変化の兆し
アリィがやや呆れ気味に呟いて隣を見た。
すると、ライルが、再びその人ごみに突っ込んでいこうとしていた。
「…ちょ、ちょっと待ってライル。」
アリィが慌ててライルの腕を引っ張る。
「ん、どうした?」
「どうしたじゃないでしょ!何またいらん事に首を突っ込もうとしてるの!!」
「えっ?だって、俺警備隊長だし…」
「うぐっ!?」
あまりにもあっさりと返された答えに、思わず絶句する。
その間に、ライルは歩き出す。
「あ、ちょ、ちょっと!!」
「………」
「ちょっと待ちなさいよーー!!」
「あん?なんだよお前!……っと、警備隊長でしたか。」
再び人垣が自然に割れていく。
「すいません。」
アリィはライルに遅れないように必死に後ろからついていく。
「おい!ライル!!」
大声のしたほうを振り向くと、城壁の上からやたら体格のいい男が叫んでいた。
「ねぇ、あれってダグラスじゃない?」
「……そうか?」
「そうよ!ほら、行ってきなさい。副長にあいさつするのも、立派な仕事よ!」
「……わ、分かった。」
アリィは渋るライルの背中を押して急がせる。
「よう!ライル。ちょっと来てくれ!!」
「……分かった」
「私はここで待ってるから」
アリィは、そう言って城壁に続く階段から離れようとする。
「……」
「な、何?」
アリィはライルにがっしりと肩をつかまれている。
「……」
「え?きゃあ!?」
アリィは抵抗するまもなく担ぎ上げられた。
「ちょ、ちょっと!!下ろして!下ろしてよ!」
「……」
「わ、私が、高いとこ苦手なの知ってるでしょ!」
「……」
「黙ってないでなんか言いなさいよ!」
城壁の上では、ダグラスが呆れ顔で待っていた。
「…お前らはいつも通りだな」
「うるさいわよ!」
ようやく下ろしてもらえたアリィは、下をみないようにしながら服を直した。
「で、なにかいつも通りじゃないことがあったのか?」
ライルの声にダグラスも真顔になる。
「まぁ、言うより見た方が早いだろ」
「ん?」
差し出された望遠鏡をのぞき、ダグラスの指す方を見る。
「……何だあれは?」
「ちょっと私にも見せて………え?あれって」
望遠鏡の先には、延々と街道が続き、
その街道に一人の騎士を先頭に鎧で身を固めた兵士の一団が、
帝国の赤い旗を翻して馬を走らせていた。
「帝国が今さら何の用?」
アリィの疑問に、ダグラスは首をすくめた。
「何にしても、すでに帝国領になっているこの街にわざわざ騎士が来るんだ。ただ事じゃないだろう」
「それはそうね、なにかなければこんな辺境にまで来ないもの」
あくまで淡々と言うライルに、アリィは内心溜め息をつきながらも同意した。
「それをわかっていながら、お前らは……」
ダグラスは隠そうともせず、盛大に溜め息をついた。
「な、何よ」
「……」
無言のダグラスの視線の先では、アリィの手がしっかりとライルの服の裾を掴んでいた。
「こ、こ、これは仕方無いじゃない!!」
視線に気づき、アリィは頬を紅潮させて叫ぶ。
「だって、私は高いとこが苦手なのよ!」