12話 名前とお爺さん、そして何かに気づいた代表
「それで名前は何にするの?」
「まだ考えてないよ」
「何よ、早く決めちゃうなさいよ」
「瞳、こういうのは大切な事なんだから、ゆっくり考えないと。それにこの子が何か、つけて欲しい名前があるかもしれないだろう。これは和希君と子のが決める事だから、俺達は黙ってないと」
「え~、さっさと決めちゃえば良いのに」
……姉さんの家族じゃないだろう。いや、俺の家でみんなと一緒に暮らすんだから家族なんだけど、1番は俺の家族なんだから。
「おい、名前を考えようと思うんだが。名前分かるか?」
『知ってるっチュ。人間が人間のこと呼ぶ時に言ってるやつのことっチュ!!』
あれから何とか姉さんを宥めて、それから他のファインドモルル達も宥めて。俺達はようやく話しを進めることに。だけど、俺がボソッと何気なく、名前を考えなくちゃな、と言ったらこの騒ぎだ。
姉さんはいつも通りの姉さんに戻って、俺に早く名前を決めろって、グイグイ言ってきて煩いし。まだ名前について、代表と話してもいないのにだぞ。さっきまでの喜んでくれていた姉さんは、どこへ行ったんだよ。
「そうか、分かるか」
『オレ、人間の言葉、なんとなく分かってたっチュ。だからおじいさんともお話ししてたっチュ』
「お爺さん?」
『時々遊びに来てたおじいさんチュ。でもこの頃見てないっチュ』
「そうなのか?」
『みんなと仲良しだったっチュ。名前の事も教えてもらったっチュ』
「そのお爺さんの名前は?」
『おじいさんの名前は教えてもらえなかったっチュ。何でだろうっチュ?』
そのお爺さんについて、後で家に帰ったら詳しく聞いてみるか。仲が良かったって事は、魔獣に理解のある人のはずだ。いろいろな事も教えてもらっていたみたいだし。
それに代表達とそれだけたくさん話していたって事は、もしかしたらそのお爺さんのテイム能力が強くて、テイムしなくても魔獣の言葉が分かっていた可能性もある。それだけの能力の持ち主だ。有名なプレイヤーかもしれない。
もしもそのお爺さんのことが分かって、本当に魔獣達に理解のある方だったら。仲の良かった代表と家族になったと、伝えても良いかもな。
「そうか。じゃあそのお爺さんの話しは、後でゆっくりしよう。今はそのお爺さんが教えてくれた、名前について話したいんだ。お前の名前を考えようと思うんだがどうだ?」
『名前っチュ?』
「お前は俺のことを、名前で呼ぶだろう? だけどお前には今、名前がないから、俺は『おい』とか『お前』って言わなくちゃいけない。せっかく、家族っていう特別な存在になれたんだから、家族は名前で呼び合わないとな」
『う~ん、そういえばおじいさん、名前は大切って言ってたっチュ。特別な人間か、オレの仲間の誰かと家族になれた時、名前を考えると良いってっチュ。でも魔獣はみんな名前ない、家族になっても考えないっチュ。なくても大丈夫っチュ。でもでも、カズキは特別だっチュ。だから名前、考えるっチュ!!』
「そうか!」
『オレ、考えてたっチュ! 名前、家族になった人間に考えてもらうってっチュ。だからカズキに考えて欲しいっチュ!!』
「俺が考えて良いのか?」
『お願いだっチュ!』
「分かった。じゃあ、家に帰ってからしっかり考えよう。大切な名前なんだから、今ここで適当に考えるのはダメだからな」
『やったぁーっチュ!! お願いだっチュ!! チュチュチュッ!?』
名前の事について決めた時だった。急に代表が真剣な表情をして顔を上げ、周りの様子を確認すると、ある一定方向を見て動きを止めた。
「どうした?」
『とっても良い物の感じがするっチュ!!』
……テイムの時よりも真剣な表情をしている気がする。と、今はそれは置いておいて。良い物の感じがする? そういえば嬉しくて忘れていたが、ファインドモルル達は、レア素材を見つける事ができる魔獣だったな。何か見つけたって事か?
『カズキ!! 向こうに何か良い物あるっチュ!!』
「分かった。姉さんは、優也さん!! こいつ、何か見つけたみたいなんだ、だからちょっとこいつと行ってくる」
「あら、そうなの? 面白そうね、私も行くわ!」
「それじゃあ俺も。間近でファインドモルルが何かを見つけるところを見るのは初めてだからな」
『『『チュチュチュッ!!』』』
だからついてこなくて良いって。というかお前達もかよ。結局姉さんと優也サン、他のファインドモルル達全員で移動することに。
本当に他に人が居なくて良かった。さっきまでは大勢に囲まれていて、おかしな集団に見えただろうけど。今度は変な集団の大移動だ。
下手をしたら外にいる協会の人達に伝えられて、心配して俺達の所へ来てしまったかもしれないからな。
そうして心配しながら進むこと約10分。俺達は1本の大きな木の所へとやって来た。
『この木から。良い物の感じがするっチュ!!』
「この木から……。俺は何も感じないが。姉さんと優也さんは?」
「私も何も感じないわね」
「俺も同じく。ファインドモルルは、特別な物を探せる、特別な魔獣だからね。彼らにしか感じられない、何かがあるんだろう」
『オレが見つけたっチュ。これはとっても良い物で、見つけるの難しいっチュ。だから他の仲間もみんなは、気づけなかったっチュ!!』
「お前だから見つけられたのか?」
『そうだっチュ!! ちょっと登ってくるっチュ!!』
そう言い残して、代表がササササッと、大きな木を登り始めた。




