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最強は私じゃなくて障害持ちの息子です  作者: Beo9
十四章 S級からの挑戦
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浮揚馬車からのお客様

 とある町の、冒険者ギルド内に併設されている酒場のカウンターに、疲れた中年と元気な障害児が座っていた。

「おあ~りぃ~ん。おぉ~あいーあん」

「コウタ、それお父さんの……ああ、もういいか。はい、飲み物も飲んでね。ああこら、これはダメ。これはお父さんのお酒」

 普段ならば、昼食以外は宿で食事をするのだが、この日は宿の都合で食事が提供できないと断られたため、仕方なくギルドの酒場で夕食を取っていたのだ。

 酒場とはいえ、身体が資本の冒険者達が集まるところであるため、食事もかなりしっかりしたものが用意されている。味も決して悪くはないのだが、如何せん落ち着きとは無縁の場所であるため、リョウジはあまり利用しない、というよりできない。

 この時も、コウタの世話に追われながらの食事となっており、コウタの方はだいぶ満足してきているのだが、リョウジはほとんど食べられていない。まして、テーブルではなくカウンターであるため、世話の難度はかなり高まっている。

 半ばうんざりしつつも、何とか隙を突いて少しずつ食事ができるようになってきた頃、不意に一つのパーティが近づいて来た。

「あんた、もしかして『子連れ狼』のリョウジじゃないか?」

 話しかけてきたのは、20代前半の若い男で、他のパーティメンバーも同じくらいの歳の様だった。

「はい、そうですが。ええと、貴方がたは?」

「へ~、ほんとに頭おかしい子と一緒に旅してるんだなぁ。ただの噂だと思ってたぜ」

 その態度と、問いかけの返答が無いことと、言葉の内容に、多少なりともイラッときたリョウジだったが、この世界では珍しい存在であることも確かなため、そんな様子はおくびにも出さずに答える。

「それはどうも。私に何かご用ですか?」

「いや、別に?ただ、S級の奴が来たって聞いたから、どんな奴かと思ってさ」

 『OK満足したか、さっさと帰れ』という台詞が喉元を若干過ぎるくらいまでは出かかったが、リョウジは何とかそれを飲み込むことに成功した。しかし、何か言うと余計なことを言いそうだったため、そのまま曖昧な笑顔で対応していると、相手の男はニヤニヤとした笑みを浮かべながら言った。

「しっかしさあ、あんたほんとにただのおっさんって感じだよな。それでS級なんて、よくなれたな」

「まあ……スキルが特殊なもので。戦闘に関しては、実際に素人ですよ」

「しかも子連れでなれるんだもんな。だったら、俺等も簡単にS級までいけそうだな」

「そうですね」

「おっさんと、頭のおかしい子供とでなれるんだもんなあ。そんな足手まといがいない俺等だったら、ずっと簡単に――」

 苛立ちが頂点に達していたリョウジは、それを獰猛な笑顔で隠して声を上げた。

「すみませーん!マスター、ここにいる人達に一番いいステーキを御馳走したいんですが、いくらかかります?」

「え?」

「は?」

 突然の言葉に、リョウジに絡んでいたパーティは目を丸くする。一方の酒場のマスターは、リョウジの意図を何となく察したのか、僅かに口角を上げた。

「そうだな。今いるのがあんた含めて16人で、レイクシープのラムステーキとなると、一人銀貨七枚だから……」

「なら余裕です。では、そのステーキを」

 自分に絡んでいたパーティを指さし、言葉を続けた。

「彼等以外の全員にお願いします」

「え、なっ!?」

 思わぬ幸運に沸く周囲の者達に対し、除外宣告を受けたパーティは目を剥いて驚くが、そんな彼等をリョウジは鼻で笑う。

「何です?まさか、自分達も当然に奢ってもらえるとでも思ってました?」

「ぐっ……け、けど、あんたならそれぐらい、はした金じゃ……!」

「気に入らない人に、銅貨一枚でも使いたいと思います?私は思いませんね」

 何でもないように言いながら、リョウジは大銀貨七枚をマスターに支払っている。

「別に構いませんよ?物乞いの様に頭を下げて『すみませんご馳走してください』って言うなら、考えないこともありません。ま、そんなことをしてる人がS級に上がれるとも思いませんけどね」

