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EP 4

絶対怒らせてはいけない村長

ポポロ亭が大盛況のうちにオープンして数日後。

厨房で仕込みをしていたリアンの元に、カラカラと荷車を引く音が近づいてきた。

「まいど! ゴルド商会のしがない商人、ニャングルでっせ! リアンはん、頼まれとった村の特産野菜、ぎょうさん持ってきやしたで!」

そこに立っていたのは、立派な猫耳と尻尾を揺らす青年だった。

コテコテの関西弁を喋る彼は、片手に使い込まれた「算盤そろばん」を弾きながら、目を「¥」の形にしてリアンにすり寄ってくる。

彼こそが、キャルルの幼馴染であり、村の経理からドワーフ直伝の鍛冶までこなす超有能な金の亡者、ニャングルである。

「ああ、ご苦労。……で、いくらだ?」

「へへっ、リアンはんの料理の腕前、村じゅうで噂になっとりますわ! これだけ儲かってるレストランの仕入れや。きっちり適正価格で……」

ニャングルが算盤を弾いて見積もりを出そうとした、その時だった。

荷車に積まれた大量の野菜の中から、ゴソゴソと動く緑色の球体が現れた。村の特産魔植物、『ネタキャベツ』である。

「お、おい! そこのシェフ! 命が惜しければ俺様を刻むのはやめな!」

キャベツが突然、人間の言葉で喋り出した。

元公爵であり暗殺者のリアンも、包丁を片手に思わず動きを止める。

「……喋るキャベツか。魔獣の一種か?」

「ちゃうちゃう。これは刃物を向けられると、自分が集めた『とっておきのゴシップ』を喋って命乞いする厄介な野菜やねん。でも、ネタがオモロイほどキャベツ自体の甘みが増して極上の味になるから、村の農家はわざとギリギリまで包丁をチラつかせるんや」

ニャングルの解説を聞き、三ツ星シェフの血が騒いだリアンは、スッと柳刃包丁を抜いてネタキャベツの芯にピタリと当てた。

「ほう。なら、極上の味を引き出してやる。言ってみろ」

「ヒィィッ! 殺気エグいって! わ、分かったよ! とっておきのネタを教えてやる! 今日、そこのカウンターで水を飲んでる村長キャルルの、パンティの柄は――!」

ネタキャベツが勝ち誇ったように叫んだ瞬間。

「えっ」

厨房の空気が、文字通り「凍りついた」。

カウンター席で水を飲んでいたキャルルが、ゆっくりと立ち上がる。

その顔には、一輪の花が咲いたような、それはそれは美しい『満面の笑み』が浮かんでいた。しかし、こめかみにはビキビキと青筋が立っている。

「――キャ、キャルルはん!?」

「村長の今日のパンティの柄は、可愛いウサギさんマークの――!」

シュインッ!!

次の瞬間、キャルルの手には愛用のダブルトンファーが握られていた。

一切の予備動作なし。風切り音すら置き去りにする、神速の踏み込み。

「死 刑 ♡」

ドゴォォォォォォォォンッ!!!

木星をも粉砕するかのような、完璧なフォームから繰り出されたトンファーのフルスイング。

「ひでぶっ!?」という短い断末魔と共に、ネタキャベツは音速を超えて大空へと打ち上げられ、キラッ……と昼間の星になって消えていった。

「…………」

「…………」

凄まじい衝撃波で荷車ごと吹き飛ばされそうになったニャングルとリアンは、ただ無言で空を見上げるしかなかった。

キャルルは何事もなかったようにトンファーを腰に戻し、ふう、と可憐に前髪を払う。

「ねえリアン君。キャベツ、どっか行っちゃったみたいだから、お昼は太陽芋のスープにしてくれる?」

「あ、ああ……分かった」

かつて、単独で獣人王国の軍隊を壊滅させた冷酷なる影の始末屋、リアン。

彼がこの異世界で初めて「あ、こいつマジで怒らせたらアカンやつだわ」と冷や汗を流し、心のメモ帳に太字で『村長には絶対服従』と刻み込んだ瞬間であった。

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