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最強は私じゃなくて障害持ちの息子です  作者: Beo9
十四章 S級からの挑戦
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実力とは

「……ええ、と……ま、まだやるか?」

 ほとんど八百長であるためか、シラッドはかなり遠慮がちになっている。その様子は観客にも伝わってしまったようで、何人かが訝しげに話すのが聞こえた。

「おい、なんかシラッドの様子変じゃねえか?」

「だよな?そもそも、あれだったら足にナイフぶっ刺さっててもおかしくねえのに、なんで今回はわざわざ止めてるんだ?」

 いきなりの演技を強いられたシラッドはそこまで考えられず、どうやって収拾を付けようかと冷や汗をかいていた。

 しかし、リョウジは違う。円滑な仕事のため、良い父親として振る舞うため、ズル休みのため、ありとあらゆる場面で演技をし続けている男にとっては、この程度はなんてことのない場面だった。

「いやあ、参りました!降参です!さすが、S級の先輩だけあって、お強いですね!」

 右手でコウタの手を握り直し、左手は降参の意を示すために頭上に掲げる。

「おまけに、息子のために気遣いもいただけたようで……ベテランの余裕、というやつですか」

「え?あ、あ~、まあ、うん」

 非常に危なっかしいながらも、シラッドは何とかリョウジの助け舟に乗り、ナイフを外してリョウジを解放した。

「そ、そりゃな!ガキの前で親父をバラすような趣味はねえし!怪我しても、その、ほらぁ、なんだ……大変だろ!?」

「ええ、まったくです。それに実は私、ポーションが効かないので……刺されてたら、月単位で動けない所でしたよ」

 何とか調子を取り戻すシラッドに、リョウジは情けをかけてもらった冒険者として振舞い続ける。シラッドはともかく、リョウジの言動は極めて自然だったため、観客も納得する。

 だが、言動などには関係なく納得できない者もいた。それは、リョウジに賭けていた者である。

「てめえ、負けた癖に何へらへらしてやがる!?」

「あの程度避けられんだろうが!俺等の金返せ!」

 最前列にいた二人の男が、そう叫びながらリョウジに詰め寄ってきた。どうやら冒険者らしく、体格はリョウジよりもかなり良い。

「いや、あれは無理ですよ。というか、そんなに言うならシラッドさんと直に勝負してみてくださいよ」

「俺等が勝てるわけねえだろうが!知ってるぞ、お前最古のドラゴン殺したんだろ!?だったらそいつに勝つぐらい、わけねえだろうが!」

 一体どれだけ賭けたのやらと思いつつ、リョウジはシラッドに視線を送る。しかし、シラッドは難しい顔で首を振った。どうやら、まだスキルは使えないらしい。

「手抜きしやがって!ふざけんな!」

「うわっ!?ちょっと待っ――!」

 胸倉を掴まれ、持ち上げられる。それと同時に、コウタがくるりと手首を返し、リョウジの手を振り払った。

「こあ、だり」

 音もなく、男二人が後ろに吹き飛んだ。家の屋根より高く、そして飛ぶ鳥よりも速く飛ばされ、男達は一瞬で見えなくなってしまった。

 その光景に、リョウジ達はもちろん、観客達も声が出なかった。一体何が起きたのかすら把握できず、唯一、コウタだけが満足げな表情をしていた。

 まず、リョウジが何が起こったのかを把握し、慌ててコウタの手を掴むと、即座に口を開いた。

「い、いやぁ!『迅影』と呼ばれるだけありますねえ!本気で蹴飛ばすと、あんな勢いで人が飛ぶんですか!」

 シラッドは『何言ってるんだこいつ』という顔でリョウジを見たが、リョウジの『頼むから乗って!』という表情に気付き、ぎこちなく胸を張った。

「ま、まあな!本気出せばこんなもんよ!ま、まったく困っちまうな、ああいう手合いは!」

 その言葉で、観客達は納得したようだった。ただでさえ、シラッドは神速を超える速度のスキル持ちだと思われているのだ。その脚力で蹴られれば、ああなるのも納得だというところだろう。

「……あとで詳しい話、聞かせろよな」

「ええ、助かりました本当に……」

 こうして、S級同士の決闘は、今回もシラッドが連勝記録を更新したという形で決着がつき、さらに珍しくシラッドの本気の攻撃が見られたということで、観客達もほぼ満足して帰るのだった。


