クリエイト近代兵器
翌朝、良治親子と伸行は宿で食事を済ませた後、揃って冒険者ギルドに向かっていた。戦闘が得意である伸行なら、実入りの良い仕事も多々ある事に加え、ギルドで発行しているタグは身分証にもなるため、何かと便利だということで登録に行こうという話になっていたのだ。
「ちなみに、宮田さんは基本どんな依頼受けてるんスか?」
「護衛ばっかりですね。行く先々で、時空魔法の使い手がいないか聞いて回っているので。まあ、変わり種としては料理大会に出る羽目になったこともあります」
「どんな経緯でそんなことになっちまったんスか」
「『異世界人なら異世界の料理知ってるだろ?じゃあ店の評判上げるために出てくれ』ってなって……から揚げマヨネーズ丼出したら好評でしたけど『料理の見た目と技術を競う大会だから、こんな本能で食う料理は似つかわしくない』ってことで初戦敗退でした」
「からマヨか……食いたくなってきたッス」
「シェウスの町の、アドラーさんがやってる食堂で出してくれますよ」
そんな話をしていると、不意に町の入り口が騒がしくなった。どうやら騒ぎが起きているようで、衛兵が誰かを止めようとしているようだった。
「なんか、騒がしいですね」
「やばそうな奴だったら、俺がどうにかするんで安心してください」
やがて、問題の人物が門を突破したようで、馬が駆ける音がどんどん近づいてくる。そして、問題の人物は三人の前に来ると、減速もせずに馬を飛び降りた。
「ジャレッド将軍!」
妙に豪華な軽鎧を身に付けた男は、伸行の前に片膝をついた。それに、伸行は思わずと言った感じで声をかける。
「なっ……バイド!?なんでここに!?」
「ジャレッド?」
「あ、や……ま、しゃあねえッスね。ジャレッドは、俺の本当の……この世界での名前ッス」
伸行は頭を掻きながら、言い辛そうに口を開く。
「ちょっと色々あって、国から逃げる羽目になりまして……本当は俺、ウェイルースの騎士団長やってたんスよ」
「めっちゃお偉いさん。なんでまたそんな目に……」
「お、お前、将軍になんでそんな口をっ……!そ、それに将軍……ですよね!?」
バイドは、記憶にあるジャレッドとは口調も雰囲気も全く異なる姿と、それに親しげに話しかける冒険者に困惑していた。それを察した伸行は、バイドに向かって軽く手を上げた。
「バイド、悪いがジャレッドは処刑台で死んだ。今の俺は、佐々木 伸行だ。あと、この人は俺の同郷人だ」
「……な、何を……し、信じられないですよ。そもそも、別の世界って話じゃ……!?」
「異世界人だよ。この人は、どうも吸引されたみたいでな。元の世界に帰るために、冒険者になったんだと」
「初めまして。良治と言います」
「リョウジ……?え、まさかドラゴン殺しの、子連れ狼のリョウジ!?」
「……良治さん、有名人だったんスか?」
「色々あってS級冒険者です。どこぞの時代劇みたいな異名がついて、最初はちょっと恥ずかしかったです」
二人でこそこそ話していると、バイドは疑うような目つきで二人を見ていた。
「すみませんが……たまたま、前世の記憶を思い出して、たまたま、その前世の世界の人間が迷い込んでて、たまたま、その人に会ったって言うんですか?」
「そういうことだ。さすがに信じられないか?」
「ええ、信じられません」
バイドの言葉ももっともである。信じてもらう必要性は無いにしろ、事実だとは伝えたい。良治は一瞬悩んで、伸行に話しかけた。
「それなら、私達の名前を書いてみましょうか。日本語で」
「ああ、なるほど!ええと、宮田さんは普通の『宮田』ッスよね?良治は『良い』に『次』ッスか?」
「いえ、『良い』に『治す』です。佐々木さんは『信じる』に『行く』で合ってます?」
「ああいや、まんま『伸び行く』ッス。佐々木は『佐藤』の佐を二連発に『木』ッスね」
バイドからすると全く理解できない会話だったが、二人はそれで通じ合っている。そしてそれぞれ何かを書きだすと、揃ってバイドに見せた。
そこには、多少の癖こそあれど『宮田 良治』『佐々木 伸行』と全く同じ文字が書かれていた。
「ええ、と、この暗号は……?」
「暗号じゃねえ。俺の名前と宮……良治さんの名前だよ。別の世界の文字で書くとこうなるんだよ」
「た、確かにこんな文字、普通には書けないですね……」
そこでバイドはハッとした顔になった。
「と、とにかくそれはわかりましたが!将軍、頼みがあります!国に戻ってください!」
伸行はうんざりした顔をすると、小さくため息をついて答えた。
「……バイド、悪りいけど俺は……」
「ああいや、そうじゃなくて!クリムゾンバッファローの大暴走が始まっちまったんです!」
バイドの言葉に、伸行の顔がグッと険しいものに変わった。
「このタイミングで!?原因は!?」
