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最強は私じゃなくて障害持ちの息子です  作者: Beo9
十三章 もう一人の日本人 邂逅編
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一時の救国

「おっかしいな、これだけ倒したら普通は逸れるよな?」

「もしかしてこれ、複数の群れがまとまった大移動なのかもしれねえですね。あとはやっぱ、こっちの攻撃だと認識されてねえか……」

 その話を聞いていた良治は、洸太を連れてやおら操縦席へと移った。レバー二本とペダル二つ、右手側のアクセルレバーを確認すると、左のトランスミッションを操作する。

「えっと、これどっちもクラッチ……?あ、ハイロー切り替えか。んでこれが……ぐ、おおお!か、硬ったぁ!?あ、そういや回転数合わせるんだっけな」

 何やら独り言を呟きながら格闘する良治に、伸行が声をかける。

「宮田さん、何してるんスか?」

「要は、この戦車がやばい奴だと伝わればいい訳ですよね?こう言えば伝わりますかね、『カモが鉄砲しょって来やがった!』」

「え……?あ、『まとめてひき殺してやる』ってことですか!?」

 良治は苦心の末にギアを入れると、操作レバーを前に倒した。直後、戦車がガクンと動き出す。

「ちょっ、待った!この戦車、装甲薄いんですけど!?」

「それでも、3センチの厚さの鉄板はなかなか貫けないと思いますよ!機銃の方も、よろしくお願いしますね!」

 戦車が群れの先頭に迫り、そして正面からぶつかった。

 ガァンと強めの衝撃はあったものの、戦車はクリムゾンバッファローを容易く吹き飛ばし、続く数頭も次々に撥ね飛ばしていく。いくら巨体とはいえ、所詮は生身である。戦車側は主砲発射より小さい程度の衝撃しかなく、反対にクリムゾンバッファローは撥ねられ、轢かれ、次々に数を減らしていく。

 何頭かのクリムゾンバッファローが、仲間がやられたのを見て襲い掛かってくる。しかし鋼鉄の車体はびくともせず、反対に襲ってきた相手を跳ね飛ばし、倒れた所を踏み潰す。

 これまで、自身が当たり負けることなど無かったクリムゾンバッファロー達は、ようやく目の前の存在が危険な存在だと認識し始めた。直接当たらずとも、近くを通った者は次々に倒れ、たまに響く轟音の後は何頭もの仲間が死んでいる。

 少しずつ、クリムゾンバッファローの進路が変わり始めた。良治達もその動きに気付き、深追いせず城門に近づくクリムゾンバッファローだけを攻撃するように動きを変える。

 やがて、クリムゾンバッファロー達は王都を迂回するように、完全に進路を変えた。念のため、良治達は戦車に乗ったままで城門前に立ち塞がり、逸れた者が突進してこないか警戒していたが、群れの数は少しずつ減っていき、やがてすべてのクリムゾンバッファローが走り去って行った。

