26話 俺達の後を付けて来たのは?
「それじゃあ、みんな、それで良いか?」
『チュウ、チュチュ、チュウチュウ』
アーチーの話しを聞いた後の俺は、集まってきた魔獣達に待ってもらい。お爺さんの言葉を考えた。そして出した結論は……。お爺さんの最後の言う通りにする事にした。
このまま無理にテイムしても、ちゃんと暮らしていけるのか。前世の俺ならいざ知らず。今の俺にはまだ、全員を幸せにしてやれる力は持っていない。
ならばこれからも、俺にできる限りの事をして、皆を迎える準備ができてからテイムをした方が、皆が幸せになれるはずだ。俺もそっちの方が、心に余裕ができて、きちんと皆の相手をできるだろう。
そのためには、今集まって来てくれた魔獣達は、アーチーと同じくらいの絆を感じた魔獣のみテイムをする事にし。後の魔獣達には準備ができるまで、待っていて欲しい、と。今アーチーに伝えてもらっているところだ。
今まで待っていてくれたのに、また待たせてしまう、と本当に申し訳ないと思ったが。アーチー曰く、魔獣の過ごす時間と人間が過ごす時間の感覚は違うらしく。10年くらい待つのは、まだまだ早いうちに入るらしい。
そう言えばそんな話しを前に聞いたことがあった。魔獣は寿命が長い分、時間の経過が遅いと。だから人間の1年や2年なんて、あっというまらしい。その辺、前世の魔獣達と同じようだ。俺なんて1年でも、かなり長いと思うのに。
『ガウガ?』
『チュチュ!』
『キュイ?』
『チュウゥゥゥ!』
『クワッ?』
『チュウチュウ!』
『グワワワワ!!』
『カズキ、お話し終わったっチュ!! みんな分かってくれたっチュよ。今テイムできなかったら、待っててくれるっちゅ!! それから、他の魔獣にも伝えてくれるってっチュ!!』
「そうか!! アーチー、みんなにありがとうって伝えてくれるか?」
『分かったっチュ!!』
集まってくれた魔獣達の表情を見ると、皆がニコニコしているので、少しホッとした。
こうして俺は、今日集まった魔獣、総勢20匹の絆を確認する事に。しかし、アーチー程の絆を感じる魔獣は1匹もおらず、今日はテイムはなしとなった。
残念そうな顔をする魔獣達。だが、俺がみんなを迎える準備ができたら、必ず迎えにくると言えば。皆ニコニコ顔に戻り、自分達の住処へと帰って行った。俺が迎えにくるまで、どうか皆無事に暮らしていて欲しい。
「よし、じゃあ今日はそろそろ帰るか。この前みたいに慌てなくて良いうちにな。みんなの所には、また遊びにこような」
『うんだっチュ!! みんな、また遊びに来るだっチュ!!』
群れのみんなに挨拶をして、ゆっくり歩き始める俺達。この前帰る時は、本当にドタバタだったからな。姉さんとダンジョンに入ると、そういうことの方が多いが、今日はゆっくり歩いて帰ることができる。しかし……。
アーチーの家族が住んでいる住処から、ダンジョンの出入り口まで、半分ほどの所まで歩いて来た時。俺は道から外れ、大きな木が数本生えている所へ移送した。木が円を描くように生えているため、真ん中がちょっとした空間みたいになっている場所だ。
『カズキ、どうしたっチュ?』
「ちょっとな。最後に1匹、俺達に話がある子がいるみたいなんだ」
俺は木の向こうの、草むらに向かって話しかける。俺の言葉が分かるかどうか。ダメそうならアーチーに呼んでもらえば良いだろう。
「何もしないから出てこい。俺達に話があるんだろう? ずっと付いて来てたもんな。ちゃんと話を聞くから出ておいで」
反応がない。やはりアーチーに声をかけてもらおう。俺はアーチーに、草むらに魔獣がいるから、呼んでくれと頼んだ。俺は近い魔獣なら、探知できるスキルを持っている。まぁ、本当に近い魔獣だけだけど。その距離、なんと5メートルで、あまり役に立たないが。
だが皆と別れた場所から、この魔獣は俺が分かる範囲から離れずに、草むらに隠れながら、ずっと俺達の後を付いて来ていたんだ。
『チュウ、チュウチュウ、チュ!!』
アーチーが魔獣を呼ぶ。一瞬揺れる草むら。でもすぐに揺れは止まり、辺りには風が吹く音だけが聞こえ。しかしすぐだった。草むらからそっとそっと、小さな魔獣が姿を現した。
現れたのは、ハピネススモールバードと言う鳥魔獣だった。昔、地球には、シマエナガという鳥がいたらしいのだが。その鳥をエメラルドグリーンにした感じで、大きさは俺の手のひら半分くらいの大きさだった。大人はもう少し大きくなるはずだから、まだ幼いんだろう。
しかし、ハピネススモールバードは、幼いうちに独り立ちするらしい。もしかしたらこのハピネススモールバードは、独り立ちしたばかりかもしれないな。
「おいで、話をしよう」
俺の言った事を、すぐにアーチーが伝えてくれる。俺はハピネススモールバードが、少しでも近寄って来やすいように。そっとその場に座り、体につけていた武器は全て外して、少しだけ離れた場所に置く。でも、何かあっても困るからな。すぐに手に取れるくらいの距離だ。
「そうだ、お菓子が余ってるんだが、一緒に食べるか?」
俺はカバンからクッキーを取り出し、俺の前と、俺の頭から下りて来て、俺と同じように地面に座ったアーチーの前。それから離れた場所に、ハピネススモールバードの分を置いた。
『大丈夫だっチュよ!! 美味しいクッキーだっチュウゥゥゥ!! って伝えたっチュ!!』
そう言って、クッキーを食べ始めたアーチー。するとその様子を見ていたハピネススモールバードが、1歩、また1歩と近づいて来て……。




