不運と幸運
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
それからはまた、二人は日本の話で盛り上がった。
現代ではネットが発達し、今や携帯電話でもネットができること。世界中のプレイヤーとゲームで対戦や協力ができること、消費税が10%まで上がったこと、レギュラーガソリンが150円を突破していること、ゲームの映像が非常にリアルになったこと、日本はまだ平和なこと。
話題はいつまでも尽きず、それこそ一週間ぐらいは語り合えそうだったが、夕方に差し掛かる頃、二人は同時に身構えた。
「……やっぱり宮田さん、この世界に慣れ過ぎじゃないッスか?」
「子供を守る必要があるんで、嫌でも慣れざるを得なかったんですよ」
今度は野盗の集団だった。一行は囲まれており、相手の数は20近い。しかも飛び道具を持った相手もおり、かなり分の悪い状態である。
「お前等、たった3人で何ができるってんだ?悪い事は言わねえから、積み荷を置いて行きな。そしたら俺達も手は出さねえよ」
良治は念のため、エウファンに視線を送る。戦闘する人数だけ考えれば、2対20である。1人で10人捌かなければ勝てないという、恐ろしく不利な条件である。さすがに、エウファンも商品を諦めようと思ったところで、伸行が口を開いた。
「はっ、たかだか盗賊風情が、俺に勝てるつもりとか笑えるぜ」
とんでもない挑発に、良治もエウファンも驚いてそちらを見たが、伸行は本心で言っているようだった。
「ああ!?てめえ、何言ってやがる!?」
「勝てると思うなら、やってみな。俺一人で相手してやるよ」
「ちょ、ちょっと佐々木さん!?」
慌てて声をかけると、伸行は安心させるように笑った。
「大丈夫ッス。俺、強いんで」
その言葉に、野盗達が一斉に武器を構えた。
「てめえら、そいつをぶっ殺せ!」
「宮田さん、流れ矢だけ気を付けてください。クリエイトウェポン!」
襲い掛かろうとした野盗達は、一歩踏み出したところで足を止めることとなった。
そこには、城攻めに使うような巨大なバリスタが現れていたのだ。そしてそれは、野盗達の親玉に向けられている。
「……やるか?」
「な、な……て、てめっ……あ、いや、あんた……貴方、様はっ……!?」
「20人いりゃ勝てるんだろ?やってみようぜ、なあ?」
「ぜ、全員武器を捨てろぉー!降参!降参だぁー!」
野盗達の半分は即座に降参したが、残り半分はなぜそうなるのかが分からなかったようで、次々に声を上げた。
「親分!でけえ武器出したからって何なんですか!俺達の方が圧倒的に多いんですぜ!?」
「馬鹿野郎!そいつは手出ししたら死ぬぞ!武器どうこうじゃなくて、そいつがやべえ奴なんだよ!」
「自分に武器向けられたからって臆病風に吹かれたかよ!だったら、俺達だけでやってやるよ!」
「おい馬鹿やめろぉ!」
10人の野盗が、伸行に襲い掛かる。そのうちの2人が弓使い、残りは斧や剣など、様々な武器を持っている。
襲い掛かってくる相手を見て、伸行は楽しげに笑った。
「そうこなくっちゃ、なあ?」
飛んできた二本の矢を、素手で掴み取る。それを先頭の二人に投げつけると、狙い違わず喉を貫いた。そして即座にバリスタを弓使いに向ける。
バスン!と大きな音が響き、二人の弓兵が消えた。正確には爆ぜたのだが、あまりに一瞬のことで、何が起きたか分かる者はいなかった。
剣が振り下ろされる直前、飛び込んで相手の腕を押さえ、目に指を突き刺す。たまらず剣を離した瞬間、奪った剣が野盗の喉を貫いた。
横振りに斧が襲い掛かる。伸行は足を上げ、それを踏みつけて飛び上がり、後ろに回ると同時に落下の勢いを利用して背中を斬り裂く。
「クリエイトウェポン」
その手にフォチャードが現れる。振りかざされた剣を鉤で絡め取り、ぐるりと回して地面に押さえつけると、素早く剣を外して胸を貫く。そこに襲い掛かってきたもう一人の野盗は、柄で顎をかち上げられた後、石突で目から脳まで貫かれた。
それこそ、10秒も経たないうちに8人もの仲間が殺され、残りの2人は立ち竦んだ。
「……来いよ、10人いりゃあ勝てるんだろ?あと二人になっちまったけど、勝てるんだよなあ?」
その顔には、笑顔が浮かんでいた。その瞬間、残り二人の野盗も察した。
この男は、人間の姿をしているが、同じ人間ではないのだと。殺しが楽しくてたまらない、生粋の殺人者なのだと。
「ひ、ひぃぃ!や、やめて……こ、降参、降参します!」
即座に武器を捨て、降参する野盗達。それを見ると、伸行は面白くなさそうに鼻を鳴らした後、武器を消した。
「じゃ、こいつら捕縛しますか。宮田さーん、縄持ってます?」
「え、あ、はい。ありますよ。しっかし、本当に強いですね……」
「な、なんでだよ……!?なんで、冒険者なんかと一緒に……!?」
言いかけた野盗の親玉に近づくと、伸行は低い声で言った。
「余計なことを言うと、弓使いみたいになっちまうかもな?」
「っ……!」
もはや全員顔面蒼白であり、良治が縄を持って近づいても、誰も抵抗などしなかった。
野盗達を全員捕縛し、再び町への道を歩き出す。幸い距離は近く、既に町の光が見え始めているため、一行の空気は軽いものだった。