「こ、このおっさんが……!」

 男が思わず拳を握ったのを見ると、リョウジは再び鼻で笑い、今度は店内の客に呼びかけた。

「すみませーん!彼等を摘み出してもらえたら、ステーキにお好きなお酒もつけますが、やってくれる方いますかー?」

 リョウジの言葉に、成り行きをニヤニヤしながら見ていた面々は一斉に立ち上がった。

「よぉし!さっさと出て行きな!」

「おらっ!とっとと出て行け!こっちは酒が飲みてえんだ!」

「う、うわっ!?」

 鼻息荒く襲い掛かる面々に、リョウジは慌てて声をかけた。

「あ、暴力はダメですよ。暴力を振るう人はお酒なしになりますので」

「だったら抱え上げちまえ!」

「そぉら、お前等は帰ってママのミルクでも飲んでな!」

「うわあ!ちょ、やめろぉ!」

 パーティ四人の全員が、神輿の如く頭上に掲げられ、酒場から摘み出されていく。そんな彼等に、リョウジは笑いながら声をかけた。

「確かに、私はS級と言うには色んなものが足りません。体力も筋力も、魔力なんて欠片もありません。正直、荷が重いレベルです。けど、S級相当なところはしっかりありましてね」

 追加の代金を支払ってから、リョウジは親指と人差し指で輪っかを作った。

「財力だけは、誰にも負けない自信があるんですよ。どうです?これだけでも、結構な力になるでしょう?」

 絡んでいたパーティが摘み出され、協力してくれた客達が戻ってくると、リョウジは一人一人にお礼を言いながら酒を渡していく。

 そして全員分の酒と料理が行き渡ったところで、リョウジはマスターに尋ねた。

「すみません、さっきの人達って、結構ここに来るんですか?」

「ん?ああ、夕飯は大体ここで食ってくな」

「でしたら、次に彼等が来た時は、普段よりちょっと上等な食事を出してあげてください」

 言いながら、リョウジは銀貨4枚をマスターに渡した。それを受け取りながら、マスターは疑問を口にする。

「あんた、あいつらのことは嫌ってねえのか?」

「嫌いですよ。ですが、だからって敵が増えていいという訳でもないので。これで敵が増えずに済むなら、安いものでしょう?」

「……あんた、元は商人か何かか?」

「一般人です」

「S級の時点で一般人は無理があるぞ」

「スキルが特殊だっただけですよ。元々は本当にただの一般人です」

「やり口が一般人のそれと既に違いすぎるんだが……これで一般人だと言い張る辺り、S級ってのはとんでもねえ奴等なんだな……」

 こうして、新たな誤解を生みだしつつも、リョウジとコウタの食事は平和に進むのだった。


 翌朝、リョウジはめぼしい依頼が見つからなかったため、コウタを連れて散歩に出ていた。

 既に半年以上はこの世界にいるため、コウタもだいぶ慣れてきており、家に帰れと騒ぐことはほとんどなくなっていた。代わりに、宿の部屋が退屈だと騒ぐことが増えたため、日中はほとんど部屋にいられないのだ。

 リョウジとしては、のんびり部屋でエールとつまみでも楽しみたいところなのだが、全てにおいてコウタが優先になってしまうのは辛いところである。

 町の端から端まで歩き、大通りを歩きながら、そろそろ昼食でも、と考え始めた時だった。

 コォン、コォン、コォンと、特徴的な鐘の音が三回響き渡り、続いて衛兵の大声が聞こえてきた。

「浮揚馬車が来るぞぉ!道を開けろぉ!」

「おーしゃ」

「浮揚馬車ね。危ないからちょっとずれようね」

 言いながら、リョウジはコウタを連れて通りの端まで寄った。しばらくすると、全力疾走する二頭の馬と、その後ろに不自然に浮かんだ箱型の客車が見えてきた。

「こっき」

「飛行機……とは違うかなあ。浮いてはいるんだけどね」

 初めて見た時は面食らったものだが、これまでに二回ほど見ているため、既に驚きはない。客車が魔力で浮かんでいるため、馬の負担が非常に小さく、貴族などが火急の用件がある時に使うらしい。非常に速く、なおかつ乗り心地も非常に良いものらしいが、乗った瞬間に客車をただの箱にする未来しか見えないため、リョウジは乗るのを諦めている。

