EP 3
開店! 辺境の三ツ星食堂『ポポロ亭』
ポポロ村の村長宅に居候を始めて数日。
リアンは村の端にある、長らく放置されていた手頃な空き家の前に立っていた。
「よし、ここを俺の城にしよう」
リアンは誰に言うでもなく呟くと、虚空に向けてスッと指を滑らせた。
空中に半透明のウィンドウが浮かび上がる。彼が前世のガラポンで引き当てた規格外のユニークスキル【ネット通販】である。
『ポチッ、ポチッ、ターンッ!』
流れるような指さばきで、現代日本の最新システムキッチン、業務用大型冷蔵庫、IHクッキングヒーター、高級木材のテーブルセット、さらには壁紙や内装材までを次々とカートに入れ、決済(購入元資金は公爵時代の裏金)を完了させる。
ズドンッ! という地響きと共に、空き家の前に大量の資材と家電が空間を割って出現した。
「さあ、仕事の時間だ。出番だぞ、影丸」
リアンの足元の影がぐにゃりと歪み、そこから漆黒の甲冑に身を包んだ『騎士型の影』が音もなく這い出てきた。
かつての戦争で獣人王国の将軍たちを影から次々と暗殺した、恐怖の召喚獣である。
「……(コクッ)」
「この図面通りに内装を仕上げろ。配管と配線はマグナギアの弓丸にやらせる」
影丸は無言で頷くと、影の刃……ではなく、通販で買った真新しい『電動ドライバー』と『釘打ち機』を両手に構え、マッハの速度で空き家のリフォームを開始した。
「キュイィィィン! バババババッ!」と、凄腕の大工も真っ青の速度で壁紙が貼られ、床が磨かれていく。
「……ねえ、リアン君。あの影の騎士って、もしかして私の上官たちを暗殺した伝説の死神じゃないかな……? なんであの子、完璧な手つきでフローリング貼ってるの……?」
様子を見に来たキャルルが、ウサギ耳を震わせながらドン引きしていた。
しかし、リアンは意に介さない。
「暗殺もDIYも、要は正確な刃筋と手順だ。……よし、厨房が完成したな」
わずか半日でピカピカの最新鋭レストランへと生まれ変わった『ポポロ亭』。
リアンは真っ白なコックコートとエプロンを身に纏い、満足げに頷いた。
「さあ、開店祝いだ。俺がまともな飯を食わせてやる」
リアンが厨房に立つと、空気が一変した。
まな板の上に用意されたのは、村の特産であるシープピッグ(羊豚)の挽肉と、ルナが善意で生成した最高級の野菜たち。
三ツ星レストランの副料理長だった青田優也の魂が、リアンの肉体とリンクする。
タタタタタタタタッ!!
目にも留まらぬ包丁さばきで玉ねぎを微塵切りにし、挽肉と合わせて空気を抜きながら手早く成形していく。
熱したフライパンに肉厚なハンバーグを落とすと、ジュワァァァッ! という暴力的なまでの食欲をそそる音が厨房に響き渡った。
さらにそこへ、ソースの味がする『ソーリーフ』や、太陽の恵みを浴びたトマトをベースにした特製のデミグラスソースを投入し、ぐつぐつと煮込んでいく。
「完成だ。『特製・煮込みハンバーグ定食』だ」
湯気を立てる熱々の煮込みハンバーグ。付け合わせには、マヨ・ハーブで和えたポテトサラダ。そして、ツヤツヤに炊き上がったサンライス。
「お、お肉……っ!? パンの耳でも、茹で卵でもない……本物の、お肉ぅぅぅ!?」
最初に反応したのは、万年飢餓状態の地下アイドル、リーザだった。
彼女は震える手でフォークを握り、ハンバーグを一口かじった瞬間――ブワッ、と滝のような涙を流した。
「んんんんんんんんんまァァァァァァいッ!! 何これ!? 噛まなくてもお肉がとろける! 口の中にシープピッグの旨味と甘ァい肉汁が大洪水してるよぉぉぉ!」
あまりの美味さに、リーザはみかん箱の上で歌うことすら忘れそうな勢いでライスをかきこむ。
「……っ!!」
一方、冷静を装って一口食べたキャルルも、ピクッ! とウサギ耳を垂直にピンと立てた。
(嘘でしょ……!? 私、王宮でフルコースとか食べてきたけど、こんなに奥深くて優しい味、食べたことない……! リアン君、ただの最強の暗殺者じゃなかったの!?)
そして、普段は優雅なルナでさえ、両手で頬を押さえてうっとりとしていた。
「素晴らしいですわ……私の生み出した野菜たちが、リアン様の魔法(調理)で最高の芸術作品に昇華されています……♡」
こうして、最強の武力と最悪の図太さを持つポポロ村のヒロインたちは、過労死寸前だった元公爵の『圧倒的な料理スキル』の前に、いとも容易く胃袋を陥落させられたのだった。
辺境の三ツ星食堂『ポポロ亭』、ここに堂々のオープンである。




