31話 名前決定、幸せいっぱい
「兄さんに電話しておいたわよ」
「ええ? 別にいいのに」
「何言ってるのよ。この前あんな事があって、また同じ事が起きない、なんて事ないんだからね。まったくどうしてこうも、ああいう人達が多いのかしらね。いい、兄さんが待ってるから、すぐに裏口へ行くのよ」
……協会に底辺プレイヤーを差別する人はいるけど、親族が協会にいるからって、裏から入るのはどうなんだよ。この前はあの受付のせいで、結局叔父さんに登録してもらったけどさ。先にちゃんと受付をして、もし何かあれば叔父さんに頼む、の方が良くないか?
と思いながらも、この前のアーチーの登録の時に、かなり心配をかけてしまったから、あんまり言うのもなと。俺は母さんに言われるまま協会へ向かうことに。
そう、昨日。ハピネススモールバード、改め、フェリックスと名前が決まり。今日はこれから、協会へ登録へ行くんだ。
『カズキ、あそこに行くっチュよね?』
「ああ、そうだぞ。今日はフェリックスの登録の行くんだ」
『あの、嫌な人間いないっチュか? カズキのこと嘘つきって言って、ずっと怒鳴ってきてた人間っチュ』
「ああ、あの受付の人なら、もうあそこにはいないぞ。この前お前とグッドポーズをした、怒ってくれた人がいただろう?」
『ポーズっチュ!!』
グッドポーズをするアーチー。それからうんうん頷く。
「そうだ。あの人が受付の人に、あの場所で働いちゃいけない、別の場所で働くようにって言ってくれたんだ。だからもうあの受付はいないぞ」
『そうっチュか!! 良かったチュねぇ』
『おにいちゃん、うけつけってなぁにっぴっ? カズキ、うそつきじゃないっぴっ。ちゃんとぼくのなまえ、かんがえてくれたっぴっ』
『今から自転車乗ってお出かけするから、これから行く場所に着くまでに教えるっチュ。フェリックス、幸せのお名前、良かったっチュねぇ!!』
『うん、ぴっ!!』
昨日、パソコンで調べまくった俺。ラテン語というものがあって、ラテン語でフェリックスは、幸せな、幸運な、という意味があるらしい。
幸せで幸運だぞ。これは良いと思い、フェリックスにどうだ? と聞いたら。それまで何故かチラチラと見てきたり、ジッと見てきたり、とっても心配そうにしたりと。まぁ、そわそわしていたフェリックスとアーチーだったが。
すぐに、それが良い、と気に入ってくれて。フェリックスと決まった。時々フェリと略して呼ぶ時もあるが、正式にはフェリックスだ。
『わぁ、そんなにんげん、いるっぴっ!? いやなにんげんっぴっ』
『カズキや、カズキの家族みたいに、優しい人間はいっぱいいるっチュ。でも、受付の人間みたいに、嫌な人間もいっぱいっチュ。だから気をつけるっチュよ。何かあったらオレに言うっチュ。お兄ちゃんフェリックスのこと、守るっチュから!!』
『うん、ありがとう、おにちゃんっぴっ!!』
アーチー、しっかりお兄ちゃんだな。説明もしてくれるし、危険なこと危ない事についても、しっかりとフェリックスに教えてくれるから。俺は今回アーチーの半分も、フェリックスに説明していない。
フェリックスもアーチーお兄ちゃんと、ずっと後ろを付いて回っているからな。まだ出会って2日だけど、良い関係を築けたと思う。……というか俺が1人、置いて行かれている気もするが。
そうしてアーチーの説明が終わり、少しするとビル群に到着。その途端、フェリックスは大騒ぎだった。そしてあっちへ行きたい、あそこへ入りたいと言われたが、先に登録を済ませないといけないからなら。ちょっと我慢してもらい、協会へ着くと、協会の裏口がある方へと向かった。
裏口にはもう、叔父さんが待っていて。俺達はすぐに、協会の裏口から協会の中へ入ったよ。
「いやぁ、これからはどんどん、テイムできるだろうとは思っていたが、まさかこんなに早く2匹目をテイムしてくるとはな」
「叔父さん、すみません。母さんが変な事頼んじゃって」
「何言ってるんだ。こういう時は俺を使え使え。それにこの前のことで、まだ少しお前は目立つからな。あと1ヶ月もすれば静かになるだろうが、それまではなるべく行かない方が良い。騒がれたくないだろう? 何かあれば俺に言え」
「ありがとうございます」
「まぁ、あいつはもういないから安心しろ。かなり辺境に送っておいたからな。ま、訓練をするのは、良い場所じゃないか? こっちみたいにカフェでオシャレにってのはできないだろうが」
あの西本という受付の女は、協会所属のままだが、かなり田舎に送られたらしく。まだ1週間だというのに、もう根を上げているいるらしい。こんな所じゃなくキラキラした場所に帰りたいってな。
まぁ、それは当分無理だろう。いや、下手したら戻って来れない可能性もある。本部長が許さない限りはな。
そして俺達が今日、協会の裏口から叔父さんと一緒に協会へ入ったのは、母さんが叔父さんに、俺とフェリックスの登録を頼んだのと。
この前の騒ぎと、受付への処分が決まった事で。俺の噂をしている連中が、ちらほらいるせいだ。噂の人物が協会へきた、なんて分かったら、また絡まれるかもしれないから。
だったらこの前みたいに、叔父さんが登録した方が良いって。だから俺達は、気づかれない裏口から、協会の中へ入ったんだ。
そうして前回と違い、30分もかからないで登録を済ませると。フェリックスも俺達とお揃いが良いという事で。タグ型の登録証とお揃いのチェーンで揃えることに。
アーチーのタグも小さくて、良くこんなタグに登録できるなと思っていたが、フェリックスのはさらに小さく。それでも俺の指紋に反応するんだから、協会の技術は相当だと思う。
「で、今日はこの後、ダンジョンか?」
「ああ。急遽だったけど、予約が取れたから、これから行ってくる」
「そうか、じゃあ、気をつけて行けよ。お前の行くダンジョンに、今日はシャドウギルドの連中が入ってるみたいだからな」
「は? シャドウギルドが?」
「ああ。絶対に鉢合わせしないようにしろと言っても、こればかりはどうなるか分からんが。どうにも俺は、あの連中が胡散臭くて仕方がない。良いか、会ってもなるべく関わらないようにしろよ」
「分かった。じゃあそろそろ」
「怪我しないような!」
こうして俺達はダンジョンへ向かった。




