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EP 2

魔王の巡礼と、胃痛の側近

ワイズ皇国。

大陸の三分の一を支配し、空すらも漆黒の魔力で覆い尽くす『絶望の国』。

その中心にそびえ立つ魔王城の最奥、恐怖の象徴たる玉座の間で、皇国を統べる絶対的君主――魔王ラスティアは。

玉座の上で仰向けになり、両足をジタバタと激しくバタつかせていた。

「限界だ! もう待てん! 私の月人(推し)の『夏の全国ツアー限定・等身大アクリルスタンド』はまだ届かないのかァァァ!!」

美しい黒髪を振り乱し、絶世の美貌を涙と鼻水で台無しにしながら、魔王が子供のように叫ぶ。

次元ごと世界を斬り伏せる最強の魔王ラスティアの正体は、日本のイケメンアイドル『朝倉月人』の沼に頭まで沈みきった、救いようのない限界オタクであった。

「ゴルド商会の奴らめ、関税はタダにしてやっているのに動きが遅い! これでは今夜の月人の生配信(※ルチアナの魔導具で視聴)のお供に間に合わんではないか!」

イライラと爪を噛んでいたラスティアだったが、ふと、ある閃きを得てガバッと起き上がった。

「……待てよ? ゴルド商会の報告書によれば、地球のアイドルグッズを仕入れている『供給源(元締め)』は、ルナミス帝国との国境にある『ポポロ村』の食堂の店主だと言っていたな」

ラスティアの瞳に、ギラリと狂気的な光が宿る。

「そうだ! 業者の到着を待つ必要などない! 私自身が直接その村へ行き、元締めからグッズを直接買い占めればいいのだ! そうと決まれば、これは聖地巡礼だ!!」

思い立ったが吉日。

ラスティアはスキップを踏みながら玉座の裏にある『国家金庫』の分厚い扉を素手でこじ開けた。

「えーと、旅費旅費っと……よし。皇国のインフラ整備予算と、魔王軍の兵器開発予算を合わせて……金貨十万枚! これだけあれば、現地で月人のグッズを無限回収(ロット買い)できるな!」

息を吐くように国家予算を横領し、魔法ポーチに金貨の山を乱暴に詰め込む。

そして、威厳ある魔王の漆黒の重マントをバサッと脱ぎ捨てた。

その下に着込んでいたのは、朝倉月人の顔がデカデカとプリントされた『公式ライブTシャツ』。

首にはメンバーカラーの『マフラータオル』を巻き、手には電池式の『特注ペンライト』がしっかりと握りしめられている。

「ふはははは! 待っていろ私の月人! 今、会いに行くぞォォ!!」

完璧なライブ参戦フル装備をキメたラスティアは、ウキウキとした足取りで空間を斬り裂き、直接ポポロ村へと向かう転移ゲートに飛び込んでいった。

***

それから数十分後。

主がいなくなった玉座の間に、コツコツと革靴の音が響いた。

「ラスティア様、先月の財務報告書の決裁を――って、誰もいねえな」

入ってきたのは、仕立ての良いスーツをラフに着崩した男。

魔族穏健派のリーダーにして、魔王の側近である貴公子ルーベンスである。

彼は口に咥えたタバコから紫煙を吐き出しながら、片手に持っていた『魔界競馬新聞』をパサリと折りたたんだ。

そして、こじ開けられ、中身がすっからかんになっている国家金庫を見た。

「…………」

ポロッ、と。ルーベンスの口からタバコが落ちた。

「……やりやがった。あの限界オタクのクソババア」

ルーベンスは頭を抱え、胃の辺りを強く押さえた。

ただでさえ魔王が政治を放り投げてオタ活ばかりしているせいで、書類仕事と予算のやりくりはすべてルーベンスに丸投げされているのだ。

その上、またしても数万人の魔族を養えるレベルの国家予算が、見知らぬ地球の青年の『顔がプリントされたアクリル板』のために消え去ったのである。

「ふざけんなよ……俺の胃に穴を開けて殺す気か……!」

ギリッと奥歯を噛み締めたルーベンスは、足元の影から禍々しいオーラを放つ『魔鞭』を引きずり出した。

「ポポロ村だったか……。あのババア、これ以上野放しにしたら皇国の経済が破綻する。首に縄をつけてでも引きずり戻してやる……ッ!」

普段は飄々としている親父系貴公子の目に、ガチの殺意(と過労による疲労)が宿る。

最強の限界オタク魔王と、胃痛に苦しむ激務の側近。

二人の規格外の魔族が、リアンの裏金稼ぎの舞台である『グルメフェスティバル』に向けて、最悪のタイミングで動き出してしまったのだった。

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