程なく町に着くと、12人の野盗を衛兵に引き渡し、報奨金をもらって護衛任務を終える。今回は戦ったのがほぼ伸行一人だったため、報奨金は彼の総取りとなっていた。
「いやあ、素晴らしい腕前でした。ぜひ、貴方には冒険者登録をして頂きたいものです」
一日でオーガ3体と20人の野盗に襲われるという、なかなか見ないレベルの不運に見舞われつつも、無傷で切り抜けることのできたエウファンは上機嫌だった。しかも、護衛の代金は一人分だということで、なおホクホク顔である。
「それもいいかもしれないッスね。護衛とか討伐依頼なら、俺でもやれそうッスし」
「もし冒険者になるなら、一度はぜひトリアの町に行ってみてください。今あそこでは、冒険者を始める人に講習をやってますので」
「宮田さんが講師やってたっていうあれッスね?確かに、見てみたいッスね」
エウファンと別れ、二人はそれぞれに宿を取る。食堂でも二人は一緒にいたが、洸太の世話に追われる良治はあまり話す余裕が無い。
「しかし、佐々木さんは今おいくつなんで……洸太、ちょっと待って。これ、これあげるから、そのお肉取らないで」
「ごきふん。ごきふん!」
「ああわかったわかった、じゃあお肉食べていいから、ちょっとだけ大人しくしてもらえる?ああ零さないで、そこ拭いてあげるから……ああスープダメ!」
「おあぁー!だぁり!ばーとぅん!」
「手ぇ突っ込んだら熱いに決まってるでしょ……はいはい、熱かったね。お肉追加してあげるから怒んないで」
「……ちょっと思ってましたけど、子育てって大変なんスね……」
自分だけ悠々と食事をしているのに罪悪感を覚えつつあった伸行がそう呟くと、良治は苦笑いを浮かべた。
「いや、この子はその中でも選りすぐりの精鋭なので……保健師の人には、普通の子12人分の難易度って言われました」
「もう保母さん……保父さん?やったらいいんじゃないッスか?」
「手間の割に給料安いんで無理です。あと洸太だけでもこれなのに、他の子の面倒は見たくないです」
「そ、それもそうッスね……その子、寝た後なら話できますかね?」
「寝るの遅いんですよこの男……基本、0時くらいです」
「おっそ。起きるのは8時くらいっすか?」
「5時か6時です」
「はっや!?ナポレオンか何かを目指してるんスか?」
「寝ないで偉くなれるのなら、私は今頃神ですね」
それでも、この日はたまたま23時ごろに洸太が寝てくれたため、二人は少しだけ話をすることができた。
日本を懐かしむように色々な話をし、そろそろ寝ようかという頃に、伸行はぽつりと零した。
「母ちゃん……まだ、生きてるんだろうなあ」
「一緒に日本帰る手段探します?」
良治が尋ねると、伸行は苦笑いを浮かべて首を振った。
「いやぁ、さすがにこのナリで『俺、伸行!』ってのは無理があるかと……」
その言葉に、良治は優しい笑顔を浮かべた。
「親だと、結構子供の事わかったりしますよ。私だって、洸太が別の子供達と一緒にいても、一瞬で見つけられますし」
「洸太君は特殊すぎじゃないッスか?」
少しだけ笑って、伸行はまた軽く息をついた。
「けど、話したいことは確かにあるんスよね……俺は元気でやってるとか、先に死んでごめんとか……」
少しの間、二人の間に沈黙が落ちた。少しして、良治は不意に立ち上がると、自分の荷物を漁りだした。
「この辺だったと思ったけど……あったあった」
リュックから引っ張り出したのは、もはや電源を入れることもなくなったスマホである。それを見て、伸行は目を丸くする。
「でかいポケベルッスね?」
「だからポケベルはもう死んだと……これはスマホ……スマートホンって奴で、要は今の時代の携帯ですね。これで携帯、メール、デジカメ、ネット、物によってはクレジットカードにだってなります」
「うっへえ、まさに未来のテクノロジーッスね。で、それで何を……?」
「……よし、まだ20%あるな。伸行さん、ビデオレターって知ってます?」
「あ、昔見てたテレビでありましたね……え、それやるんスか!?」
「そうです。私は絶対に日本に帰ります。そうしたら、佐々木さんのお母さんにも会えます。その時に、見せてあげられるかと」
「え、いや、いきなりそんな……!?」
「じゃあ充電の残りも少ないんで、一発撮りで。はい、いきますよ、スタート」
「ちょっ、待ぁ!?え、マジで始めてます!?」
「始めてます。充電切れる前にどうぞ」
「宮田さん強引だってよく言われないッスか!?」
突然始まった撮影会に驚きつつも、伸行は何とかメッセージを残すことができ、二人で揃って動画を確認する。
「うぅわ、なんか恥ずいんスけど……」
「やる本人はそうでも、親からすれば嬉しいものですよ」
「俺の方が年上のはずなのに、宮田さんめっちゃ親みたいになってる……」
「前世17歳、現世18歳じゃ私の方が年上ですしね」
「7年のブランクはでけえッスね」
それから、良治は伸行の家の住所を聞き、それを携帯のメモ帳に入力すると、再び電源を落とした。あとはもう寝る時間になっていたため、伸行は自分の部屋に戻り、良治はこっそり買っておいた地酒を飲んでから眠りにつくのだった。




