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神崎死霊堂  作者: 底抜鍋
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事故物件:前編

どうも、怪談大好き底抜鍋です。


今回の話は創作でありながらも、実際に聞いり調べたりした都市伝説や怪談をふんだんに盛り込んだ作品にしようと思っております。


そしてより質の良い恐怖を提供できるように頑張りたいと思いますb

押し入れの戸の隙間から部屋中に響き渡る何かを刺突するような激しい打音。


それが一定のリズムを刻むように何度も何度も何度も何度も繰り返される。



「なむあみだぶつなむあみだぶつなむあむだぶつなみあむだぶつ」



薄っぺらい敷布団の上で薄っぺらい掛け布団に包まり、俺はもう何を

言っているのかわからない程に知っている限りの念仏を大声で連呼し続けた。


念仏の効果で霊を払い退けようというより、むしろ自分の声で出来るだけ刺突音を

聞こえないように誤魔化そういう勢いで叫び続ける。


布団の中は涙と鼻水と脂汗でぐちゃぐちゃになり、体をガクガクと震わせる度に

それらが体に当たって心底気持ち悪いことこの上ない。



「なんみょうほうれんげえええええええ!!」



何十分何時間経ったかは定かでないが、携帯を見ると午前の3時を回っていた。


どうやら俺は自分の叫び声のせいで押し入れからの刺突音が止んでいた事に

気付いていなかったようだ。


恐怖から解放されたという安心感から、俺は溜息とほぼ同時に薄っぺらい布団を抜け出した。


そして抜けだした矢先、早速後悔をする。


反射的に目を向けてしまったのは、何とも言えぬ不気味なオーラを纏ったその押し入れであった。


中に誰かがいて、突然飛び出して来るのではないかと疑いながらも俺はサッと目線を逸らす。


急いで分厚いコートを羽織って、外に出た後しばらくその辺をぶらついた。



いつからだろう、こんな事が続くようになったのは。





”俺”こと女島康介めじまこうすけは、現在二階建てのボロアパート「コーポ山下」に住む高校2年生である。


自分の選んだ高校が自宅から通うにはとんでもない距離であるため、入学したと同時に安アパートで独り暮らしをする事になり、仕送りとバイトでなんとかやりくりしていった。


それはそれはとても古いアパートで、部屋の真ん中に一晩みかんを置けばたちまちカビが生えてきてしまうのではないかと疑うほどのカビ臭さであった。


確かにおんぼろではあったが、部屋に友達を読んだり休日にはこの部屋でごろごろゲームしたり漫画を読んだり。なんだかんだ言って結構充実していたのかもしれない。


しかし、そんなユルイ生活は2年の始まりと共に早くも崩れ去ったのである。



話を持ちかけたのは俺の母親だった。


今よりもっと良いアパートが今と同じ家賃で借りる事が出来るというのだ。それを聞いた当初の俺はまるで新作ゲームを買ってもらう小学生のような歓喜っぷりだったと友人は語る。


アパートの下見に行った時はもう浮いた心を着地させるのに必死だった。今よりさらに高校に近く、そしてなんと言ってもこの広くキレイな部屋。嗚呼、あふれ出る感動のサブイボが止まらない。



だが今は恐怖と疲労に歪んだサブイボが止まらない。


よく考えてみれば俺や俺の母親のような超ド田舎者が、誰にも相談せずにこんな格安物件を選んでしまったのが悪い。ここまで来れば逆に気持ちが良いほどのザ・自業自得である。


押し入れから騒音が聞こえ始めて今日で1週間が経つ。失敗を悔やむよりもまずこの先の事を考えようと取り組む俺であったが、あまりの申し訳なさが俺を引き止めこの事実を家族に伝える事が躊躇われ、今に至るまで何の改善もされていないのが現実である。