 そのまま珍しい見世物を見送ろうと思っていたところ、その御者はリョウジの顔を見ると不意に手綱を引き、浮揚馬車は急減速する。

 完全に止まった直後、馬車の扉が開き、中から一人の少年が飛び出してきた。

「やあ、あんたが『子連れ狼』のリョウジで合ってる?」

 思った以上に若い人物が出てきたことと、なぜか自分を指名されたことに驚きつつも、リョウジは何とか返事をする。

「え、ええ。確かに私ですが、ええと、あなたは?」

「俺?俺はシラッド」

 そう言ってから、シラッドはニヤリと笑った。

「あんたと同じ、S級冒険者だよ」

 新たな面倒事の気配を感じ、リョウジの顔が引きつる。それでも何とか作り笑顔を浮かべ、リョウジは尋ねた。

「では、私の先輩ですね。それでその、シラッドさんは、私に何かご用でしょうか?」

 それを聞いた瞬間、シラッドは待ってましたとばかりに大声を張り上げた。

「S級冒険者、『子連れ狼のリョウジ』に指名依頼だ!この俺、シラッドと一対一の決闘をしろ!」

「慎んで、お断りします!!!」

 シラッドに負けぬ大声で叫びつつ、リョウジは手で×を作る。それを見たコウタは「ばとぅん……」と小さく呟いていた。

「いや早えよ!?慎むんなら受けろよ!?」

「無理です!私は戦闘苦手です!絶対負けます!」

「最古のドラゴン殺した奴が何言ってるんだ!戦闘苦手な奴があんなん殺せるかよ!」

「相性が良かっただけです!純粋な戦闘力はC級の皆さんにだって劣ります!」

「ぐだぐだ言ってねえで受けろよ!依頼料で金貨でも出してやろうか!?」

「要りません!大金貨お渡しするので撤回してください!」

「ふざけんな!白金貨渡すから受けろ!」

「大白金貨でお返ししますんで撤回してください!」

「うおぅ……そ、それはさすがに返せねえな……金持ち過ぎだろ」

 想像以上の金持ちぶりにシラッドは一瞬怯んだが、ならば攻め手を変えるかと再び笑みを浮かべる。

「だったら、S級の指名依頼を正当な理由なく断ったってことで、資格剥奪してもらうかぁ。さすがに、それは困るんじゃねえのー?」

「こっちもS級なので、S級権限でお断りしたいところです」

「S級なり立てのあんたと、前からS級だった俺と、どっちが優先されるかな?」

「……」

 そう言われると、リョウジは言葉に詰まった。

 実際問題として、この世界は日本ではない。決闘は禁じられておらず、それどころかエンターテイメントの一つですらある。まして、S級同士の決闘ともなれば、相当な数の見物人が来るだろう。

 既に、シラッドは決闘を大声で申し込んでおり、S級同士の決闘という噂は町中に広がり始めているだろう。ここで、リョウジが断った場合、せっかくの見世物が見られなかった民衆の不満はこちらに向かうことになる。

 日本であれば、法が守ってくれるだろう。しかし、この世界では法よりも民衆の感情などが優先されることも多々あり、資格剥奪というのも十分にあり得る話である。

 持ち切れない資産を預けており、身分証としても使え、何より色々な優遇が受けられるS級冒険者という身分は、無くすにはあまりに惜しい。であれば、ここは受けるしかないかと、リョウジは腹をくくった。


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