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「お持ち帰りは禁止にきまっているだろうが、ベルナルド」

 錆びついた鍵を使い、先にやってきたベルナルドは、コンパクトで高カロリーを特徴とするスナックバーを咀嚼していた。

 付近は鬱蒼とした密林である。

 ベルナルドが立っているその場所は少し開けているが、整備された道路などはまったく存在などしていない。

 見上げれば、何処までも蒼く広がる空だが、ここが異世界である事が証明される物が存在している。

 ――――太陽が二つあるからだ。

 ラインヴァルトがいる世界では、太陽は一つしか存在していない。

 ベルナルドの付近には、四体の大型の熊の死骸が転がっている。

 恐らくこの森林に棲息している魔物だろう。

 その身体には、幾本もの刀剣が突き刺さっている。

 ほんの少し前に、ベルナルドが襲いかかってきた熊の魔物と戦端を開き、撃退したのだ。

 また、突き刺さっている刀剣類を見れば、商人などは腰を抜かすだろう。

 全ての種類が、名剣、名刀、魔剣と謳われる代物だからだ。

 一般人が、複数の名剣類を保持しているはずもなく、これが、ベルナルド・ライアンズの能力ということだろう。




 そして、もう一つ特徴なのだが、ベルナルドの背広がまったく汚れてもいないと言う事だ。

 一体、どのような戦闘が繰り広げられていたのかは、永遠に謎だろう。

 ベルナルドはスナックバーを口に咥えながら、絶命している熊の魔物の死骸に近づき、しばらく観察する。

 何を思ったのか、右手を前に伸ばす。

 すると、空間に歪みが発生した。

 ちりちりと焦げるような電流が空間一帯に広がり、空間が陽炎のように揺れて弾けた。

 ぶれるような残像が、一つの物質を結像させるまで一瞬の時間もかかっていない。

 現れた物は、狩猟において獲物に止めを刺したり解体作業に用いても壊れない、丈夫なナイフが現れた。

 ベルナルドは、スナックバーを口に咥えたまま、解体作業に取りかかろうとした時――――。

「お持ち帰りは禁止にきまっているだろうが、ベルナルド」

 呆れた声が聞こえてきた。

 ベルナルドは、それに驚いてスナックバーを呑み込んでしまい、おもっきり咽る。

 先ほどのナイフは、すでに手元にはない。

 ようやく、咽終わると、ベルナルドは声が聞こえた方に視線を向ける。

「なるほど、それを選んだのか、ラインヴァルト」

 そう尋ねる。




 そこには、不機嫌な表情を浮かべたままのラインヴァルトが立っていた。

 服装は、無難に黒の上下の軽装に、黒のレザージャケットを羽織り、背中には片手でも扱える漆黒の刀剣を背負っている。

「あんな格好なんかできるわけないだろ?」

 ラインヴァルトが不機嫌に応えた。

「ご機嫌斜めですね、ラインヴァルトさんは」

 動きやすく、音の立てない様に身体にぴったりと合った軽装姿の

 トールが苦笑いを浮かべながら告げる。

「お前は、呑気だなぁ・・・、俺は未だに何がなんだかな感じで、理解できない状態だというのに」

 ラインヴァルトは溜息を吐く。

「ここに来たからには、否応なしに理解をするさ――――空を見上げてみるがいい」

 ベルナルドが掠れた声で告げる。

「あぁ?、空を見上げて―――――――」

 そう告げながら、空を見上げたラインヴァルトは、驚愕のあまり絶句した。

 その様子を見たトールとベルナルドは、口元に笑みを浮かべる。

「驚いてますね。さすがに太陽が二つもあれば、驚くか」

 トールが呑気に言う。




「ラインヴァルトも馬鹿ではないさ、それとも、太陽が二つあるのは幻覚だと思うか?、ラインヴァルト」

 ベルナルドが尋ねる。

 ラインヴァルトは、ベルナルドに視線を戻す。

「・・・・・」

 何かを言おうとしているのたが、何を言ったら良いのかわからないため、沈黙をする。

「ここは、あれだ、「異世界にキター!!、ヒャッハーー!!」と、俺の読んでいる幾つかの作品の

 登場人物の様に、叫べはいいんだぞ、ラインヴァルト」

 ベルナルドが告げる。

「そうですよ、認めれば楽になりますよ、ここは、幻でもなく実際の「異世界」なんですから」

 トールがさらに告げてくる。

「・・・良いだろう、認めてやるよっ、ここがマジで異世界な事は理解はしたが、そんなことは言うつもりはないからな!!」

 ラインヴァルトが怒鳴る様に告げる。

 太陽が二つ存在している事で、「異世界」であることを理解したのだろう。

 もしくは、たんなる問い詰める事などが面倒になったのかも知れないが・・・。

「さて、時間はかかったがラインヴァルトが理解した時点で、2人にはこれを渡しておこう。支部長に頼まれた」

 そう告げながら、手渡したのは特殊魔道携帯端末機「ゲートキーパー」だ。

「あれ、「ゲートキーパー」じゃないですか。これ、ここで使えるのですか?」

 トールが尋ねた。

「・・・こんなのこの異世界とやらには使えないんじゃないのか?」

 2人は、怪訝な表情を浮かべる。




「冒険者管理局「特殊魔道具製造課」が突貫仕事で製作した特別な「ゲートキーパー」だ。まあ、

 トールとラインヴァルトが言うとおり、大方の機能は使えないとは思うが、連絡は取り合える」

 ベルナルドが応えた。

