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「俺は、別に欲しくもないけどな」

 襲いかかってきた蛇をいとも簡単に始末を終えたラインヴァルトとトールは、他に害敵がいないか周囲を

 警戒する。

「俺が薬草の採取します」

 トールが告げてくる。

「20束で良いからな。それ以上もそれ以下でもない」

 警戒しながら、茂みを深く掻き分けて脚を踏み入れていくトールに告げる。

 トールは、返事の代わりに右手を軽く上げる。

 数十分後、トールは依頼の薬草を二十束をきっちりと採取してきた。

「薬草二十束採取終えましたよ―――」

 トールがラインヴァルトにそう告げようとしたが、途中で言葉を呑み込んだ。

 茂みからガサガサという音と共に、この世界に来て初めて遭遇した「鬼獣」と呼ばれる魔物が姿を現したからだ。

 今姿を現した「鬼獣」は、身長三メートル前後、身につけているのは、同じように獣の生皮一つ、手には粗末な

 剣や使い続けられ、途中で折れているひのきの棒、錆びた鎌や鉈などを握っている。

 その数、ざっと三十体―――。




「――――討伐依頼は受けてないんだが、どうするトール?」

 ラインヴァルトが尋ねる。

「証拠品として、頸を持って帰ればいいんですよ。一体につき銅貨10ナハルです」

 トールは応えた。

 ラインヴァルトは口元に笑みを浮かべて、右手を前に伸ばす。

 以前に唱えた詠唱を素早く唱えると、付近の空間に歪みが発生した。

 ちりちりと焦げるような電流が空間一帯に広がると、空間が陽炎のように揺れて弾けた。

 ぶれるような残像が、一つの物質を結像させるまで一瞬の時間もかからない。

 現れた物は―――――、装弾数15発の銀色の自動拳銃だ。

 2人がいた元の世界では、トリールハイト大陸西部レイズホールド共和国正規軍の正式拳銃に指定されており、

 各国の軍や冒険者市場でも非常に人気な、優れた自動拳銃である。

 最初の時に、銃を召喚しなかったのも、恐らくラインヴァルトが人目を気にしたのと、この世界に銃器類が存在しているのかどうかもわからなかったためだ。




 幸い、今はトール以外に人はいないため、何も自重する事は何もないために、銃を召喚したのだ。

 それでも、念のためなのか、召喚した自動拳銃の先端には銃の発射音と閃光を軽減するための筒状の装置、サプレッサーを取り付けている。

 先端に取り付けているそのサプレッサーは、2人がいた世界の市場に出回っている代物とはまったく違う代物だ。

 高度特殊魔術錬成方式で製造された特殊なサプレッサーであり、発射音を全て消去する事が出来き連射速度も90%も上昇し、熱も完全に遮断する事が出来る。

 自動拳銃の安全装置を外し、照準を「鬼獣」に向ける。

 トールも無言で、短刀を握り身構える。

 ラインヴァルトは「鬼獣」に向け引き金を絞ると、自動拳銃は小さく囁いた。

 銃弾が四体の「鬼獣」のボディを貫き、苦悶の叫びをあげる。

 残り二十六体の鬼獣」が、状況を把握し飛びかかろうと向かってくるが、自動拳銃が吐き出す銃弾の餌食になる。

 精確無比な射撃は、二十六体の「鬼獣」の両手両足を撃ち抜き、次に腹、胸、喉の順で撃ち抜いていく。

 その間に弾倉を抜き捨て、新しい弾倉を装填を一度も行っていない。

 空薬莢もなく、銃身も熱くなっている気配がない。

 だが、それでも二十六体中、三体が身を低くしてジクザクを描きながら、

 陸上短距離走選手を彷彿させる様な速さで向かってくる。

 ラインヴァルトの表情が一瞬だけ、険しくなった。

 ラインヴァルトの後ろでは、トールが静かに詠唱らしきものを唱えていた。




「(我に授けられし力は    聖なる力なり

 我は授けられし聖なる力で  この世の常闇を照らすなり 

 死と破滅 いかなる悪魔 いかなる鬼神 いかなる古今無双の

 英雄でも  我を妨げはしない

 皆が怯むとも拳を握り締め 憎悪と禁圧を乗り越え邁進し 逃げ場無き 

 狂乱の戦儀場へと進み行くのみ 

 我は 憎悪にも驚かず、死も恐れはしない 

 名誉と魂  そして信念にかけて  闘争の勝利を追い続ける者なり)」

 二十メートル手前まで向かってきた三体の「鬼獣」は、地面を踏んだ時足の踝やすねを爆風で吹き飛される。

 三体の「鬼獣」は、魂が削られるような断末魔を叫びながら、のたうち回る。

「良い所は、全部ラインヴァルトさんに譲ります」

 トールは、そう言いながら口元に笑みを浮かべる。

「俺は、別に欲しくもないけどな」

 ラインヴァルトは短く応える。

 トールは、ラインヴァルトの言葉を聞き終えると、無言で、短刀を握りのたうち回っている「鬼獣」へと向かう。

 三十体の「鬼獣」は、全て血の海に沈んでいる。

 呼吸のたびに、撃ち抜かれた胸や喉の傷口から血が泡と共に零れ出ている。

 ラインヴァルトの射撃なら、「鬼獣」の眉間くらい撃ち抜ける事は可能だが、そうしなかったのは、証拠品として、頸を持って帰らなくてはならないからだろう。

 確認のために検品などをされ、余計な詮索などされたら騒動になりかねない。

 この異世界に銃器などが存在しているのかしていないのかもわからないうちは――――。





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