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EP 7

世紀末ヒャッハーとハッピー・ドリーム

ポポロ村は、ルナミス帝国、ワイズ皇国、レオンハート獣人王国の三カ国が接する緩衝地帯にある。

それゆえに、どこの国の法も行き届きにくく、時折「勘違いした馬鹿」が流れ着くことがあった。

「ヒャッハー!! 水だ! 食料だ! 金を出せェ! あと女も出せェ!!」

平和な昼下がりのポポロ村に、ひときわ頭の悪そうな雄叫びが響き渡った。

トゲトゲの肩パットに、見事なまでのモヒカン頭。手にはボロボロの剣や棍棒を持った、絵に描いたような世紀末スタイルのごろつき集団である。

彼らは村の広場で威嚇するように武器を振り回し、一番目立つ真新しい建物――『ポポロ亭』へと土足で踏み込んできた。

「おいコラ店主! ここにある金とメシ、全部置いて――」

「…………」

厨房の奥から、リアンがスッと冷たい視線を向けた。

その瞳には、一切の感情がない。かつて帝国の裏社会で数多の命を刈り取ってきた『影の始末屋』の、完全なる仕事プルーフの目である。

(面倒くせぇ……。睡眠薬を打つまでもないな)

リアンはエプロンのポケットから、魔法ポーチに忍ばせていた【ネット通販】製の「玩具のリボルバー(※中身は実弾の.357マグナム弾)」を静かに抜き取った。

撃ち殺した後は、足元の影から『喰丸くうまる』を呼び出して死体も血痕も跡形もなく処理させればいい。証拠隠滅まで含めて、所要時間は三十秒といったところか。

リアンがトリガーに指を掛け、冷徹に照準を合わせた、その瞬間だった。

「まあまあ。リアン様、その必要はありませんわ♡」

ポーン、と。

のんびりとした花が咲くような声と共に、リアンの前にルナが歩み出た。

彼女の手には、ヤンデレ世界樹から授かった神々しい『世界樹の杖』が握られている。

「あァ? なんだこの金髪のねーちゃん! 最高の女じゃねえ――」

モヒカンの男が下品な笑いを浮かべてルナに手を伸ばそうとした刹那、ルナが杖を軽くトン、と床に突いた。

「『ハッピー・ドリーム(幻覚催眠植物)』、展開ですわ」

フワァァァァ……。

杖の先端から、キラキラと輝く淡いピンク色の『謎の粉(胞子)』が大量に噴出され、ごろつき集団の顔面にモロに降り注いだ。

「な、なんだこの粉……ごふっ、げふっ……!?」

粉を吸い込んだごろつきたちの動きが、ピタリと止まった。

そして次の瞬間、彼らの目に異常な変化が起きる。ギラギラしていた瞳孔が限界まで開き、顔筋がだらしなく緩み、口からは滝のようにヨダレが垂れ始めたのだ。

「あ、あへぇ……。か、金だぁぁ……」

「ねーちゃん、最高だぜぇ……デュフ、デュフフフ……酒も美味えぇ……」

ごろつきたちは何もない虚空を抱きしめ、床に転がり、恍惚の表情でニヤニヤと笑い始めた。

ルナの放った粉は、対象者に『絶世の美女に囲まれ、極上の酒を飲み、一生分の金を手に入れた』という都合の良い幻覚(超強力な疑似体験)を脳内に直接叩き込む、極めて危険なオーガニック・ドラッグだったのだ。

「えへへ……もう食えねぇよぉ……大満足だぜぇ……」

ごろつきたちは完全に多幸感に包まれたまま、フラフラとした足取りで、自ら「手ぶら」で村の外へと帰っていく。誰一人傷つくことなく、完璧な平和的(?)解決である。

「…………」

「…………」

「…………」

あまりに鮮やかで、あまりにヤバすぎる撃退法を前に、リアン、キャルル、リーザの三人は、ただただ無言で立ち尽くしていた。

人を殺すことなど造作もないリアンでさえ、(あいつの魔法、俺の暗殺術よりエグくないか……?)と背筋に冷たいものを感じている。

そんな三人のドン引き具合など全く気付いていないルナは、満面の笑みで振り返った。

「ふふっ、綺麗にお掃除できましたわね! あら、皆様もキメますか?」

杖の先からピンクの粉をチラつかせながら、無邪気に首を傾げる天然エルフ。

「「「いえ、結構です!!!!!」」」

最強の暗殺者、最強の村長、最強の寄生アイドル。

ポポロ村の武闘派三人が、かつてないほどの完璧なユニゾンで、全力のツッコミ(と拒絶)を響かせたのだった。

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