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最強は私じゃなくて障害持ちの息子です  作者: Beo9
十四章 S級からの挑戦
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『迅影』の正体

「わかりました。では、遺憾ながらお受けします。ただ、お昼とか食べてないんで、今すぐは無理ですよ?」

「あ~、それぐらいはいいよ。んじゃ、夕方にここの広場で決闘な。俺も飯食って、腹ごなししてから向かうとするよ。んじゃ、逃げんなよー?」

 手をひらひら振りながら去って行くシラッドを見つめ、リョウジは大きな大きな溜め息をついた。

「……やるしかないんだろうけど、何とかならないもんかね、コウタ……」

「おんでりだりあ。おいよっほー、どあん」

「ご飯ね……そうだね、とりあえずお昼食べよっか」

 そうして、二人は近くの食堂に入り、全員から注目を浴びつつの昼食を取るのだった。周囲の客からは『お前に賭けた』などと言われ、もはや美味い不味いどころではなく、まったく味のしない食事であった。


「さあ、張った張ったぁ!S級冒険者同士の決闘、それも最近売り出し中の『子連れ狼』と、史上最年少のS級『迅影』の戦いだぁ!」

 町の広場は、S級同士の決闘が始まるということで大騒ぎだった。既に賭けが始まっており、今のところはシラッド優勢である。だが、最古のドラゴンを倒した男とあって、リョウジにかかっている額も決して少ないものではない。

 ここに来る前に、リョウジはシラッドという男について冒険者ギルドに尋ねてみたが、さすがに能力などは教えてもらえなかった。

 ただし、これまでにも何度か新入りのS級と決闘をしており、その全てにおいて勝利をしていることや、『迅影』という異名で呼ばれていることなど、果てしなく気の滅入る情報は入手できた。

 異名から考えると、相手は速度を武器にしている可能性が高い。となると、リョウジの『治外法権』は非常に相性が悪い。かつて冒険者講習を受けていた頃、『神速』持ちのウェーバーと戦闘訓練をして勝てたことは一度しかない。しかもその一回も、後ろで訓練していたミラがラフタに棒を弾き飛ばされ、それを踏んづけたラルフが神速で転がって行ったという、ただの事故である。

 頼むから自分には賭けないでくれと、心の中で願いつつも、リョウジはコウタを連れて広場に向かった。

 一体誰の仕事か、広場には既に観客席が設置してあり、早くも満員御礼となっている。素晴らしい余計な仕事に、リョウジはもはや表情もなく、刑場に進む死刑囚のような気分で広場の中央に向かった。

 中央には既にシラッドが到着しており、リョウジを余裕の表情で眺めていた。

「よっ、逃げずに来たなおっさん」

「可能であるならば、逃げたかったですけどね……」

「ま、できるんならその方が賢いけどねー。できるんならね」

「今この時に限っては、逃げ出せる馬鹿になりたかったですよ……」

 コウタをどうするかは非常に悩んだのだが、他人に預けてワールドマスターが発動すると大変にまずいことになりかねない。もちろん、連れたまま戦うというのも恐ろしい難易度ではあるのだが、世界を滅ぼすよりは幾分かマシだろうと、仕方なく連れたままでいることにしたのだ。

