２３話 登録完了と変な踊り
「騒ぎには気づいてたんだが、俺もひと仕事終えて戻ってきたところでな。少々バタついていて、対処するのが遅くなった。悪かったな」
「別に大した事じゃ。いつもよりも絡まれたってだけだからな。それにしっかり登録できれば、俺はそれで良いし」
「それでもだ」
「さっき、本部長にも謝ってもらったし、本当に良いって。この話は終わりに。それよりも俺は、こっちの方が大事なんだから」」
「そうだな。しっかり登録するから任せてくれ。……それにしてもお前もついにテイムか。良かったな。大事な家族だ。家族を裏切るような事はするんじゃないぞ」
「それはもちろん」
「しかしな、こんなに嬉しいことだったとはな」
「え？」
「昨日、香織から連絡があったんだ。とても嬉しい報告があるでしょうから、楽しみにしていってって。お前のテイムのことだったんだな。いやぁ、それなのに、もしもこのままお前を帰す事になっていたら、俺が香織に殺されるところだった」
「母さんから」
「香織の後すぐに、修也からも連絡があったぞ。嬉しいことがあったから、今度酒を飲もうって」
「そっちは俺関係ないじゃないか？ ただ父さん達が、何か理由を付けて、酒を飲みたいだけだろう。たまたまそれが俺だっただけで」
「まぁ、良いじゃないか。良いこと、嬉しい事に変わりなんだから。それにしても、本当に良く今まで頑張ったな。これからきっと、どんどんテイムできるようになるぞ。そうすればお前を馬鹿にしていた連中も、何も言えなくなるだろう。お前の努力が実ったな。後で俺からも何かお祝いをやろう」
「そんな、別にいいよ、そんな。叔父さんからはいつもいろいろ貰ってるし、助けてもらってるから、それで十分だって」
「こういう時に祝わなくてどうするよ。そっちのチビ助にも、お祝い用意するからな！」
『カズキっチュウ？』
「ん？ どうした？」
話していたら、自分よりも大きな、魔獣登録用の機械の様子を見終わったアーチーが、俺に話しかけてきた。
『さっきまでと、話し方が違うっチュ。何で違うっチュか？』
「ああ、そうか。お前にはきちんと紹介しなくちゃいけなかったな。この人は俺の親戚なんだ。あー、さすがに親戚は分からないか」
『分かるっチュ！！ おじいさんに教えてもらったっチュ。家族と違うけど、家族のことだっチュ。えと、確か、お母さんのお母さんとかお父さんのお父さんとか、違うお兄ちゃんにお姉ちゃんだっチュ！！』
「そんなことまで教えてもらったのか？ あ～、合ってるような間違ってるような？ まぁ、それで良いか？」
『オレの群れには、いっぱい親戚いるっチュ』
「まぁ、お前の群れじゃあ、多いだろう。あれだけの規模だからな。この人は俺の叔父さんで、母さんのお兄さんだ。名前は沼田徹叔父さんだぞ。普段他に人がいる時は、お仕事中だから、今までみたいな話し方をするけれど。家族だけの時は、いつもの家族で話している時みたいに話すんだ」
『やっぱりお兄ちゃんだっチュ！ 新しい家族っチュ！！ お仕事……、おじいさんはお仕事関係ないって言ってたけど、違うっチュね？』
「関係ない？」
『お爺さんはお仕事で、誰が一緒にいても、みんなに同じようにお話しするって、言ってたっチュ。関係ねぇ、ガハハハハッ！！ って笑ってたっチュ』
「あ～、まぁ、みんなそれぞれだからな。沼田叔父さんはそうなんだよ」
『そうなんだっチュね。分かったっチュ。こんにちは、はじめましてだっチュ！！ 新しい家族、嬉しいっチュウゥゥゥ！！』
今の話しを全て沼田叔父さんに伝える。それからアーチーがどんな魔獣なのか。そしてお爺さんはそんな人かも伝えた。
そう、何を隠そう、役員の沼田さんは、俺の母さんのお兄さんで。俺にとっては叔父さんに当たる人だ。
いつも俺の事を気にかけてくれて。今回みたいに協会で揉めると、関係がバレないように、それとなく助けてくれる。本当に優しい叔父さんだ。
「ほう。Ｆランクのダンジョンにも、これだけの知識を持った魔獣がいるとはな。その謎のお爺さんに教わったとしても、もともとそういった方面で能力値が高かったんだろう。これはまた、低ランクダンジョンを調べ直した方が良さそうだ。アーチー！！」
『何だっチュ？』
「こいつと、和希と家族になってくれてありがとう！！ それとさっき監視カメラで見たが、お前、アーチーの事を守ってくれようとしただろう。それもありがとうな！！ これからもこいつの事、よろしく頼むぞ！！」
『任せるっチュ！！ 必ずオレが、カズキを守るっチュ！！』
グッドポーズをするアーチー。それから何故か変な動きを初めて。何かと思ったら、嬉しい時、楽しい時、それから頑張る前には踊ると。昔からやっていて、その方がいろいろ成功するらしい。
というか踊りかよ！？ まったく踊りに見えないんだが？ そういえばこの前のドッグの時も、探しに行く前に変な動きをしていたな？ あれも踊っていたのか！？
昔、地球にあった、盆踊りというものの踊りの動きに似ていたが。今は違う踊りをしているし。今度、他にも踊りがあるか聞いてみるか？
「ハハハッ！ 良い踊りだな。それならこれから何があっても、何でもできそうだ。よし！ じゃあその踊りが終わったら、ささっと登録を終わらせるぞ！！」
アーチーの踊りは数分で済み、すぐに登録を始める。俺は指紋を、そしてアーチーは、小さいけれど手で大丈夫って事で、手形で登録。すぐにステータス情報が更新されて、金属のタグが２つ、機械から出てきた。
その後はタグを着けるための紐。チェーンタイプか、リボンタイプの紐を選んでもらい。アーチーはチェーンタイプを選んだから、それをタグに通し、アーチーの首にかけてやった。タグは最初からアーチーの体に合わせて、小さい物を機械にセットしておいたから問題なしだ。
そして俺も、お揃いのチェーンを選び、タグを首にかけた。アーチーがわざわざお揃いの物を選んでくれたからな。アーチーが選んだ物を俺が嫌がるわけがない。
と、こんな感じで登録は終了。ここまで２０分もかかっていない。登録は簡単だんだよ。それなのにあいつのおかげで、半日もかかってしまった。
「よし、これで登録は終わりだ。お前達、これからどうするんだ？」
「どこかでご飯を食べた後、アーチーと街の散策をする予定だよ」
「なら、奢ってやるから、駐車場で待ってろ。自転車は車の上に乗せれば良い。よし、行くぞ。先にエレベーターで１階に行け」
叔父さんが奢ってくれると言うので、遠慮なく連れて行ってもらう事に。
はぁ、やっと協会から出られる。エレベーターまでの廊下を歩いている間、アーチーはずっと、あの変な踊りをしていた。