「守り……きった……!」

 バイドが、呆然と呟く。その言葉に、伸行も力強く頷いた。

「ああ……やってやった。あんな絶望的な状況を、俺達でひっくり返してやったんだ」

 目を瞑って小さく深呼吸をすると、伸行は車長席に近づいた。

「悪いバイド、ちょっとどいてくれ。俺は一回外に出る」

「あ、はい……わかりました」

 場所を交代し、伸行は上部ハッチから車外へと出た。

 王都を見れば、自分が壊した以外は無傷の城門が見える。そこから、衛兵や魔法兵、市民達までもがこちらを見ているのが見える。

 驚き、信頼、疑い、憧れ。様々な感情をその目に宿しつつも、全員の目に感謝の念が浮かんでいるのが分かる。それだけで、もう満足だった。

 自分が守り切ったものをゆっくりと見回すと、伸行は一度目を瞑り、ゆっくりと息を吐いた。そして、ジャレッドが口を開く。

「我が祖国、ウェイルースよ!今一度言おう!私は、国への忠は捨ててはいない!」

 その声は驚くほど大きく、それこそ王都全体に響き渡るほどに良く通る声だった。

「故に、私はここに来た!滅亡から救い上げたことで、私は私の忠を通したつもりだ!」

 見ている者達の間に、ざわざわと囁きが広がっていく。それを感じながら、ジャレッドは言葉を続けた。

「そして、これで完全に繋がりは断たれた!もう、会うことはないだろう!さらばだ、ウェイルース!」

 その言葉を最後に、祖国に背を向ける。するとその背に、いくつもの言葉が掛けられた。

 感謝の言葉、怒りの言葉、疑いの言葉、嘆願の言葉。自身に掛けられるいくつもの言葉を聞きながら、ジャレッドは61式戦車の中に戻った。

「……すみません、このままどっか、見えない所まで走ってもらっていいッスか?」

「いいですよ。私ももうちょっと、これの操縦やってみたいと思ってましたから、ちょうどいいです」

 そうして、救国の英雄達は、そのまま走り去って行った。後を追える者はおらず、そもそも追えたところで戦車より速く走れる者もいなかったため、彼等はただ見送ることしかできなかった。