「まったく不明!何かに追われてるんじゃないかって推測されてます!」
「守備隊は何してるんだ!?頭がエリスウェイの馬鹿とはいえ、進路を逸らすぐらいはできるだろ!?」
「それが、真っ向から受け止めに行って壊滅しました!」
「あんのクソ馬鹿野郎何考えてやがる!?」
何やら白熱している二人に対し、良治はトリアの町で食べたクリムゾンバッファローの味を思い出していた。できればまた食べたいなと思いつつ、そんなことを言える雰囲気ではないので、黙って洸太と遊んでいる。
「ジャレッド隊長がいなくなった今、トップに立つのは自分だって勇んだみたいです……!」
「死ね、あの馬鹿!」
「もう死にました!」
「じゃあざまあみろだな!祝杯でも挙げるか!?」
「マジで将軍そんなキャラでした!?」
「だからジャレッドは死んだ!で、王都への予想到着時間は!?」
伸行の言葉に、バイドの顔が悲痛に歪んだ。
「……今日の、昼過ぎには到達するかと……」
「もう間に合わねえじゃねえか!なんでそれを言いに来た!?」
伸行が言うと、バイドの顔が怒りと屈辱に歪む。
「……滅んだ後だっていいんです……!将軍は、裏切り者なんかじゃないって……ただ、それを、証明してほしかったんです……!」
「……」
伸行は軽く息をつくと、じっと目を瞑った。眉間には深い皺が刻まれ、呼吸には抑えきれない声が漏れる。
そんな彼の肩を、良治はポンと叩いた。
「戻ればいいんじゃないですか?」
「宮田さん……!?けど、今更……!」
「悩むってことは、未練があるんですよね?それに、もし国を救えたら、かなり楽しいことになると思いますよ?」
「楽しい事?」
伸行が聞き返すと、良治はにっこりと笑った。
「ええ。何しろ、自分が勝手に疑いを掛けた奴が戻ってきて、国を救うわけですよ。疑いを掛けた奴は、自分が大馬鹿野郎だったと思い知りますし、それに佐々木さんが戻らないと国が滅ぶ。つまり、今回だけは防げても、次回からは防げないと、それを実感させられるわけです。で、佐々木さんが戻らない場合、国民の不満はどこに向かうでしょうか?誰が佐々木さんを追い出したんでしょうか?」
なかなかに悪辣な言葉に、バイドも伸行も耳を疑った。見た目は善人に見えるだけに、発言の黒さが大変に際立っている。
「……疑ってきたのは、国王なんスけどね」
「うわぁ、暗君ですね。じゃあまあ、行っても行かなくても国は滅びると思いますけど、どうします?」
伸行はしばらく黙っていたが、やがて意を決したように口を開いた。
「俺は……私は、国への忠誠は、捨てていない。最後にジャレッドとして、忠を示したい」
「なら、決定ですね。今からでも戻りましょう」
「けど……馬を乗り潰して走っても、間に合うかどうか……滅びた王都に戻っても、嘲笑いに来たと勘違いされそうで……」
「うーん…………もし、間違ってたら申し訳ないですが」
良治は伸行の目をまっすぐ見ながら尋ねる。
「伸行さんって、軍事系好きじゃないです?」
「え、よくわかりましたね?」
「ゲームの好みがそんな感じだったんで。であれば、自衛隊の車両とか出せません?」
しかし、伸行は首を振った。
「や、俺のスキルはあくまで武器じゃないと無理で……ヘリとか高機とか、乗り物は出せないんスよ」
「ドアガンくっつけたUH-1とか、それでも無理ですか?」
「ドアガンついてたっけな……?一応、やってみます」
伸行は広場に手をかざすと、記憶を掘り起こすように目を瞑った。
「クリエイトウェポン!」
しかし、手をかざした先には何も出ず、伸行はがっくりと項垂れた。
「やっぱり、無理か……」
「うーん、武器……武器かぁ……」
良治は洸太を抱き上げて揺らしていたが、すぐにハッとした表情になる。
「あれはどうです!?アパッチとかコブラとか!あれって武器として作られたって感じじゃないですか!」
「……攻撃ヘリっすか!アパッチってのはわかんないッスけど、コブラは触ったことあるッス!」
「あるんですか!?」
「厳しめに怒られましたけど!やってみるッス!」
「ちょ、待った!町の外でやりましょう!ここじゃあ絶対大騒ぎになります!」
一行は町の外に出ると、人気のない草原に向かった。その際、バイドは無理矢理町に入っていたため騒ぎになりかけたが、伸行がジャレッドとしての顔を見せ、休暇に来ていた自分を連れ戻しに来たという設定にしたため、辛うじて騒ぎは収まった。
町が見えなくなる程度まで離れると、伸行は改めて手をかざした。
「んじゃあ、今度こそ……クリエイトウェポン!」
言い終えた瞬間、目の前に極端に細身のヘリコプターが現れた。さすがに全員が驚いたが、良治と伸行は上手くいったとハイタッチを交わす。
「やった!これで間に合うはずッス!」
