プロローグ
それは混沌に包まれ、
疑念と災いに満ちた世界。
汝は己が信念を貫き、
愛する者を信じる事が出来るか。
混沌の中では、信じる事が出来る者のみに
約束を守る力が授けられる。
(ランドロール王国建国文献冒頭)
……少年よ、力が欲しいか?
【プロローグ】
~始まりの兆し~
「・・・・・朝か。」
飾り付けの無い質素な部屋の中で黒髪の少年
が目を覚ました。
既に窓からは心地よい朝の日差しが差し込んでいる。
開かれた少年の瞳は澄んだ青色をしていた。
その眼差しは、遠くを見ているようで何も見ていないような。
そう、まるで別の次元を見ているような不思議な雰囲気を少年はまとっていた。
極端にいえば、少年の部屋には時間と言う物が存在しないような気さえした。
そして、着替えるために少年はゆっくりと体を起こし始めた。
「痛ったー!?」
黒のシャツに黒のジャケットと、全身を黒で
包んだ少年がドアを開けると1人の少女が尻もちをついていた。
「ちょっと!ドアを開けるときは気をつけなさいって、いつも言ってるじゃない!!」
その黒髪の少女は少年とは対照的に白のチュニックにこれまた白の少し短めのスカートと言った風体だ。
「すまん。大丈夫か?」
少年は真顔のまま、少女に手を差し出した。
「・・・ ・・・」
少女は差しだされた手には目もくれず、その黒い瞳で少年の青い瞳を覗き込んだ。
「ん?どうかしたか?」
「・・・ううん、ありがとっ。」
少年は少女の手をつかんで引っ張り上げると、何もなかったかのように歩き出した。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!!」
スタスタと先を歩く少年の後ろから少女が小走りで追いかける。
「何だ?」
立ち止まって、またも真顔で尋ねる少年に黒髪の少女は大袈裟にため息をついて見せた。
「・・・あんたねぇ、唯一の同居人に挨拶ぐらいしたらどうなのよ。」
「ああ、すまん。」
そう言って素直に頭を下げる少年。
だがそれっきり一向に口を開く気配が無い。
「・・・???」
それどころか首を傾げる始末だ。
「・・・挨拶は?」
「ああ、そうか。」
全く天然と言うかなんというか。
少女は、早くも今日何度目か分からないため息をついた。
「おはよう、アリィ。」
ようやく少年が挨拶をしてきた。
「やっとね。・・・おはよう、ライル。」
毎日変わることのない会話の繰り返し。
その間にも少年は一度も表情を変えない。
それは無表情と言うにはいささか過ぎたものだった。
この少年は昔からそうなのだ。
感情を表にださないというか、感情が無いというか・・・
まるでこの少年の時間だけが世界に取り残されてしまったかのような。
そう、この町で二年前に出会ったときから・・・