不思議な旅編 第2話 七海市なんだけど・・・
不思議な旅編 第2話 七海市なんだけど・・・
「ちょっと、翔。待ちなさい!」
「そんな怒らんといてぇなぁ、ちょっとした挨拶やん。」
「春樹、あいつら相変わらずだな。」
「相変わらずの『バカップル』ぶりだな。あの二人は・・・俺たちもうすぐ3年だと言うのに・・・」
陽乃のいたずらした翔が追いかけられ、拓真と春樹がそれを見て溜息を付く。そう・・・七海高校のいつもの風物詩である。
「あ、先生おはようございます。」
「おはよう・・・騒がしいと思ったらまたあの二人か・・・」
恭一を見つけた拓也が挨拶をする。恭一も挨拶を返すが、彼も翔と陽乃を見てちょっと呆れて言う。
すると近くで『ドサッ』という大きな音がした。
「な、なんや~」
真っ先にその異変に気付いた翔はその音の方向に向く。そこには・・・
校庭に多数の人が倒れていた。20人くらいであろうか。
「先生、人が倒れてんで~」
恭一も直ぐに気付いたようで校庭に向かう。こんな大人数が校庭で倒れているのである。何かあったに違いない。陽乃、拓真、春樹もそこに向かう。
そして、恭一は彼らを見て愕然とした。
「な、なんで・・・三浦がここにいるんだ・・・それも、高校時代そのままで・・・」
「どうしたんですか?先生。」
翔は恭一の今まで見たことの無い取り乱し様を見て言った。
「いや・・・それよりも彼らを運ぼう。」
恭一は一瞬のうちに気を持ち直すと、翔たちにそう指示した。
「え?ど、どこにですか?」
春樹は思わず言う。
「音楽室に決まってるだろ!朝倉、先に音楽室に行って他の部員を集めるんだ。早く!!」
「は、はい」
陽乃は恭一の指示に従うと大急ぎで音楽室に向かった。
(これは・・・ただ事じゃないな・・・)
翔はそう心の中で思うと、彼らを音楽室に運び込んだのであった。
「先生、彼らは一体なんなんや?どうも知り合いみたいですけど・・・」
彼らを運び終えた後、翔は恭一に詰め寄る。後ろでは陽乃たちも「うんうん」と頷く。
「彼らはな・・・俺の幼馴染とその仲間なんだ・・・」
「「・・・え?」」
一瞬の沈黙の後、間抜けな声で翔たちが声を揃えて言う。そう・・・彼らはどう見ても翔たちと同い年位にしか見えない。恭一の幼馴染にはどう見ても見えないのである。
「・・・先生?」
「なんだ、翔?」
「幾ら春の陽気言うても限度あるで?」
「・・・」
翔の言葉に陽乃たちも「うんうん」と頷く。
「・・・俺も、この光景信じられないんだが・・・」
恭一は苦し紛れにそう言う。それでも皆のジト目は変わらない。
その時、ようやくその行き倒れ集団から一人起きた様だ。三浦である。ゆっくりと起きると周りを見渡す。
「こ・・・ここは・・・」
三浦は見慣れない風景に動揺する。さっきまで『橿原神宮』の境内に居たのだから・・・
そこへ我先にと恭一が近づく。
「三浦、大丈夫か?」
そして一言・・・
「・・・誰?このおっさん・・・」
場の時間の流れが止まる。そして・・・爆笑の渦が巻き起こる。恭一の手はプルプルと震えていた。
そこへもう2人の彼らに馴染みのある人物が音楽室に入ってきた。三田嶋と神埼である。
それに気付いた翔は挨拶をした。
「あっ、三田嶋さん。お久しぶりです。」
「久しぶりだね、翔君。それで、恭一さん、浩一さんが・・・」
「あっ・・・」
三田嶋は全部言い終える前に三浦を見つける。その光景に三田嶋は思わず言葉が詰まった。神埼も同じである。
そう、彼らも三浦が高校時代当時の姿で居るのに驚いたからだ。三浦も三田嶋を確認したのか、じっと見つめる。そして・・・
「おっ、樹じゃないか・・・えらい男前になって。しおりちゃんも美人になったな~」
その言葉に場は再び爆笑に包まれる。
「俺は・・・俺は・・・」
恭一はその場に崩れ落ちたのであった・・・
「これって、要するにタイムスリップですか?」
行き倒れ組が全員起き落ち着いた後、陽乃は首を傾げて言った。
