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EP 10

モツ鍋と騒がしい夜

「てめぇ、駄目女神! なんでこんな所に居やがる!!」

普段は冷静沈着な元公爵にして最強の暗殺者リアンの怒声が、ポポロ村の村長宅に響き渡った。

しかし、コタツで芋ジャージ姿のまま寝転がる女神ルチアナは、全く動じることなく缶チューハイをグビッと飲み干し、ぷはぁ、と息を吐く。

「だってぇ……ワイズ皇国のラスティアちゃんがさぁ」

「魔王がどうした」

「今日、あんたが【ネット通販】で出した『朝倉潤』のアイドルグッズを受け取った瞬間に、限界化して大号泣しちゃってさ。我慢できずに、そのまま次元の壁を斬り裂いて日本のコンサート会場に全通遠征に行っちゃったのよ。だから今日の飲み相手がいなくて、一人酒って寂しいじゃない?」

異世界の絶対的脅威である魔王が、アイドルの推し活のために地球へ空間転移したという事実に、リアンは頭を抱えた。

世界を統べる神と魔王が、揃いも揃って地球のサブカルチャーにどっぷり浸かっている。この世界のパワーバランスはどうなっているのだ。

「えっと……リアン君のお知り合い? なんだか、すっごく偉そうなオーラと、すっごく駄目なオーラが同時に出てる人だけど……」

キャルルがウサギ耳をペタンと寝かせて戸惑っていると、ルチアナはコタツからぬるりと這い出し、空っぽのグラスをリアンに突き出した。

「まあ細かいことは気にすんなって! ほら、今日は歓迎会でしょ? リアン、早く極上のツマミ出してぇ。私、今日はガツンとニンニクが効いたやつが食べたい気分」

「……お前なぁ」

呆れ果てたリアンだったが、後ろではリーザが「ご飯! ご飯!」とスプーンを叩き、ルナも「ふふっ、宴ですわね」と微笑んでいる。

これ以上この駄目女神に構っていても疲れるだけだ。リアンは深いため息を一つ吐くと、魔法ポーチから土鍋とカセットコンロを取り出した。

「……分かったよ。ガツンとくるやつだろ。少し待ってろ」

リアンが用意したのは、新鮮な『シープピッグのモツ(内臓)』だ。

丁寧に下処理を施し、臭みを完全に消し去ったモツを、特製の醤油ベースの出汁が張られた土鍋に投入する。

そこに、ポポロ村で採れた大量のキャベツとニラを山のように盛り付け、スライスしたニンニクと輪切りの唐辛子を散らす。

火にかけると、すぐにグツグツと食欲をそそる音が響き始めた。

醤油とニンニクの暴力的なまでの香りがコタツ部屋に充満し、神もエルフも獣人も人魚も、全員がゴクリと喉を鳴らす。

「完成だ。三ツ星シェフ特製、『シープピッグの極上モツ鍋』だ」

リアンが取り皿に取り分けてやると、全員が一斉にモツに食らいついた。

「んんんんんっ!! なにこれ、脂が甘ぁぁぁい!!」

リーザが目をひん剥いて叫ぶ。

ぷるんぷるんのモツを噛み締めた瞬間、濃厚で上品な脂の甘みが口いっぱいに弾け、ピリッと辛い唐辛子とニンニクの風味がそれを完璧に引き締めている。

「ハフッ、ハフッ……! スープを吸ったキャベツとニラが最高! これ、無限に食べられるよぉ!」

「あらあら、お酒が進んでしまいますわね♡」

「っかー!! これよこれ! これぞ日本の心! チューハイに合いすぎるぅ!」

キャルルが笑顔で頬張り、ルナが世界樹の果実酒を傾け、ルチアナが芋ジャージ姿でジョッキを掲げる。

暗殺稼業と激務に追われていた帝国での日々では、絶対にあり得なかった光景だ。

(……スローライフとは程遠い、騒がしい日常になりそうだな)

リアンは静かに苦笑しながら、自分もモツを一つ口に放り込み、よく冷えたビールを流し込んだ。

コタツを囲み、鍋をつつ気ながら、深夜までバカ騒ぎが続く。

過労死寸前だった公爵と、最強でポンコツな村の仲間たち、そして駄目女神が織りなす、騒がしくも温かい異世界食堂の物語は、まだ始まったばかりである。

――第一章 完――

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