「・・・・なんか楽しそうだな」
翌日の朝、ラインヴァルトとトールは、冒険者管理局が地下迷宮や遺跡内部で、冒険者遺品回収行動中の
各職員に配給される戦闘糧食を食べ終えた。
連合警備隊冒険者管理局の戦闘糧食は、劣悪な環境の地下迷宮や遺跡内部でも堪え得る保存性と摂取カロリー量の確保を至上目的としている。
ラインヴァルトとトールがいた世界のどの国よりも、保存性に優れまた余計な手間の要らない様に改良されている戦場よりもはるかにストレスの溜まりやすい地下迷宮や遺跡内部は、食事は重要な娯楽なので味の改良もしている。
戦闘糧食は、この異世界へ来る前に渡された「特殊四次元道具袋」の中に、大量に収納されている。
その道具は、冒険者管理局「特殊魔道具製造課」が特殊魔術技術を駆使して製作したものだが、渡されているのは、今の所異世界へとやってきたラインヴァルトとトールだけである。
初めて、配給される戦闘糧食を食べた時ラインヴァルトは、真剣に現役の傭兵時代にも食べたかったと思ったほどの味だった。
困難で危険で紛争地域で最も残酷かつ非情な土地に送り出され、最悪の任務を与えられ続け、また列強国情報機関からによる汚れ仕事を優先的に命じられてきたラインヴァルトには、記憶の限りでは保存性に優れ、また余計な
手間のかからないのは一緒だが、味はかなり不味い戦闘糧食しか支給されなかった記憶しかない。
馬小屋から出で店主に声をかけてから、2人はさっそく薬草採取のために目的の場所に向かった。
石や硬い砂で舗装され道幅は約6mの街道を、最初に来た方角より反対側―――西に向けて歩いていく。
「スクルトリア」から数キロほど離れた所で、黒緑色の葉の雑木林が見えてきた。
「あそこの様だな」
そう言いながら、ラインヴァルトが「ゲートキーパー」を取り出しながら、慣れない手つきで画面を操作しながら告げる。
「では、さっそく、薬草採取を始めましょう!」
トールは、何処か嬉しそうな声で応えてくる。
「・・・・なんか楽しそうだな」
ラインヴァルトは、トールの様子を見て短く応える。
黒緑色の葉の雑木林へと続いている街道は、酷い悪路だった。
二百メーターほど、周囲を警戒しながらゆっくり進んだとき、人1人だけ通れるだけの幅の林道が見えてきた。
通る人が滅多に無いためか、雑草で覆われている。
2人は、雑草を踏みしめて雑木林の中へと歩いていくが、木々の間隔が比較的小さいため鬱蒼とした雰囲気である。
トールは、幅の広い片刃の短刀を握り、ラインヴァルトは、携帯に便利なように特殊魔術機構で柄に刃を格納できる構造の冒険者愛用のフォールディングナイフを握っている。
恐らく、それはベルナルドが用意したものだろうが、ラインヴァルトは、それを飛び出しナイフに改造している。
2人には刃を使う必要があったからだ。
太い蔓がやたら多くて、ラインヴァルトとトールの行く手を阻んでいるからだ。
這いもぐったり、またぎ越えたり出来ない時だけは、ラインヴァルトとトールは、それぞれのナイフを使って蔓を切断する。
二つとも素晴らしいほどの斬れ味である。
二百メーターほど進むうちにの暗褐色の体色をした二匹の蛇が膨らんだ鎌首を引き起こしたのに出くわしたが、
それらは襲ってはこなかった。
やがて、木々の間隔が比較的大きくなり、毒々しい色の小鳥が飛び交うようになった。
その場所は、ちょっとした空地ぐらいの広さだった。
ラインヴァルトが踏み込もうとした時、長さ3mほどの暗褐色のロープ状のものがラインヴァルトの頸に向かって
飛びかかってきた。
ラインヴァルトのナイフが一閃し、頸を切断された蛇の屍は地面に落ちる。
だが、毒歯を剥き出しにした鎌首だけは方向を変えない。
ラインヴァルトは口の中で罵りながらナイフの峰で空中にある鎌首を叩き落とした。
それは木に噛みつく。
勝手に暴れている蛇の胴は、トールが踏みつけている。
再び前進を続けた2人は、ようやく目当ての薬草が生えている場所を見つけたのだが――――脚を止めた。
「―――この世界では、これが普通か?」
ラインヴァルトがナイフを構えながら、トールに尋ねる。
「そんなことはないですよ」
トールが応える。
薬草が生えている場所には、4mほどの暗褐色の蛇が鎌首をもたげ威嚇しながら、4匹近付いて来ている。
移動速度も非常に速い。
見る見るうちに急接近し、4匹の蛇はラインヴァルトとトールに飛びかかってきた。
ラインヴァルトとトールは、落ち着いてナイフが一閃し頸を切断し、方向を変えない毒歯を剥き出しにした鎌首は、全て叩き落とした。