現日本人と元日本人
エウファンの荷馬車を左右で挟む形で、良治と伸行は護衛任務に就いている。洸太は例によって荷馬車の上でご満悦である。
厚手の布の服にシルバーシープのマント、木製のホースマンズフレイルとバックラーを持つ良治に対し、伸行はロングソード一本にスケイルメイルを着込んでいる。おかげで、エウファンの左はガシャガシャと大変賑やかになっている。
「またマニアックな鎧着てますね、佐々木さん。もう少し丈夫な物もあったんじゃないですか?」
「いやー、俺これ好きなんスよ。何がって言われても困りますけど、昔っから好きなんで。一応理由付けるなら、胴体部分だけなんで腕の可動域が広いっていう理由もあるッスね」
スケイルメイルがジャラジャラガシャガシャと喧しいため、二人はいつもよりやや声を張っている。
「宮田さんの方は、またなんでそんな武器なんスか?」
「使いやすくて、リーチがあって、持ち運びやすくて、手入れしやすい物、というリクエストをしたら、これを見繕ってもらえました」
「あ~、なるほど。でも、結構しっかりしたもんッスよね?大銀貨5枚くらいしたんじゃないッスか?」
「これそんな高級品なんですか!?色々あって、タダでもらった物なんですが……」
「それをタダは太っ腹ッスね。何か恩でも売ってあったんスか?」
「あ、一応、トリアの町で冒険者の講習の講師をやってました」
「……あー、あーあーあー、風の噂で聞いたことありますね。あれ宮田さんのことだったんスね」
意外と噂になってるんだなと、良治はどこか他人事のように思っていた。
「あー、だから結構懐は温かい感じなんスね」
「いえ、あの時は日給銀貨2枚だったので、特には……」
「安っすぅ!?いや、それぼったくりどころじゃねえッスよね!?」
「いやでも、衣食住の食と住はギルド持ちでしたし、こっちの世界に引っ張られてすぐ、いろいろお世話になりましたから」
「あー、そういや宮田さんってなんでここにいるんスか?完璧日本人ッスよね?」
そこで、良治はハイキングからこの世界に来るまでのあらましを伸行に説明した。それは依頼主のエウファンも気になっていたようで、洸太以外の全員がその話を興味深く聞いていた。
「――とまあ、それでトリアの町で冒険者の講師兼冒険者になって、依頼に乗って流れ流れてここにいるってわけです」
話を聞き終えると、エウファンは良治の姿を上から下までじっくりと眺めた。
「異世界の人……さすがに、俄かには信じ難い話ですね」
「あ、ステータス見ます?職業部分が異世界人ってなってるんですが」
「それはぜひ見てみたいですね」
「わかりました。それでは、ステータス オールオー……」
「宮田さんちょい待ち!ストップストップ!」
オールオープンしかけたリョウジに、伸行は大慌てで声をかけた。それに驚き、良治は動きを止める。
「ふぅ、あぶー……あの、もしかして……宮田さん、結構オールオープン使いました?」
「『あぶー』ってひっさびさに聞いた……そういえば、前にも止められそうになったことありましたけど、これって何か問題あるんですか?」
良治が尋ねると、伸行は苦笑いを浮かべた。
「まあ、想像つかないッスよね。あのですね、この世界だとオールオープンって……その、プロポーズッス。それも、めっちゃ強めの」
「プロっ……!?」
「日本だと婚約指輪送るとかあるじゃないッスか。あれよりも強い意味で、もう『俺と結婚しろ』みたいな。元々は『お前には隠しごとなんてしない』って感じだったみたいッスね」
伸行の話を聞き、良治はこれまでの行動を思い返して遠い目になっていた。
ギルドマスターにモストル子爵、他にもこれまで何人かにやっていたが、道理で皆困った反応をしていたわけである。大体が同性であることも泣けるところだった。
