過去と現在
「はあ・・・はあ・・はあっ」
雨が降りしきっていたあの日、私が少年に出会った運命の日。
歩き疲れた私はぬかるんだ地面に足を取られ倒れこんだ。
「っ!」
足をくじいたらしく起き上がる事が出来なかった。
「・・・誰か・・・誰か・・・」
無意識に呟いた私の言葉は誰に届く事も無く、雨音に霧散した。
周囲には人影はなく、夕暮れの暗がりが徐々に私に迫ってくる。
まぶたが重くなり、妙なだるさが全身を覆い始める。
意識はもうろうとし、既に手足の感覚は無くなっていた。
コツ・・・コツ・・・コツ
ぼんやりとした視界の端に、誰かが近づいてくるのが見えた。
その人物は私の前で立ち止まり、声をかけて来た。
その言葉は、『大丈夫?』でも、『何処から来たの?』でも無かった。
でも・・・そんな言葉よりも、もっと優しく暖かい温度を持った言葉だった。
そして、内心私が一番聞きたかった言葉でもあった。
「・・・家に来るか。」
その、尋ねられたというより呟かれたというような言葉に私は無意識に頷いていた。
その日の記憶はそこまでだった。
次に目を覚ました時、私は質素な部屋のベットに寝かされていた。
そして、その“少年”が近くの椅子に腰かけて眠っていた。
助けてもらってなんだが、今更ながら馬鹿げたことだと思う。
見ず知らずの人間に一言目に『家に来るか』は無いだろう。
まぁ、それがきっかけでこの少年と行動を共にすることにしたのだが。
「大丈夫か?」
急に声をかけられて我に帰ると、目の前のその“少年”と眼があった。
「ひゃぁっ!!??」
小さく悲鳴をあげて飛び退くと、ライルはもう一度尋ねて来た。
「・・・大丈夫か?」
「う、うん。・・・大丈夫」
そう言うと、再びライルは少女を置いて歩き始めた。
が、すぐに立ち止まると
肩越しに振り返り少女の名を呼んだ。
「・・・アリィ」
急に名前を呼ばれてとぎまぎしながら、アリィはあくまで冷静な表情を取り繕った。
「な、何?」
「いや、朝からどこに行ってたんだ?」
「えっ!?ど、何処にも行ってないよ?」
慌てて手元の紙袋を隠す。
「何処にも行ってない事はないだろ?それに何で疑問形なんだ?」
アリィに歩み寄るライル。
「ちょ、ちょっと買い出しに行ってだけよ。」
それに合わせて後ずさるアリィ。
「買い出し?何を買いに行ったんだ?」
(しまった!墓穴掘ったー!!)
「何でもないって!うん、何でもないの!!」
さらにライルが詰め寄ろうと一歩踏み出した時、突如悲鳴が上がった。