「やりましたね!これなら……あ、ちょっと待った。これ、誰が操縦するんです?」
「……」
良治と伸行は、お互いの顔をじっと見つめた。
「……宮田さん、免許持ってますよね?」
「車乗れるんだからヘリ乗れるだろっていうのは、プラモ組み立てられるんだから爆弾解体できるだろ並の暴論ですよ」
「それでも、カラーボックスすら組み立てたことない人よりは任せられません?」
「むしろ佐々木さんこそ、今から練習しておかないと、出せるけど使えないってことになりますよ?」
「俺が操縦すると死ぬかもしれないッスけど、本当にいいんスか?」
「いい訳無いでしょう……わかりました、今回だけは私が何とかしてみますよ」
話がまとまると、二人は改めてヘリを見つめた。
「……で、これどうやって開けるんですか?」
「……」
伸行はしばらく黙っていたが、やがて自分の前に手をかざし、ヘリを消した。
「クリエイトウェポン!これでオッケーッス!」
今度はコックピットが開いた状態で作り出されており、中にはヘルメットまで置いてある。操縦席なら前だろうと、良治も伸行も全く疑うことなく思っており、良治が前席、伸行は後席に乗り込もうとする。
しかしそこで、バイドが慌てて声をかけた。
「ま、待ってください!将軍、俺も連れて行ってください!」
「悪いなバイ太、これ二人乗りなんだ!」
「ば、売女……?あ、あの、とにかく括り付けられてでも何でもいいんで、俺もお願いします!」
「つってもな……ん~、宮田さん、どうにかできます?」
「うぅ~ん……足の部分に、網でも張りますか。とりあえずロープで代用してみますね」
良治は持っていたロープをスキッドの間に張り、簡易の網を作った。そして身に付けていたシルバーシープのマントを脱ぐと、それをバイドに手渡す。
「え?えっと、これは?」
「シルバーシープのマントです。絶対寒いので、これを着ておいてください。あと、すっさまじい音がするので、耳栓もあればお願いします」
「さ、寒さなど!ウェイルースの兵たる俺には……!」
「バイド、言う事聞いときな。これ絶対、お前の想像の数百倍はやべえもんだから」
「しょ、将軍がそう言うんなら……」
バイドは渋々マントを受け取るとそれを羽織り、地面を這ってスキッドの間に張られたロープ内に収まった。
それを確認して、いよいよ日本人組もヘリに乗り込み、ヘルメットを被ってキャノピーを閉める。直後、ヘルメットに内蔵された無線から伸行の声が聞こえた。
『って、こっち操縦席なんスけどぉー!?』
『みたいですねえ、こっちミサイルとか何とか表記あります』
『俺運転……いや、操縦とか無理ッスよ!?』
『代わりたくもありますが……あの、洸太がもう大ハッスル中でして、いずれにしろ私には操縦は無理かと』
言われてみれば、無線から『えりえりえりあり!』という早口の洸太語が聞こえてきており、前席で何かが大暴れしているのも見える。
ただでさえ狭い攻撃ヘリのコックピット内であの大暴れはさぞかし辛かろうと、子供のいない伸行でも容易に察せられた。
『わかった、わかりました。死んでも恨まないでくださいよ?』
『末代まで祟ります』
『死んだら俺で末代ッス』
『と、とにかく操作はゆっくりでお願いします。急発進、急ハンドル、急ブレーキは絶対ダメですからね』
二人とも、ヘリ自体は知っていても操縦など出来るわけがない。しかし、やらねばならないということで、色々とレバーやボタンなどを確認し、何とかそれぞれの役割を把握できつつあった。
『これ、すごいですねえ。見た方向に射撃できるっぽいですよ』
『うっわー、超やりてえッス。あとで代わってもらえません?』
『用事が済んだら存分にやれません?』
そんな話をしつつ、伸行は不安2割、興奮8割で離陸操作に移る。良治としては、きれいにその反対の割合、つまり不安8割、興奮2割である。
難しい操作をするつもりはないらしく、定員の倍の人数を運ぶコブラはゆっくりと浮かび上がり、そして急激に横へと傾いた。
『ちょぉぉい!?た、立て直してください!!』
『これでこんな反応すんの!?てか旋回ってどうやるんだ!?』
『うぁへぇぇぇい!!』
危うくいきなり墜落しかけたものの、本当にギリギリで体勢を立て直すことができ、命の危機は去った。洸太だけは楽しげだったが、機内の二人と外の一人は全く生きた心地がしないところであった。
ついでに操作も少しわかったようで、コブラはゆっくりと向きを変え始める。
『すんません、今度こそウェイルース向かいますんで!』
『くれっぐれも安全運転でお願いします!バイドさん死にますし!』
『そういやいたっけ……』
『忘れないであげてくださいね!?』
そうして、異世界に出現した戦闘ヘリは、一直線にウェイルースの王都へと向かっていくのだった。