「ん~そうちゃうか~。三浦と東がそれを証明してるしな~。あ、俺、島岡ちゅう~ねん。よろしく~」
島岡が陽乃の言葉に反応し、いつもの様に気軽に挨拶をする。
「先輩!知らない女に気軽に挨拶するなんて酷過ぎます!!」
そして、大倉も同じくいつもの様に反応する。※1
島岡の首元を掴み『ガクガク』と激しく揺らす。ものすごいシェイクぶりだ。陽乃は思わず目を丸くする。それは七海高校吹奏楽部の面々も同じである。しかし・・・
「あっ、そう言えば自己紹介まだやったな~」
そんな彼らに対し、柏原が涼しい顔で答える。当然、今高高校吹奏楽部の面々も皆同じだ。
「え?あれ・・・いいんですか?」
沙希は思わず、島岡と大倉を指を指す。既に島岡は白目をむいている。
「ん~大丈夫やろ・・・・いつものことやし・・・」
沙希の質問に柏原はさらっと返す。
(あ、あれがいつもの光景って・・・翔と陽乃のドタバタが可愛く見えるな・・・)
慎也は柏原の言葉にそう思った。
そんな中、彼らの自己紹介が始まった。
「わ~、陽乃さんって私と同じ苗字なんや~」
朝倉(ややこしいので以下『佳代子』)は、陽乃にそう言った。
「そうですね~。どこか親近感が沸きますね。」
陽乃もどうやら佳代子の事が気に入ったみたいだ。二人で手を合わせて喜んでいる。
「え?3年間一人で支えていたんですか?」
拓真は寺嶋の話を聞いて驚く。拓真も初めは一人だったが、その時は小編成である。中編成以上になってからは、コンクールまでは3年に岳彦、今では1年に智志もいる。40人規模の編成を一人で低音を支えて来た寺嶋にある意味尊敬の眼差しを送る。
「しかし、あのちんちくりんがここまで育つかぁ~」
島岡が恭一の頭に手を伸ばして添えた。
「だな。あの時はほんま、小さかったもんな。」
「まぁ、まだ俺には負けてるがな。」
「それでも、俺を抜くとはな。」
南川・辻本・沢木も恭一を囲んでそう言う。この長身軍団の中で島岡はかなり小さいが、態度は一番でかいかもしれない。
「島岡さん、それやめてくれませんか?もう、私もあの頃と違うので・・・」
恭一は当惑気味だ。いくら今では恭一が年上とは言え、彼らは1年先輩に当たる。どうしても敬語を使わざるおえない。
七海の生徒たちもその珍しい光景を思わず見てしまう。それはそうだ。いつも合奏で厳しい恭一が、自分達と同じ位の年齢の島岡たちに赤子の様に扱われているのだ。
「それにしても、浩一さんが高校時代の姿で現れるとは思ってもいませんでしたよ。」
「ですよね。私もびっくりしました。」
三田嶋と神崎が三浦にそう言う。
「俺もびっくりしたで~まさかこういう再会するとはな。」
三浦は嬉しそうに言った。
そんな3人の風景をちょっと複雑な気持ちで翔が見ていた。尊敬する三田嶋が自分と同じ位の年の人と親しそうにしている姿を見て・・・そして思わず尋ねた。
「三浦さんは三田嶋さんとどういう関係なんですか?」
「ん~樹とは幼馴染やな。」
その言葉に翔は不審に思った。
「でも・・・言葉が関西弁ですよ?」
「あ~それはな、小学校までこの七海におって、中学で大阪に引っ越したんや。」
「あ、なるほど。」
三浦の最後の言葉で、翔は納得する。
「あと、今は俺と・・・佐野さんだっけ?一応、年上に当たるわけだから敬語はいらんよ~」
「あっ、そうか・・・え~と、じゃぁ、三浦もオレのこと翔って呼んで~や。」
「OK~じゃぁ、翔、よろしくな~」
三浦はそういうと手を差し出すと翔はその手を握った。
(なんかややこしいけど・・・この人らおもろいな~)
翔はそう思うと先ほどの仏頂面が吹っ飛びようやく笑顔になることができたのであった。
※1 本編ではこの時は冷ややかな関係でしたが、番外編なので無視します・・・
さぁ、とうとう彼らはファーストコンタクトすることができました。この先、三浦たちは無事元の時代に戻ることができるのでしょうか。