「つーかおっさん、その子供も連れて戦う気かよ?」

「色々あって、他人に預けられないので……そこだけ、ちょっとご配慮いただけると助かります」

「おりありよ、えんあいおりお。とあと」

「なぜトマト」

「……苦労してるんだな」

 シラッドは若干引き気味で、そう呟いた。元より、子供に手を出すつもりはないし、事情を知ってからは、むしろ子供とは関わりたくないとすら思っている。

「んじゃまあ……そろそろ、やるか?」

 シラッドが腰を落として身構えたのを見て、リョウジも盾を構えつつフレイルを抜いた。

「本っ当に、お手柔らかにお願いします!」

 本心からそう叫ぶリョウジに、シラッドは答えず、ただニヤリと笑った。

 直後、世界から音が消えた。それを訝る間もなく、シラッドは悠々と歩いて近づいてくる。

 シラッドの動きを警戒しつつ、リョウジは目だけで周囲を見回した。観衆達は拳を突き上げたまま固まり、全員が瞬き一つしていない。

 それどころか、空ではたまたま飛んでいた鳥がそのままの形で固まっており、近くにいた蠅も空中で静止していた。

 そのことにコウタも気づいたようで、辺りをくるくる見回すと楽しげに口を開いた。

「おーりよ。あいーでりあ」

「えっ?」

 シラッドが、ビクリと体を震わせて歩みを止める。そこでちょうど、リョウジも口を開いた。

「これは……なるほど、時間停止能力でしたか」

「なんっ!?ちょっ、待っ!?おまっ、なんっ、はぁ!?俺ちゃんとっ……なん、おま、何っ!?」

 リョウジ達が動くことは完全に想定外だったようで、シラッドはわかりやすく大変に動揺していた。そこで、リョウジは両手を上げて、努めてゆっくりと話しかけた。

「すみません、私のスキルは『治外法権』といいまして、スキルと魔力に関するものが一切効かないんです。触れてるものにも効果があるので、息子も動けるという訳です」

 その説明を聞くと、シラッドはまだ驚いた表情をしていたが、だんだんと顔が青ざめていく。

「う、うそ……だろ……!?こ、これが効かねえって……こ、こんなの、勝てるわけ……!」

 そこで、リョウジは再び両手を上げ、シラッドを宥めにかかる。

「あ、それについてですが……勝負はシラッドさんが勝ってください」

「……は?」

 予想だにせぬリョウジの言葉に、シラッドは素っ頓狂な声で聞き返してしまった。

「な、何言ってるんだおっさん!?だって……自分から負けるっての!?」

「そういうことになりますね。あ、ちなみにこのスキル、時間制限などは大丈夫ですか?もしよければ、このままお話ししたいんですが」

 シラッドにとっては全くもって訳の分からない提案だったが、少なくとも自分に不都合な提案ではないため、素直に頷いた。

「あ~っと……まあ、効かねえんじゃ喋っても問題ないか。止めてる時間は、たぶん無制限。時を止めた時間分だけ、次に時間を止められるまでの時間が伸びるんだ。5分止めたら、次にスキル使えるのは5分後って感じ」

「なるほど。では、あんまりのんびり話すのも良くないですね。なので要点だけ話していきましょうか」

 もはやお互いに戦う気は完全になくなっていたため、両者はその場に腰を下ろした。リョウジはコウタを膝に乗せ、適当にあやしている。

「まず、なぜ私に勝つ気が無いかってところですが、私、本当に戦闘はド素人なんです。なので、あんまり強いと思われるのは、本っ当に困るんですよ」

「で、でも、最古のドラゴンは殺してるんだろ?」

「あれは……実は、息子がとんでもないスキルを持っていまして、それのおかげです。デーモンウルフとか邪教集団とかも、息子のおかげです」

「……どんなスキルかは聞かねえ。でも、おっさんマジでいいのかよ?舐められたらおしまいだぞ?」

 いかにも少年っぽい言葉に、リョウジは優しく微笑んだ。

「おっさんには、おっさんなりの戦い方と処世術がありますから。あと、最古のドラゴンのおかげで財力もあります」

「それは……うん、まあ、なるほどね」

 少なくとも、白金貨10枚以上持っているのならば、大抵のことは金の力で何とかできそうである。そのことは、純粋に少し羨ましかった。

「……俺はさ、このスキルのおかげで、最年少でS級になれて……けどさ、やっぱガキだって、みんな舐めくさって……だから、すっげえ強えんだって、そう思われたくって……」

「確かに、シラッドさんの年齢では苦労しそうですね。気持ちはわかりますよ」

 自身が少年の頃を思い返し、リョウジはそう返した。

「おっさんだって、舐められたら苦労するだろ?なのに、いいのかよ?」

「舐めてかかってくれるなら、本気を出されないのでありがたいです」

「……すっげえ考え方だな……ちょっとその発想はなかった」

「あとは、背伸びをしたら転びやすくなりますからね。ちょっと腰を落としてるぐらいの方が、安心ですよ」

 単に体の動かし方を言っているのでないことは、シラッドにもよくわかった。

 実際、シラッドは戦闘に関してリョウジにも劣るほどの素人である。体格も恵まれず、魔力も少なく、完全にスキル頼みである。

 それがわかっているからこそ、背伸びをし続けるしかなかった。自分は強いのだと、周囲に誇示し続けるしかなかったのだ。

「……ま、勝たしてくれるなら文句はないよ」

「私の方も、負けさせてくれるなら文句はありません。あ、私に触るとスキル解除されるので、そこは気を付けてください」

「あ~、そこは大丈夫。このスキル使ってる間は、ほんと何にもできないから、解除と同時に決着つくようにしてるんだ」

「え、止めたまま倒せないんですか?」

「見た方が早いか。まず、俺が身に付けてるものはこの通り動くんだけど」

 言いながら、シラッドは腰からナイフを抜き、その鞘を手放した。すると、鞘はシラッドの手を完全に離れた瞬間、空中に静止した。

「俺から離れた瞬間、時が止まる。んで、時が止まった物は――」

 その鞘に、シラッドは強烈な蹴りを入れた。しかし、鞘は空中でびくともせず、反対にシラッドの身体が押し返されていた。

「とっと……こんな感じで、何にも干渉できなくなるんだよ」

「なるほど、時が止まってるから……昔読んだクソ分厚い本と同じ仕様ですね。てことは、水筒から水をぶちまけただけでも、それを階段代わりにできるってことですか」

「あー、できるかも。いや、なんで初見のスキルで俺より良い使い方思いつくかな……?」

「それで何ができるかっていうの、考えるの好きなんで」

 リョウジが言うと、シラッドは少し悩み、やがて言いにくそうに口を開いた。

「……これ終わったらさ、ちょっと話できねえ?おっさんの……あんたの話、ちょっと聞いてみたくなった」

「いいですよ。ではとにかく、この戦いを終わらせましょうか」

 そう言うと、リョウジは戦闘が始まった時と同じように盾を構えた。

「こちらはいつでも」

「んじゃ、悪いね。いくぞ!」

 シラッドはリョウジの後ろに回り込むと、先程抜いたナイフを構え、リョウジに向かって跳ぶ。それと同時に、周囲の景色が再び動き出した。

 カランと音を立てて鞘だけが落ち、リョウジは大袈裟に目を見開いてみせ、動揺したように左右を見回す。

「なっ、消えっ……!?」

 直後、背中に衝撃があり、首筋にナイフが突きつけられていた。

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