不思議な旅編 第3話 偉いさんの事情
不思議な旅編 第3話 偉いさんの事情
「しかし・・・どうしたもんだか・・・」
南川はこの状況をどうしようかと悩み、思わず言葉が漏れた。
「いっそのことこっちで生活すればええやん・・・」
そんな南川に対して翔が軽く答える。
「あの翔?現実的にいってそれ無茶だから・・・生活基盤とかはどうするの?」
陽乃は翔の案に呆れて突っ込む。
「それは・・・未来の三浦たちに援助してもらうとか?」
「あかんでそれは。」
翔の苦し紛れな答えに柏原がさらに突っ込む。
「なんでや?」
「『タイムパラドックス』って知ってるか?こういうタイムスリップ物の定番や。」
「確か・・・過去の事象を変更することによって未来が変わる・・・そんな話でしたよね、それ。」
慎也が柏原の話に解説を入れる。
「ん~なんかよう分からんけど、でも、これって未来をいじくるから問題ないんちゃうんか?」
翔は話の概要を理解すると、そう反論した。
「その通りやけどこのまま俺らが戻れへんかったら、その未来の俺ら自体がおれへんちゃうんか?」
「あ・・・そうか。」
そして話は堂々巡り。なかなかいい考えが浮かばない。
すると三浦は一つ思いつく。
「そういえば、こういう話って『揺れ返し』みたいなものも定番じゃないです?」
「その手があるか・・・でも、どこをどう探せばいいんだ?」
三浦の提案に恭一はそう聞き返す。
「えっとですね、僕らは『橿原神宮』でこんな目にあったんだから・・・神社じゃないですかね。確か、ここだと・・・『七海神社』かな?」
「「「それだ!!」」」
『七海神社』。そこは七海高等学校に程近いところにある神社である。主に縁結びが有名で正月になると数多くの参拝客が訪れる。
彼ら総勢53名がその神社にやってきた。中々の人数である。しかし、今は彼ら以外に参拝客はいなかった。正確に言うと、彼らも参拝客ではないのであるが・・・
「ここはあんまり変わってないな~」
三浦は境内の林の中でシミジミと懐かしむ。
「へ~そうなんや~。ちゅ~てもオレは高校になってこっちに来たからな。」
その言葉を聞いた翔はそう言って返す。
するといきなり風が強まる。そう、彼らがこちらに来る前にあったあの突風である。
「「さっそくかよ!!」」
その予想通りの急展開に今高側の部員が突っ込む。
「え?もうお別れ?」
陽乃が彼らの様子を見て思わず言う。そう、彼らを知り合ってから2時間も経っていない。唐突過ぎる別れだからだ。だがそれは杞憂に終わる。目の前に綺麗な着物を着た女性が立っていたからだ。今時珍しい和服姿である。
「えっと・・・こ、こんにちわ。それとごめんなさい。」
「・・・誰?」
いきなりの謝罪に佳代子は不思議そうに答える。皆も同じだ。
その姿は、10代の後半で可愛らしさの中に綺麗さが同居する・・・そんな容姿だ。腰元まで伸びたストレートで綺麗な髪が更に彼女を引き立てる。
しかし、一人だけ反応は違っていた。三浦である。
(あれ?この声・・・)
そう、『橿原神宮』の境内で聞こえた声に似ているのだ。そして直感が鋭い三浦は一つの答えを導き出す。
「もしかして・・・貴女が僕たちをここに?」
「「え?マジで?」」
三浦の言葉に他の部員は声を大きくして言う。確かに、彼女を見るとどこか気品を漂う雰囲気だ。しかし、もう一人の人物がそれを否定する。
「中々の洞察力だな。だが、少し違う。」
そこには20代前半の男性がいた。若いがまさに神々しいと言って差し支えない人物である。彼も和服姿であるが、その腰に帯びている大きな太刀が更に威厳を高めている。
「貴方は一体・・・」
三浦は思わず尋ねた。
「私は、日本磐余彦尊と申す。」※1
「カムヤマトイワ・・・痛っ・・・」
島岡はその人物の名前を復唱しようとして舌を噛む。その様子を見た彼はニヤニヤ笑っている。どう見ても確信犯だ。
「まぁ、狭野尊と呼ばれているのでそちらでよいぞ。そして、彼女が俺の妻の媛蹈鞴五十鈴媛だ。」
