三題噺「禁断の恋心」
「はぁはぁ、可愛いなぁ伊勢エビ」
あの赤い甲冑のような肌は艶めかしてくついつい目で追ってしまう。水槽の中を気持よさそうに泳いでいる様がたまらない。なにがいいってもうそのすべてが美しい。
「はぁはぁ、可愛いなぁナマコは」
細長くてうねうねして柔らかそうな肌はついさわりたくなってしまう。あまり水槽の中から出すのはよくないだろうから自重しているが、子供のころは触りすぎてよく怒られてものだ。
「はぁはぁはぁ、可愛いなぁほんとに、海洋生物ってなんでこんなに綺麗なんだろう」
俺みたいな高校生の語彙では表現しきれない、すんばらしい魅力。それに酔いしれるための専用水槽を眺めながら、俺の優雅な時間はすぎていく。
「はぁはぁはぁはぁはぁ」
「ハァー」
しかし俺のはぁはぁタイムは扉の前から聞こえる大きなため息でかき消された。
「ちょっと、お兄ちゃん。またはぁはぁしてるの?」
「はぁはぁってなんだよ。観賞してるだけだろ?」
妹だった。学校から帰ってラフな格好へと着替えたのだろう、髪の毛も外に行くときはロングなのに、今はポニーテイルに括っている。
まったく気づかなかった、こいつが帰ってきているならもう少し考慮するべきだったかもしれない。
だから、
「ほんと、キモイんだけど、この生物」
こうやって突っかかれてしまうのだった。
「いや、しょうがないだろ可愛いから」
「は、可愛くないし、キモいだけだし」
「いやいや見ろよ、この触覚、ふりふりしてて可愛いだろ」
「はぁ、そんなのより私のポニーテイルのが可愛いに決まってんじゃない」
「いやいや見ろよ、この感触、ぷにっぷにやぞ。天然もののナマコやぞ」
「はぁ、そんなのより私の……その、あの……お、おっぱいのがいいし!!」
「ん?」
「ん?」
なんだか、話が変な方向に進んでいるよな気がする。とてつもなく、背徳的というか桃色というか、何この雰囲気。
「ともかく、こんなキモい生物より、私のが可愛いんだから!」
と、言い切ると、妹は俺の部屋から出て行った。
なんとなく背徳的な情景を思い浮かべ、フラグじゃねぇかと一通りニヤニヤしたのちに、ふと気づく。
「っていうか、俺こいつらのが好きだし」
どうやら俺は人間として、家族として道を踏み外さすにすむらしい。
なんてったって、どうみたって、伊勢エビや、なまこのほうが……えろいんだから。
お題、「なまこ、伊勢エビ、背徳感」