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「乗車賃代わりが、護衛でも構いませんか?」

 トールとラインヴァルトは、魔物との空いていた距離を一気に縮めた。

 ラインヴァルトは、最初に詰め寄った魔物を漆黒の剣で肩口から斬り裂いた。

 勢い良く噴出した血が、ばしゃばしゃとラインヴァルトの身体にかかり、魔物の血生臭さが辺りに漂う。

 さすが元凄腕の傭兵上がりの冒険者管理職員だけあって、見事な剣技だ。

 だが、ラインヴァルトの持っている剣も凄まじい威力である。

 突然のイレギュラーに、呆気に取られた魔物の群れは、肉が斬られ骨が砕かれる音を聞き、仲間の

 血臭を吸って、ようやく反応を示す。

 奇声を発しながら戦闘態勢を取ろうとするが、その一瞬を狙い、トールが低い姿勢で棍棒らしき武器を

 持っている魔物に駆け寄り、恐ろしいほどの正確さで短刀で頸を斬り裂いた。

 頸動脈を斬られた魔物は、鮮血を撒き散らしながら地面に崩れ落ちる。

 力よりも技能を重視した剣技であり、こちらも見事な剣技だが、持っている短刀も凄まじいほどの斬れ味である。




 トールは、脚下に転がり、斬られた場所を両手で押さえている魔物に、まったく表情一つ動かさずに

 心臓を貫く。

 心臓を貫かれた魔物は、ぴくりと痙攣して静かになった。

 魔物の群れは、ラインヴァルトとトールの想像もつかぬ剣技に一瞬の半分の間怯んだ。

 その間隙が、ラインヴァルトの斬撃、トールの跳躍によって埋められる。

 粗末な剣の他に、鉈や古びた短刀、錆びた鎌で攻撃を繰り広げてくる魔物を左に右に躱しながら、

 巧みな剣捌きで確実に仕留めていく、ラインヴァルト。

「確実に止めをさせよっ!!、トール」

 ラインヴァルトは狂った様に剣を振るいながら告げる。

「任せてください!」

 トールは短く応えながら、四体の魔物の頸を斬り裂いていく。

 魔物達の攻撃を、ラインヴァルトと同じように華麗に躱しながらだ。

 かすりもしていない。




 周りを見れば、もうすでに二十体の魔物を斬り倒しているが、それでもあと十体残っている。

 ラインヴァルトが繰り出した一撃は、正面の魔物の頸を斬り飛ばし、横にいた魔物の頭部も両断する。

 残りの魔物の殲滅を終えると、ラインヴァルトは長剣を鞘に戻す。

「全部始末したか?」

 ラインヴァルトが、トールの方に視線を向けながら尋ねる。

「一匹も生きているのはいませんよ」

 トールも短刀を鞘に戻しながら応える。

 馬車の中にいた人々は、2人の凄まじい戦闘に驚愕して貌を歪めている

 颯爽と現れて、瞬く間に魔物を一掃した二人に対しての驚愕だ。

 ラインヴァルトは、トールに一瞥をすると停まっている馬車へと近づいていく。




「怪我はありませんか?」

 驚きのあまり固まっている老人に、貌からは想像できない物腰の柔らかい口調で尋ねる。

 冒険者管理局で習った一般市民に対しての話術スキルだ。

 これならそれほど警戒もされない。

 その様子を一瞥したトールは、地面に横たわっている魔物と辺りを警戒しながら思わず吹き

 出しそうになるのを我慢している。

「ど・・・どうもありがとうございます」

 老人は、その口調で少し警戒を解いたのか、頭を下げて礼を言ってくる。

 馬車に乗っていた、何人かの女子供が、緊張が解けて涙を流すのと、この世界の宗教の神の名前を呟いて

 祈りを捧げているのが見える。

「この近辺は、あんな魔物が良く襲撃してくるのですか?」

 ラインヴァルトが尋ねる。

「ここ数十年、この近辺各地では魔物の襲撃が続発してまして・・・、あなた方は、冒険者ですか?」 

 老人は、ラインヴァルトの服装が、この辺りではあまり見ない服装なためか、物珍しそうに見ながら

 尋ねてくる。




 ラインヴァルトは、どう説明するか、一瞬だけ迷った。

 さすがに、異世界から来ましたとは常識的に言える事はない。

「なかなか物騒な地域なんですね・・・、俺らは、旅の者ですよ。この辺には最近きたばかりで何もわからないのですが、あの魔物はなんて言うんでしょうか?、俺ら見た事ない魔物なんで」

 トールの方は、「よくまぁ、やるもんだ」と若干感心した表情を浮かべている。

「「鬼獣」という魔物ですよ、ここいらの冒険者も結構手を焼いてます、旅の方」

 老人が応えた。

「へぇ、そうなんですか・・・・、あ、最後にお尋ねしたいんですが、この辺りの村か街のある場所を教えて頂く事って出来ますか?」

 ラインヴァルトが、倒した「鬼獣」と評される魔物の死骸を一瞥しながら尋ねる。

 トールの方も、物珍しい表情を浮かべながら、「鬼獣」の死骸を見ている。

「私達は、1日ほど行ったところにある街「スクルトリア」まで向かいます・・。護衛して頂けるなら、

 乗って行かれますか?、徒歩だと3日ほどかかりますよ」

 老人がラインヴァルトを見ながら、尋ねてくる。

 ラインヴァルトは、少し考えてから口元に笑みを浮かべる。

「乗車賃代わりが、護衛でも構いませんか?」

 と応えた。




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