またしてもニヤニヤ顔だ。だが彼らは同じ轍を踏まなかった。
「あの・・・略称は無いのですか?」
佳代子はおずおずと言う。
「五十鈴でいいですよ。」
その愛らしい女性は軽く答える。狭野尊と違いどこか親近感が沸く。
「どこかで聞いた名前なんだけど・・・」
そんな彼らのやり取りを沙希は首を傾げて考える。そして・・・
「もしかして・・・神武天皇陛下ですか?」
「よく分かったな。まぁ、その名は歴史家が勝手に付けた名前なんだが・・・」
狭野尊は「えっへん」と威張って言う。先ほどの神々しさが消え、やんちゃ坊主の様な印象となっている。しかし、ここには空気が読めない人が多数居た。
「「神武天皇って誰?」」
今高高校の人々である。全く罰当たりな連中である。さすがに狭野尊もその意外な展開を読めなかったらしく唖然としている。
「あのですね、神武天皇陛下は第一代天皇で在らせられる非常に高貴な御方ですよ。」
沙希はそう言って説明すると、狭野尊は何とか持ち直したらしく、先ほどの威張った態度に戻る。
「その通りだ。さぁ、崇め誂え下僕の者共よ!!」
「「へへ~~」」
狭野尊はそう大声で言うと、そこにいた全員が頭を下げたのであった。
「で・・・平成大不況の行く末を調べる為に、五十鈴さんが術を使って未来に来たと。それに僕たちが巻き込まれた訳ですか・・・」
「そうなの、ごめんなさいね・・・」
一通り話を聞いた三浦は要約して再度確認した。五十鈴も申し訳ないと思っているらしく、ちょっと小さくなっている。
「ちょっとまて、それなら五十鈴さんに頼んで戻ることができるんじゃないのか?」
柏原は一番肝心なところに気付く。だが・・・
「あっ、それ無理なんです・・・私の力では未来には行けても過去には・・・」
五十鈴はさらに申し訳ないと思いもっと小さくなる・・・というか、実際に小さくなっていた・・・
「じゃぁ狭野ッチはどうや?」
島岡は狭野尊に向けてそう言った。
「『狭野ッチ』って・・・まぁ良い。たまにはこういうのも新鮮でいいな。では、答えよう。」
狭野尊の言葉に皆は固唾を飲んで待つ。
「フッ・・・私にはそういう術は無い。」
「「つ、使えない奴!!」」
「ちょ、お前ら。仮にもだな私は・・・」
「はいはい、そこまでそこまで。で、実際は帰れる方法は別に在るんやろ?」
翔がその漫才に割り込み核心を突く
「それには私が答えてしんぜよう。」
三度別の声が聞こえる。さすがに神様が二人目の前にいるのだ。もう彼らは驚かない。しかし、その方向に人は居なかった。皆はきょろきょろと辺りを見回す。
「延声の術で失礼する。ワシは大国主大神と申す。」
「「大国主大神??」」
次から次へと出てくる神様の名前に皆は混乱気味だ。唯一、分かる沙希が説明をする。
「大国主大神様は、『天の下造らしし大神』とも呼ばれる神様の中の神様です。」
「おお、そちらの女子は良くご存知だの。嬉しく思うぞ。」
「あ、ありがとうございます。」
大国主大神よりお褒めの言葉を授かった沙希はちょっと顔を赤らめて言う。
「ちゅ~ことは・・・大国主大神様の力で俺たちを元の時代に戻せるって事でいいんかな?」
「その通りじゃ。」
島岡の言葉に大国主大神は頷く様な声で言う。しかし・・・
「でだ、本来なら即刻御主達を送り返せれるのだが・・・」
「「だが??」
大国主大神の言葉の詰まりように皆は一抹の不安を覚える。絶対何かさせられると・・・
「その・・・なんだ。ワシら神も娯楽に餓えててのう。祭りで奉納される和楽器ではなく、御主らの持っている西洋楽器と言うのを聞いてみたいんじゃ。」
「「な、なんだって!!」」
いきなりの大国主大神の演奏依頼に皆は大声で叫ぶのであった・・・
※1 日本磐余彦尊。神武天皇のこと。『日本書紀』での呼称を使用しています。
さて、色々な神様の登場ですが、さすがに島岡たちは動揺しません・・・
とりあえず、帰れる手段を得た彼ら。しかし、それは依頼演奏付きでした。彼らは一体何を演奏するのでしょうか・・・