不思議な旅編 第1話 春合宿の出来事
(注意)
この話からは本編『第90話』まで読んでからお読みになってください。
不思議な旅編 第1話 春合宿の出来事
この話は島岡の渡欧の日より少し前に遡る。
今高高校吹奏楽部では毎年春になると合宿を行う。但し、この合宿と言うのは名だけ。学校に届け出無しの合宿である。勿論、顧問の小柳先生は知らない。いや、もうこれは合宿ではなく遊びの旅行であろう。
ちなみに去年は三重県の『赤目』。有名な『赤目四十八滝』が有る所である。
そして今年は奈良県の『飛鳥』。古墳が有名なところである。
「島岡先輩、何やってるんですか?」
三浦は島岡が結構な数の楽譜をまとめているのを見て不思議に思い聞いてみた。
「あ~これか。ローレンツがな、『風紋』演奏してからなんや日本の吹奏楽に興味持ってな・・・他に日本にちなんだええ曲無いか言うてな。で、これ持って行こうと思ってんねん。」
そう答えた島岡はその楽譜の束から分厚い譜面を三浦に手渡した。フルスコアーである。
「え~と、『吹奏楽のための神話(天の岩屋戸の物語による)』ですか。この前の『合同』のメインの候補に挙がった曲ですね。」
「せや、日本の神話から作られた曲やから日本らしいやろ。」
「なるほど。そうですね、普通に『滝廉太郎』の曲とかやったら面白くないですしね。」
三浦も島岡の曲の選択に納得顔だ。しかし・・・
「それ・・・ホルンケースに全部入るんですか?」
三浦は島岡が必死にホルンのハードケースに入れている姿を見て尋ねた。
「あ~何とかなるやろ。どうも忘れて行きそうでな。ここに入れとったら忘れへんわ。」
島岡はそういうと三浦が持っているスコアーを受け取り、ホルンケースに仕舞ったのであった。
さて、次の日。三浦たちの姿は天王寺にある『阿倍野橋駅』にあった。
ここには、三浦の他に朝倉・大倉・大原・丸谷・小路・鈴木・犬山の新2年生と、柏原・南川・沢木・辻本・岩本・中嶋・松島の新3年生、それにOBから石村・寺嶋・平田、そして島岡がいた。総勢18名である。これが今回『春合宿』に参加する面々だ。
ここから目的地である『飛鳥』へは、近鉄南大阪線の『阿部野橋』で乗り、『橿原神宮前』で降りてそこからバスである。『夏合宿』の様に『合宿のしおり』の様なものはなく、スケジューリングも適当である。
「うっ・・・それいいですね。」
三浦は島岡の準備のよさに思わず感心する。
「ふふふ、これええやろ。もう旅の準備も万端やで。」
それは、ホルンケースをコロの付いたキャリアーに積んでいるのだ。特に島岡のホルンの様なベルカットのタイプのホルンであると、ホルンのハードケースは大型のスーツケースの形である。それを荷物運び用のキャリアーに乗せるとぴたりと合うのである。通常のホルンであると同じように積める事は出来るが、いささか安定感が無い。
ちなみに、寺嶋を除き全員楽器持参である。取ってあるホテルの直ぐ傍は湖岸である為、楽器を吹いても問題ない為だ。
彼らは『吉野』と行き先の書かれた急行に乗り込み、一路『橿原神宮前』を目指したのであった。
「もう・・・風が強いったらありゃしない。今日はズボンでよかったわ。」
『橿原神宮前』に着くと朝倉は思わず呟いた。今日の彼女の格好はズボンと言うより、オーバーオールなのであるが、活発な彼女にはその服とポニーテールがとてもよく似合う。
「まぁ、春先やからな。『春の嵐』という奴やろ。」
横にいた柏原がそういって答える。
確かに、今日は風は強い。時々吹く突風で体が持っていかれそうだ。空も若干どんよりしている。だが、雨は降らなさそうである。雨の前の独特の湿気がないからである。しかし、大阪を出る前はこんな感じではなかったはずなのであるが・・・
「せや。」
ここでいきなり南川が言った。
「ついでに合宿の安全祈願しに行こうや。近くに『橿原神宮』あるしな。」
「あ、それいいですね。」
「ええなそれ。バスの時間も1時間位あるし、問題ないやろ。」
南川の提案に三浦と柏原は賛成する。勿論、他の部員も反対することはなかった。
さっそく彼らは『橿原神宮』にお参りに行くのであった。
『橿原神宮』・・・そこは奈良県橿原市にあり、御祭神は第一代の天皇であり建国の始祖となられた『神武天皇』と皇后『媛蹈鞴五十鈴媛』が祀られている由緒正しき神宮なのである。勿論、彼らはそんな詳しいことなど知らない。昔の天皇陛下が祀られてる・・・それくらいの認識しかない。
第一鳥居に入った三浦はその広さに圧巻した。さすがに『神宮』である。学区内にある『住吉大社』も広いがここはさらに広かった。しかし、春休みにも関わらず参内する観光客は余りいなかった。それにより余計に広く感じられる。
「おっ、もうちょっとや。いくで~」
「「は~い」」
南川の合図に皆は元気良くこたえる。本来ならば代が変わって朝倉が仕切るところであるが、まだまだ癖が抜けない。思わず皆返事をしてしまう。
第二鳥居を抜け、参拝の社殿までもう少しである。さすがに本殿には入れないからだ。
社殿が見えてきたとき、三浦は微かにであるが女性の声が聞こえるのに気付いた。
(もうっ、こんな時に調査だなんて・・・)
三浦は思わず声のする方を見た。だが、そこには誰もいない。目線の先には、遠く本殿がある。
周りの皆はどうやらその声には気付いていない様である。仲良く雑談をしながら先を進んでいる。
(空耳かなぁ・・・)
三浦はそう思ったときである。
先程まで収まっていた風が突然吹き出した。駅前で吹いていた突風など比べ物にならない。それはまさに一瞬の出来事である。
そして、その突風が収まったとき・・・そこには彼らの姿はなかった・・・
『場外乱闘編』第一話です。
さて、これから彼らは不思議な体験をします。彼らが待っている先とは・・・