ランボゥ師範と弟子のメイトリックスとの絶妙なやり取りは気に入っている。
その渡された分厚い三冊の本を手元に、ラインヴァルトが鬼気迫る飲み込みの速さで学習していく姿に、魔術担当教官と古代用語語学担当教官、並びに恥も外見も完全無視して、せがむ様に教えを乞うた同僚のクラウディアとエレーナを言い表しがたい恐怖と不安に誘った。
ラインヴァルトとトールは、石や硬い砂で舗装された街道に出ると、一瞬だけ脚を止めた。
来るときは見かけなかった、「鬼獣」の姿を視界に捉えたからだ。
距離的には200mほど離れているが、短距離走選手並みの全力疾走で向かってくるのであれば、おちおちしていられない。
数十匹以上いるのが見えた。
めくれ上がった唇からは、涎のような糸が引き赤黒いものが混じっている。
「殲滅しますか?」
トールが尋ねてくる。
「これ以上頸を持っていったら、不審に思われるだけだろ」
ラインヴァルトはそう告げると、「スクルトリア」に向けて走り出す。
その速さは、高度補助魔術を唱えているため、従来以上の速さだった。