深夜の街は開放的で誰にも捕らわれない自由を感じた。今までが恐怖に隔離され続けていたからそのせいもあるんだろう。


分厚いコートを羽織ってもやはりこの時期のこの時間は寒い。コートの下から入ってくる冷風は恐怖で流した汗と涙を一瞬にして冷水に変えた。


なんだか急に部屋が恋しくなって涙が出てきた。恋しくなったと言っても決してあの幽霊部屋の事じゃない。その前に住んでいたカビ臭くて狭くてボロボロの部屋を思ってだ。


そうだこのまま朝になって帰ったら真っ先に管理人の所へ行こう。そう考えながら独りで頷いた俺は最寄りのコンビニまで疾走した。



これほど明るく、そして暖かい所は久しぶりだ。たかがコンビニ、それが今の俺には極楽浄土に見えると言っても過言ではない。


弁当の陳列棚に一つだけ残っていた生姜焼き弁当とおにぎりをレンジで温めてもらい、ついでに暖かいお茶も2本程買ってコンビニを後にする。コンビニから一歩出ると、来た時よりも数段深い闇が広がっていた。これは目を慣らすのにまた時間がかかりそうだ。



せっかく温めた弁当と暖かい飲み物。これを冷めない内にどこで頬張るとするか、俺は考えながら何処へともなくひたすら歩く。そんな中ふと頭に浮かんだのがここから少し離れた所にある電灯の付いた小屋型のバス停であった。あのバス停は確か24時間電灯が点きっぱなしのはず。


俺は急いでバス停を目指す。



よくよく考えてみればこんな所まで来る必要など無かったんだ。その場で食べていれば冷めない内に食べる事が出来たというのに。本当に俺はどうしようもないバカだった。


ここまで来たのは仕方が無いとして、とりあえずバス停を覗いてみる。



バス停内の全貌が見えたと思った途端、手の力が完全に抜け冷めきった弁当とその他諸々が入ったコンビニ袋を地面に落下させた。


袋とコンクリートがぶつかる衝突音以降しばらく無音の状態が続き、”その人物”と見つめあう。


もしかしてこれは夢の延長線上なのではないか、そうでないとすれば今俺が見ているのは普通の人間には見えてはいけないものじゃあないのか。


そもそもこんな時間にこんな少女がバス停に座っているハズがないのである。



「どうかなされましたか?」


少女はなんとも少女らしい透き通った声で俺に問う。というかそれはこっちが言いたいセリフだ。


俺はたじろぎながらも、目の前にいる少女の形をした未知の物体Xとの交信を続けようと奮起した。



「あ、えっと・・ジロジロ見てごめん。隣いいかな?」


舌がうまく回らず、ぎこちない俺の挙動に対し少女はいかにも不思議そうな顔をしながら小さく頷く。


隣に座ったはいいが、少女の方からこちらに話しかけてくる様子もなく次第に息をするのもおぼつかなくなってしまった。完全な受動型人間である俺にとっては恐ろしく居心地が悪い。


窒息寸前の圧縮空気に耐え切れなくなった俺はとうとう意を決して自分から切り出した。



「あ、その。お茶二つあるんだけどさ、いる?」


俺がそう言うと少女は俺の目をジッと見つめてきた。


その黒い瞳はまるで全てを見通しているような雰囲気である。そして今までにあまり直視出来なかった彼女の全貌を見る事も出来た。


髪は顎辺りまで伸びたショートヘアのストレート。膝あたりまで丈のある茶色のコートを着ており、ひざ下から見える足は黒いタイツを履いている。誰もが羨むような品のある顔立ちで、うちの学校にいれば間違いなく彼女の下駄箱は手紙で一杯になるだろう。


女性に縁のない俺にとってはこんな少女の隣に腰をかけている事さえ奇跡のそれに近かった。もう幽霊だろうがキツネに化かされてようが、それでもいいだろう。


しばらくの間彼女に見惚れていた俺だったが、我に返った途端急に恥ずかしくなって目を逸らした。



「いただいてもよろしいんですか?」



「ど、どうぞどうぞ!冷めちゃっててごめんね」



彼女に渡したお茶はかろうじてまだ温もりが残っていて、暖かいというか生ぬるくて気持ちよく飲めるものでは無かっただろう。そんなお茶を受け取ってくれた事もまた奇跡のそれに近い。


お茶を受け取って間もなく、彼女は何か用事があるらしく行かなくてはならないと話した。


最後に「お茶、ありがとうございます」と言って俺に一礼し、俺の帰り道とは逆の方向に去って行く。



俺は一人バス停の中で、今までの事がはたして本当にあった事なのか、全て夢か幻だったのではかという独り論争を繰り広げながら何度も首をかしげた。そうこうしている内に空は明るくなり、既に日は登り始めていた。



携帯を見ると4時をとっくに回っている。


俺は冷え切った生姜焼き弁当を一気にかきこんだ後、アパートに戻った。

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