不思議な旅編 第4話 演目は?
不思議な旅編 第4話 演目は?
「すまんな、こんなことに巻き込んでしまって・・・」
狹野尊は本当にすまなそうな顔をして皆に言った。
ここは七海高校の音楽室・・・あれから彼らはここに戻ってきたのであった。
「まぁまぁ、ええやん別に。こんな機会滅多にないで~」
島岡はそんな狹野尊に向かって言う。
「そうそう、何か面白いやん。これはこれでOKやで~」
翔も乗り気満々だ。どこかウキウキしている。
「でも、演奏する曲目と場所はどうするんだ?」
拓真はそんな翔と対照的に冷静である。
「え~と、場所はきっと『出雲大社』だと思うの。」
五十鈴がそんな拓真の心配事を一つ消す。
「『出雲大社』って・・・島根県だよね?遠くない?」
「この人数だと旅費も馬鹿にならないと思うわ。」
陽乃と沙希がそう言う。
そう・・・ここには53名も人数がいる。今高高校の部員は全員参加として、七海高校の部員もできれば全員で演奏したいと思っているのだ。しかし、それは狹野尊の言葉によりあっさりと解決する。
「それは気にしなくていい。近くまでは五十鈴の『跳躍の術』でこの人数と必要な楽器は運べるはずだ。」
「パーカッションもですか?」
美里は確認を込めて言った。
「ふむ・・・その『ぱーかっしょん』というのは何だ?」
さすがに狹野尊も聞きなれない言葉だったので思わず聞き返す。
「あっ、大太鼓とかそういう楽器です。」
「あっなるほど。五十鈴、いけそうか?」
「そうですねぇ。人を別としても1000貫までならいけますよ?」※1
「ということだ・・・ってお前ら何を不思議そうな顔をしている。」
五十鈴の言葉に皆はきょとんとした。そう・・・1000貫が何キログラムか分からないのだ。
「あの~1貫は何キログラムですか?」
そんな中、三浦は少し気を使いながら質問をする。
「『きろぐらむ』とはなんだ?」
「「・・・」」
このやり取りに静かな空気が周りを包む。しかし、ここはこの男が打開するのである。
「ええやん、行く時に見てもらって無理そうな楽器は外せば。」
島岡が軽くそう言った。どこまでも前向きな男である。
「そうだな、それがいいな。」
狹野尊も納得すると一つ問題が片付く。
「それはそれでいいとして、曲は何をするかだな。」
恭一はすかさず言った。そう、まだ演奏する曲を決めていないのである。
「そうですね・・・あれ?」
三浦は曲を考えていると、何かを思い出す。
「島岡先輩、楽器ケースにあれ入れたままじゃぁ?」
「あっ・・・そういえば。」
「なんやなんや?」
三浦の言葉で島岡は思い出す。彼は自分のホルンケースに向かう。気になった翔は彼の後姿を目で追った。
「おっ、あったあった。」
彼の手には、『吹奏楽のための神話(天の岩屋戸の物語による)』が握られていたのであった。
「本当にこれするのか・・・」
「うわ、何この変拍子・・・」
「この不協和音気味悪そう・・・」
譜面を手に取った面々の声である。更にその変拍子に恭一も困惑気味だ。そんな恭一に三浦は声をかける。
「東、指揮いけそうか?」
「やるしかないが・・・即興でするとなると・・・」
しかし、ここで救世主が現れる。
「なんや~無理やったら俺が振るぞ?」
そう、柏原である。ある意味、彼は指揮に関しては天才的と言っていい位だ。スコアーを一目見ただけで、各楽器の音が頭の中に構築され演奏される。それは『エルカミ』の指揮を見たことのある恭一も認めるほどだ。
「柏原さん、頼めますか?」
「ええで~。じゃぁ東はパーカッションやな。」
「あっ、何か初めて東と共演できるな。楽しくなってきた。」
この展開に三浦はウキウキし始める。それは七海高校の部員もである。恭一との共演は村峰教頭の送別演奏以来だからである。
「じゃぁ、早速初見するで~」
「「はい!」」
柏原は大声で言うと、今高・七海の両団員、さらには恭一・三田嶋・神崎とここにいる全員が大声で返答したのであった。
クラリネットの音から始まる不気味な和音が鳴り響く。所々に出てくる各楽器がその不気味さを更に盛りたてる。まだここはスローテンポなので皆付いていける。各人が必死に小節数を数える。
そしてトランペットのミュートの後にボンゴが鳴り響く。アップテンポの変拍子でだ・・・そして奇妙な演舞が始まる。
柏原は若干インテンポより遅くして指揮を振る。彼としては指定テンポより早くしたいが、初見なので遅めにしている。中低音の軽快なリズム、高音の奇妙な旋律が鳴り響く。初見としては上出来だ。
そして、各楽器が入り乱れて入る。さすがにここは揃わないがそれでも先を進める。
ホルンの和音が鳴り響き中間部へ・・・実はかなりの人数が落ちている。それほどこの変拍子はやっかいなのだ。
「難かしいですね・・・これ」
絵美が思わずつぶやく。そう、この曲のキーとなる楽器はクラリネット。彼女らが揃わないと曲が崩壊する。
「せやな、俺も付いていくので必死やったわ。」
辻本は絵美の言葉に同意する。
「だが、この曲はいいな。是非、他の神たちにも聞かせたい。」
一方狹野尊は、一通り聞いて満足顔である。
「しかし、もうちょっと攫わないとなんとも・・・時間が欲しいですね。」
三浦はなんとか初見で付いていけたが、付いていけただけである。この時点でまともに演奏できているのは、島岡・翔・恭一等ほんの一握りだけであろう。
しかし、ここで五十鈴がこの問題を解決する方法を教授する。
「あら、時間なら止める事できるわよ。」
「「なんだって!!」」
そしてこの瞬間から音楽室を含めて数部屋を残して、全ての時間が約1週間止まったのであった。
※1 1貫は3.75kg。1000貫だと3.75t。
やっと曲も決まり、練習時間や移動方法も入手できた三浦たち。物語はいよいよクライマックスへ向かいます。