「冒険者管理局「特殊魔道具製造課」は大陸一、出来ないのは人体生命を生み出すだけ・・・でしたっけ」

 トールが、驚きながらそう応える。

「連絡って・・・・連絡取りあえる事が出来るのかよ!、」

 ラインヴァルトも驚きながら聞き返す。

「そうだ。迎えに来るときは、こちらから連絡をする。で、その時は、その座標位置を送ってくれ。

 そちらにゲートを開く。それと、こちらの文字を解読できる機能が付いているから安心していいぞ」

 頷きながら、ベルナルドが応える。

「便利すぎるにも、ほどがあるぜ・・・・「ゲートキーパー」、・・・・聞きたい事がある」

 ラインヴァルトが、ゲートキーパーを見ながら尋ねる。

「―――何をだ?」

 ベルナルドが応える。




「こちらの異世界と俺達の世界の時間の流れは一緒なのか?、それと、「特殊能力」は使ってもいいのか?」

 ラインヴァルトがそう尋ねると、ベルナルドは苦笑いを浮かべる。

「特殊能力」は、 通常の魔術師にはできないことを実現できる力の事だが、超魔術や魔道学における研究が盛んだが、現時点ではどのよう様な方法での明確な覚醒区分の基準が規定されてはいない。

 今更だが、この三人は「特殊能力者」だ。

「浪漫の欠片もない質問だな・・・・一つ目の質問は、ほぼ同じだ。以前、管理局が一度ほどこの付近だけ

 調査したのたが、時間の流れについては問題ない。戻った時に二百年も進んでたみたいな事はない。

 それと「特殊能力」については、「自由判断」との仰せだ。良かったな」

 と応える。

 ラインヴァルトは舌打ちをして、トールは軽く口笛を吹く。

「嬉しくなさそうですね、その様子だと」

 渡されたゲートキーパーを操作しながら、トールが尋ねてきた。

「当たり前だ。「自由判断」って、裏を返せば、面倒くさい判断を自分でしろっていう事だぞ?。

 好き勝手に出来るような能力でもねぇし・・・・、まったく面倒だな」

 ラインヴァルトがそう応える。

「まぁ、ここは異世界ですし、遺跡や迷宮の中じゃないんですから。仕方がないですよ」

 トールが、一通りの操作を流れるように終えて応える。

 ベルナルドは管理局が支給している腕時計を見る。

「さて、そろそろ俺は元の世界に戻る。しばらくトールとラインヴァルトが抜けるから仕事が増えて

 死にそうだ・・・・。それとその魔物を解体をして近くの村で卸したら、資金の足しになるぞ」

 ベルナルドが何処か憂鬱そうな声で応える。




「それを卸すのも解体するのも、全て村か街に行ってからだ。そんな施設があるかどうかもわからねぇだろ?」

 ラインヴァルトが応える。

「ありますよ」

 トールが絶妙なタイミングで話しかけてくる。

「ほう、その根拠は?」

 ラインヴァルトが怪訝な表情を浮かべて尋ねる

「異世界だからですよ」

 トールが応える。

「良く冒険小説では出てくるぞ」

 古びた鍵を使い、出入り(?)した扉の鍵穴に差し込みながらベルナルドが続けて応える。

「・・・・俺がお前らに聞いたのが馬鹿だった・・・・」

 ラインヴァルトは、何とも言えない表情を浮かべながら応える。

「―――クラウディアとエレーナに何か伝言はないか?、ラインヴァルト」

 とベルナルドが尋ねてくる。

 ラインヴァルトが、何かを言おうとして、頭を掻く。

「面倒を掛けるな・・って、伝えておいてくれ。それと帰ったら飯も奢るともな」

 トールとベルナルドは、それを聞いて苦笑いを浮かべる。

「ラインヴァルトさん、それは世間ではデートって言うんですよ?」

 とトールが応える。




「物事がわからない子供ではないんだから・・・、ラインヴァルトよ、もう少し―――」

 とベルナルドが何かを言おうとして

「俺は、デートとか死んだ妻とも碌にしたこともねぇし、結婚前の・・・士官学校時代に付き合っていた

 彼女とも数えるほどしか経験がないんだ・・・・、そんなのとデートなんかしたら迷惑するだろ」

 先にラインヴァルトが告げる。

「ラインヴァルト、結婚していたんだから女心ぐらいは、ある程度はわかってはいるんじゃないのか?」

 とベルナルドが掠れた声で尋ねる。

「だったら、センチメンタルでガラスのハートの元傭兵の事もわかってもらいたいもんさ」

 少しおどける様にラインヴァルトが応える。

「それは笑っていいのか、呆れていいのかわからないですね」

 トールは、反応に困った表情を浮かべた。

「・・・宜しく伝えておくよ。ならば、迎えに来たときにこの世界が気に入ったから、ここに移住するとか言うのは聞かないからな、ラインヴァルト」

 ベルナルドが、口元に笑みを浮かべながら告げてくる。

「言うかよ、俺の生活基盤はそっちにあるんだ。それと、本当に迷惑かけるな、ベルナルド」

 ラインヴァルトが応える。

「俺達の異世界での経験の土産話を期待していてくださいよ、ベルナルドさん」

 トールが応える。

「ラインヴァルト、トール、良い冒険を」

 ベルナルドは、余計な別れの挨拶は不要だと言わんばかりに、そっけない言葉を告げて、元入ってきた

 扉へゆっくりと入っていく。

 それが彼なりの、同僚に対する最上級の別れの挨拶なのだろう。





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