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EP 6

銃口剣とピラダイの刺身

ポポロ亭の極上まかない飯を食べているにもかかわらず、限界地下アイドル人魚のリーザの胃袋は常に「飢え」を訴えていた。

帝国の路地裏でパンの耳と茹で卵をかじり、交番の前で謎の反復横跳びをしてカツ丼をせびっていた悲しきサバイバル本能が、彼女を休ませてくれないのだ。

「お腹すいたぁ……。リアン様のお料理は最高だけど、おやつの時間が待ちきれないよぉ……」

ふらふらと村の散歩に出たリーザが辿り着いたのは、ポポロ村の外れにある大きめの池だった。

覗き込むと、水面の下に巨大な魚影がいくつも泳いでいるのが見える。

「あっ! お魚さん! 海中国家シーランの王女である私なら、きっとお魚さんたちも喜んで釣られてくれるはず……!」

彼女が目をつけたのは、村の重要な食料資源である魚型魔獣『ピラダイ』だ。

ピラニア以上に凶暴で鋭い牙を持つ肉食魚だが、その白身は高級魚の鯛を遥かに凌ぐ上品な脂と旨味を持つという、危険と美味が同居した魔獣である。

リーザは木の枝と糸で作った即席の釣り竿に、その辺で摘んだ食べられる雑草をくくりつけ、池にポイッと投げ入れた。

ピチャッ。

「さあ、お魚さん。私に御縁(五円)と命を捧げてちょーだいっ!」

その瞬間、池の水面が爆発した。

「ギシャァァァァァァッ!!」

水柱と共に飛び出してきたのは、リーザの胴体ほどもある巨大なピラダイだった。

雑草など見向きもせず、腹を空かせた人魚そのものを極上のエサと認識し、ノコギリのような牙が並ぶ大口を開けてリーザの頭に喰らいつこうと迫る。

「ひぎゃあああああっ!? 食べられるぅぅぅ!!」

リーザが腰を抜かし、涙目で死を覚悟したその時。

「――邪魔だ」

低い声と共に、黒い疾風がリーザの頭上を駆け抜けた。

リアンである。

彼の右手には、重厚な金属の輝きを放つ特殊武装『銃口剣ガンブレード』が握られていた。

剣と銃が一体化したその凶悪な武器を、リアンは涼しい顔で振るう。

引き金を引くことなく、ただ純粋な剣術の冴えだけで放たれた一閃。

ザシュッ!!

空中に飛び出していた巨大なピラダイが、見事なまでに真っ二つに両断され、ボトボトッと地面に転がった。

「り、リアン様ぁ……っ♡♡」

危機一髪のところを白馬の騎士(元暗殺者)に救われ、リーザは目をハートにして両手を組み合わせた。

なんて男らしい。なんて頼もしい。この人なら、一生私にタダでご飯を食べさせてくれるに違いない――!

しかし、リアンの視線はリーザには1ミリも向いていなかった。

彼は地面に転がったピラダイの断面をしゃがみ込んで見つめ、チッ、と舌打ちをした。

「……駄目だ。銃口剣の刀身が分厚すぎるせいで、身がわずかに潰れた。それに摩擦熱で鮮度も落ちている」

「えっ?」

リアンは銃口剣を魔法ポーチにしまい込み、代わりに【ネット通販】で取り寄せた最高級の『刺身包丁』を取り出して、ギラリと目を光らせた。

「せっかくのピラダイだ。こんな切り方じゃ三ツ星の恥だ。やはり、活け締めにしてもっちりとした『刺身』で食いたい」

「り、リアン様……?」

「おいリーザ。お前がエサになれば奴らは飛び出してくることが分かった。もっと釣れ」

リアンの目は、完全に「仕込みに燃える狂気の料理人」のそれだった。

「ひ……ひいいいいいいっ!?」

「さあ、早く池の淵に立て。飛び出してきた瞬間に俺が刺身包丁で三枚におろす。お前はただのルアーだ。いいな?」

「嫌だあああ! アイドルはルアーじゃないよぉぉぉ!」

かくして、ポポロ村の池には、夕暮れ時までリーザの悲鳴と、リアンの鮮やかな刺身包丁の音が響き渡り続けた。

その夜のポポロ亭で出された『ピラダイの薄造り』が、常軌を逸するほど美味かったことは言うまでもない。

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