 たっぷり一時間ほど走って、良治は誰もいない草原で戦車を止めた。一瞬の間を置き、戦車がフッと掻き消え、良治達は地面に着地する。

「送ってくれてありがとうございました。俺はこのまま、解放騎士団の方に戻ります」

 そう言い、バイドは静かに頭を下げる。

「ジャレッド将軍、リョウジさん……俺達の国を救ってくれて、ありがとうございました」

「お前も一緒にやってただろ。お礼なんかいらねえって」

 軽い調子で言う伸行に、バイドは複雑な表情を浮かべた。

「将軍……恐らく、ウェイルースはもうダメです。俺達だって……将軍を殺そうとしたウェイルースには、ついていけねえです」

「……」

「将軍、俺達と一緒に来ることは、できませんか?」

 その言葉に、伸行は首を振った。

「無理だな。俺はもう、ジャレッドじゃねえ。そんな名前に縛られねえで、自由に生きるつもりだ」

「……わかりました」

 結果は予想していたらしく、バイドは寂しげに笑った。

「俺は解放騎士団から抜ける奴を集めて、傭兵でもやります。もし、もしも、将軍がどうにもならなくなったら、俺を頼ってください」

「おう。その時は一兵卒からやり直してやるよ」

「いや、切り込み隊長ぐらいやってもらいますからね?」

 最後に二人で笑い合い、がっちり握手を交わすと、バイドは駆け足で去って行った。

「……ここから解放騎士団とやらまでは、どれくらいあるんです?」

「えーっと、大体30キロぐらいッスかね」

「あの人頭おかしいんじゃないですか?」

「ウェイルースの、特に解放騎士団は異常者の集まりッス。第一狂ってる団といい勝負ッスよ」

 そう言うと、伸行は再び攻撃ヘリを作り出した。二人がいた町までは相当に距離があるため、さっさとヘリで移動しようという話になっていたのだ。

 今度は数分も飛ぶと、元いた町が見え始める。騒ぎにならないよう、低空飛行で近づいてから離れた場所に着地し、さっさとヘリを消す。

 その後は問題なく町に入り、二人はようやく一息ついた。

「それで……佐々木さんは、これからどうします?一緒に日本に帰る手段でも探しますか?」

 良治が尋ねると、伸行は首を振った。

「や、正直惹かれますけど……今更戻ったって、戸籍やら何やらの問題もありますし、このナリで日本人ってのも無理がありますし」

「新しいゲーム、色々出てますけど?」

「だからそういう未練作り出さねえでもらえます!?めっちゃやりたいはやりたいんスからね!?」

 少し笑ってから、伸行は真面目な顔になった。

「あと、見ての通り、俺は追われる身ッス。国を救って忠を示したとはいえ、逆恨みした馬鹿に狙われる可能性もあるんで、宮田さんとはここで別れた方がいいと思います」

「そう……ですね。本当に残念ですが、その方が良いんでしょうね」

「それに俺、この世界でやりてえことがあるんですよ」

 そう語る伸行の目は、大志を抱く少年のような目だった。

「何をしたいのか、お聞きしても?」

「こんな世界に生まれ変わったんだから……ナイスバディの、グラマーなエルフと結婚したいんスよ!!!」

 そう語る伸行の目は、大志を抱く思春期の男子のような目だった。

「……はい」

「え、反応薄っ!?憧れません!?」

「あ、いや、私妻子持ちなんで……いやまあ、憧れない訳ではないですけどね?」

「ですよね!?巨乳エルフとか最高じゃないッスか!?」

「いえ、私は貧乳エルフの方が好みです」

「え、なぜ?」

「なぜって、ただの好みです」

「……え?宮田さん貧乳派?」

「エルフはスレンダーな方が似合うと思うので……いやまあ、どっちかと言われれば貧乳派ですね」

「理想のカップは?」

「無からBです」

「無!?無って!!どっちかどころかバリバリの貧乳派じゃねえッスか!!ダメだ!この人とは歩む道が違いすぎる!」

 アホな話で笑い、そんな父を見て洸太も楽しくなったのか、うふうふと笑っている。

「ま、それはそうと。もう、俺には何も手伝えることはないと思いますけど……日本に帰れるように、応援してるッス」

 伸行は左手を差し出し、良治はその手をがっちりと握り返した。

「ありがとうございます。動画も必ず届けますよ」

「……お願いします」

 少し寂しげに笑ってから、伸行は表情を改めた。

「っと、ちなみに冒険者をやるにあたって、お勧めの町とかあります?俺、ウェイルース周辺のことしかわかんねえんスよ」

「でしたら、いつかトリアの町に行ってみてください。あそこはギルドで講習やってますし、ギルドマスターが魔法斬りとかで有名な人ですよ」

「ああ、『魔法斬りのディラン』ッスか!そりゃ行くしかねえッスね!」

「あとは、フォーレン商会がある……何だっけな、あの町の名前……?とにかく、そこも色々あって過ごしやすい町になってると思います」

「フォーレン商会っつったらゼラフォンの町ッスかね?今度行ってみますよ」

 名残を惜しむように最後の会話を交わすと、今度こそ二人はお互いに頭を下げた。

「んじゃあ……お元気で」

「お世話になりました、佐々木さん。貴方もお元気で」

 そうして、伸行は冒険者登録をしにギルドのカウンターへ向かい、良治と洸太は依頼書を探しに向かった。

「はぁ……ひっさしぶりに日本人の人と話せたけど、楽しかったね」

「……」

「絶対に、日本に帰らないとね」

「ひっこった」

「え?」

「ひっこった。ひこった!」

「ひっこ……ああ、ヘリコプターのこと!?いや、あれはお父さん出せないから……!」

「ひっこった!!どいよぉ!ひっこったぁー!」

「いやダメよって言われても……あのね洸太、落ち着いてくれる?あれはお父さん無理だから……」

「ひっこったぁー!!!」

「ああ……そうだね、聞き入れるわけないよね……佐々木さん、カムバーック……」

 そうして、良治は洸太に新たな達成不能の要求をされつつ、新たな護衛依頼を受けて旅立つのだった。ヘリコプターに乗せろという要求は、その後一週間にわたって続くことになるのだが、良治としては『この程度で終わってくれて助かった』という認識であった。


 ほんのわずかな間だけ繋がれた縁は、再び別の道へと分かれていく。しかし、この出会いはお互いにとって大きな出来事となった。

 良治は、絶対に日本へ帰るという信念をさらに強固なものとし、伸行は、前世の記憶を持ちつつも、この世界で生きていくという確かな覚悟を決めた。

 良治にとっては、異世界の中でも変わった経験の一つであったが、伸行にとってはこの日が始まりであったと言っても良い一日だった。

 なお、この日冒険者になったことにより、伸行は波乱に満ちた激動の人生を歩むこととなるのだが、この時はまだ誰も知らない話である。

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