「では、お疲れ様でした」

「おー、ごちそうさま」

 観客達も帰り、騒動がひと段落ついたところで、リョウジ父子とシラッドは冒険者ギルドの酒場に来ていた。形的には負けた上で手加減してもらったリョウジが、そのお礼にシラッドに食事をご馳走しているという形である。

「んで、あんたの子供がすげえスキル持ちってのはわかったけど、どんなスキルなんだ?」

「……パーティ誘いますんで、声出さないでくださいね?」

 説明するより見た方が早いと考え、リョウジはシラッドをパーティに誘う。そしてすぐにコウタのスキルを確認すると、シラッドは驚きに目を見開いた。

「ワ、ワールド――!?」

「しぃ!しぃー!」

「あ、わ、悪りい……いやでも、これビビるなって方が無理だろ……まあ、でも、うん、全部子供のおかげだってのは納得した」

 この世を作った神が持っていたスキルの持ち主など、何をどう足掻いても勝てる相手ではない。つくづく、温厚な人で良かったと、シラッドは内心ホッとしていた。

 それから、二人は色々な話をした。

 リョウジ達は、実は別の世界の人間であること。元の世界に帰るため、時空魔法の使い手を探していること。魔法とスキルが効かないため、ポーションや回復魔法まで効かないせいで無理ができないこと。

 シラッドに関しては、特例で8歳から冒険者をやっていること。戦闘は本気で苦手なこと。魔法も一切使えないこと。

「――だからさ、マジでスキルが通じねえと誰にも勝てなくて……何か強くなれる方法、ねえかなあ」

「魔物を倒したら強くなるはずでは?」

「あ~、安全のためにめっちゃ距離取っちゃうから、全然強くなれねえんだよね」

「距離制限あるんですか……でしたら、うーん……そのスキル、止めてた時間分は再使用不可能なんですよね?でしたら、0.1秒ごとに0.1秒ずつ止めるのはどうです?」

「ええっと……時間停止連打ってこと?」

「そうです。単純に考えて、今の倍の速度で動けるようになりません?」

「やろうとしたこともなかったな……今度試してみるよ」

 言いながら、シラッドは秘かに試していたのだが、細かいスキル発動がかなり大変である以外は、問題なくできそうであった。

「んで、時空魔法の使い手ねえ……S級は何人か知ってるし、魔法使いの奴もいるけど、時空魔法を使う奴はいなかったなあ」

「そうですか……ありがとうございます。では、S級の人達は無関係っぽいですね」

「隠されてたら、わかんねえけどねー」

 気の無いように言うと、シラッドはレモンジュースを飲み干した。

「てかさ、あんた元の世界に帰る方法が分かったら、すぐ帰っちまうの?」

「そのつもりです。妻も待ってますし」

「せっかくこっちの世界では大金持ちなんだし、残ろうとか思わねえの?何なら、新しい奥さんとか――」

「興味ないですね」

 被せ気味に、リョウジはきっぱりと言い切った。

「私の妻は一人だけです。まあ、そうでなくとも、この子の親は私と妻の二人だけですし……」

「あ、あ~……その子の相手は、確かに無理そう……」

 リョウジに関してはともかく、コウタは極力早めにお帰り願いたいなと、シラッドも納得した。

「まあ、そうだな。俺の方も何かわかったら、あんたに教えてやるよ」

 シラッドの言葉に、リョウジは嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとうございます。シラッドさんに手伝っていただけるなら、それこそ百人力ですね」

「ま、まあな。そこはマジで期待してくれていいぜ」

 そんな話をする二人を、酒場のマスターは遠巻きに見ており、そしてぼそっと呟く。

「他のS級まで巻き込む、と……財力どうこうより、あのたらしっぷりが真の実力じゃねえのかね」


 こうして、リョウジはあちこち飛び回るS級の協力を得られることとなり、少なくとも気分の上ではだいぶ楽になった。

 シラッドはシラッドで、新たなスキルの使い方も知ることができ、また事故とはいえ、人々に強力な力を持っていると見せつけることもできた。

 結果として、二人の中でこの一日は、非常に実りの多い一日となるのだった。


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