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最強は私じゃなくて障害持ちの息子です  作者: Beo9
十四章 S級からの挑戦
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最年少のS級冒険者

今回は短めです

 とある山奥に、崩れかかった砦の廃墟がある。

 それはかつてあった国が、隣国との戦争に備えて作り上げたもので、今では半分ほどの大きさになってしまったとはいえ、立て籠もれば小隊相手でも十分に戦える程度の機能は残っている。

 雨風が凌げ、いざという時の防衛にも使えるそういった遺物は、しばしば盗賊などの住処となっており、この砦もご多分に漏れず、野盗の住処と化していた。

 他と些か違うところがあるとすれば、現在この砦は妙に緊張感が漂っており、各所に見張りが置かれ、その場にいる全員が武器を携帯しているところだろう。

 砦の奥には、恐らく部隊長が使っていたであろう個室があり、そこは現在野盗の頭領の私室と化していた。

 散らかった酒瓶、床に散乱する略奪物、攫われ慰み者にされた女性――といったものは一切なく、部屋の中は小奇麗に片付いていた。

「報告は何かあったか?」

「いや、まだ何も。しかし、マジで来るんですかねえ?」

 部屋の中にいるのは、盗賊とは思えないほど手入れの行き届いた鎧を身に付けた頭領に、同じくかなり手入れをされた鎧を身に付けている配下の男の二人だった。

「S級なんて、そんなホイホイ捕まるもんでもないでしょうに。大体、そいつが来たってこの布陣ですよ?」

 勝手に部屋の中にあった酒瓶の栓を抜きつつ、配下の男は言葉を続ける。

「外には見張り多数、見張りを見張る奴もいる。万一侵入できたって、この細っせえ廊下に等間隔で手練れ6人配置して、ここまで来たら俺とあんたの二人だ」

 ぐいっと酒を煽る配下の男を、頭領は黙って見ている。

「っぷは!まっず……」

「それの美味さをわからんとは、哀れな奴め」

「銅貨7枚の酒の、どこに美味さがあるってんですか……俺はむしろ、『銀狼のクイン』唯一の欠点だと思ってますけどね?」

「……その名で呼ぶな。もう捨てた名前だ」

「ウェイルースが暴れ出すのが、もうちっと早ければよかったんですけどねぇ~。あ、でもウェイルース相手じゃ、うちみたいな傭兵団なんかプチッと潰されて終わりですかね?」

「……」

 その言葉には答えず、クインと呼ばれた男はただ眉間に皺を寄せる。

「は~あ、精強な傭兵の銀狼団も、今や精強な野盗の銀狼団。何とも世知辛い話で――」

 コン、と扉が小さな音を立てた。

 瞬間、二人は抜剣して身構え、扉の向こうの気配を探る。しかし、扉はそれ以降沈黙したまま、何も動きはない。

「……確かに、聞こえたが」

「俺が確認してみます。やられたら骨は拾ってくださいよ?」

 配下の男は慎重に扉へ近づくと、静かに呼吸を整えた。

 直後、勢い良く扉を蹴り開ける。廊下にいた部下が驚いてこちらを振り返るのと、後ろから妙な音が聞こえるのは同時だった。

 かちゅ、とも、ぐちゃ、とも聞こえる、硬質な音の中に、湿ったような響きを持つ音。それは傭兵として戦場にいる間、よく聞いた音だった。

「……え?」

 振り返った視線の先では、クインが頭に何か生やしていた。

 それは鈍く銀色に光り、幅広の刃を持つ斧だった。薪割り用に砦で使っていた物だったそれは、彼の頭を薪の如くかち割っていた。

 クイン本人も何が起きたのか全く理解していなかったようで、その顔には驚きの表情すら浮かんではいない。

 その斧と頭の隙間から、真っ赤な血が流れ始める頃、クインはぐらりとよろめき、そのまま地面に倒れ伏した。もはや手遅れだということは、誰の目にも明らかだった。

「て、敵襲!敵襲だぁー!隊長がやられたぞ!全員、侵入者を探し出してぶち殺せえ!!」

 ようやく事態を飲み込めた男がそう叫ぶ頃、その砦から百メートルほど離れた森の中で、一人の少年が笑っていた。

「探し出せるわけないだろ、タコ。もうとっくに離脱済みだっての」

 ゆっくりと歩き去りながら、彼は大きく伸びをする。

「さぁって……傭兵崩れの銀狼団、頭領討伐終了。大金貨2枚確定っと。色々準備はしてたみたいだけど、ちょーっとS級を舐めすぎだったね」

 まるでなんてことの無いように言うと、彼は悠々と町へと戻っていくのだった。


 町に戻った少年は、そのまま冒険者ギルドへ向かい、受付嬢にタグを渡した。

「はいこれ、処理お願いね」

「え?えっと、シラッド……さん?何か忘れ物でも?」

「だーかーらー、もう依頼は終わったから、入金処理してって言ってるの」

 その言葉に、受付嬢は驚いて聞き返す。

「ええっ!?で、でも、依頼受けたのって数時間前じゃ……!?」

「4時間前ね。銀狼団の頭領クイン、頭を斧でかち割って討伐完了。あ、アジトの位置はここ、廃砦を根城にしてるから、残党処理は他の人にやってもらってね」

 シラッドと呼ばれた少年はさらさらと述べると、近辺の地図に印を書き込んだ。彼の受けた依頼は、その辺りにあるはずのアジトを探し出し、頭領を討伐しろというものだったので、確実にこなしてきたであろうことは想像がついた。

「はぇぇ……さすが、S級の人っていうのはすごいんですねえ……」

その言葉に、シラッドは得意げに笑ってみせた。しかし、その笑顔は受付嬢が続けた言葉によって消える。

「そういえば、隣町にも別のS級の人が来たって聞きましたよ。確か、つい最近S級に上がった人でしたね」

「へぇ……そいつの名前は?」

「ええっと、リュウ……じゃない、リョウジ、です」

「リョウジね、あんがと。んじゃあ、挨拶にでも行くかぁ~」

 そう独りごちるシラッドの顔には、再び笑みが浮かんでいた。しかし、その笑みは到底、友好的なものではなく、壊してもいい玩具を見つけた少年のような、そんな笑みだった。

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