一方で、トリアのアイシャにはオールオープンをせがまれたが、そうなるとあれはこちらが知らないのをいいことに、プロポーズさせていたのかと思い至る。ほんのり腹は立ったが、まあ減るものでもないし、壁ドンしてほしいって言われたようなものかと納得する。
「俺が生まれる前までは、男から女にするものだったんスけど、めっちゃ流行った劇で、戦争に行く騎士に貴族の令嬢がオールオープンして、『絶対に帰ってこい』って言うのがあって、それ以来女から男にオールオープンっていうのが流行って、今だとまあ、どっちからどっちでもいいって感じッスけど、とにかくプロポーズッス」
「……ありがとうございます。今後は気軽に使わないようにします」
恐らく、これまで色々やったのだろうなあと察し、こちらの世界の二人は生暖かい目で良治を見つめていた。
「じゃあ、まあ、とりあえずパーティ誘いますね。インヴァイト パーティ、エウファン。あ、佐々木さんはパーティ組みます?」
良治が尋ねると、伸行はほんの一瞬、目に見えて動揺した。しかしすぐに笑顔を浮かべると、軽く頷く。
「……そうッスね。誘ってもらっていいッスか?」
「では、インヴァイト パーティ、伸行」
「……あ、出た。なんでだ……?」
「何かありました?」
「あ、いや、何でもないッス。ちょっと宮田さんのステータス見てみてもいいッスか?」
「いいですよ。ただ、洸太の方はやめといてください」
「了解ッス。んじゃ、ステータスオープン、良治……うおう、ほとんど不明ッスね。ん、『治外法権』?法が通じない、でしたっけ?あ、もしかしてスキルと魔法が通じないとか?」
「ご名答です。なので、魔法に関しては無敵ですよ」
「魔法使いとして出会ったらしたらチョベリバッスね」
「……さっきからちょくちょく、くっそ懐かしい言葉が……」
「あ、やっぱもう使われてねえッスか」
「90年代で滅びましたよ」
それから、二人は90年代の日本の話で盛り上がった。中学高校という多感な時期に過ごした時代だったこともあり、話題は全く尽きなかった。
「じゃああれはどうッスか?公衆電話取ってバチバチバチバチバチバチバチバチ、ガチャン!ってやる女子高生とか」
「ポケベル!うぅわ、なっつかしいなあ!それも90年代で絶滅しましたけど!携帯でメール送れるようになっちゃいましたからね」
「マジっすかあ。あれは?あの、ゾンビ出てきて、めっちゃ怖いゲーム」
「それは今も続いてて、ナンバリングだと8まで、それ以外も含めたら20作品超えてなかったっけな?結構出てますよ」
「マジっすかぁ!あれ、めっちゃ怖くて好きだったんですけど、やっぱ続いてんスね!じゃああれは!?戦闘機の奴!傭兵になって、ステージクリアで新しい機体買えるようになるあれ!」
「あれは7が最近出ました。ナンバリング以外もやっぱり出てるんで、十いくつか出てるはずですね」
「やってみてぇー!他はどうッスか!?歌とかテレビとか!」
割とゲームの話に偏ってはいたが、良治自身も割とゲーマーであるため、問題なく話は進む。純粋なこちらの世界の人間であるエウファンには一割も理解できない話だったが、あまりに楽しそうな二人を止めることもできず、ただ黙々と荷馬車を進めていた。
しばらくお喋りに花を咲かせていた二人だったが、まず伸行が、それに一瞬遅れて良治も、武器を取って戦闘態勢に入った。
「……何か来てますね。魔物かな?」
「良い勘してるッスね。日本人ッスよね?」
「まあ、もう半年以上は護衛稼業してますから」
果たして、近くの林から3体のオーガが走ってくるのが見えた。途端に、良治とエウファンは驚きに目を見開く。
「オーガ!?」
「し、しかも3体!?リョウジさん!ノブユキさん!しっかり掴まって……!」
即座に逃走の判断をしたエウファンに対し、伸行はのんびりとさえした口調で答えた。
「え、全然余裕ッスよ。良治さん、エウファンさんの護衛お願いしますね」
「え、余裕……?え!?」
伸行は腰の剣を引き抜くと、左手を前に突き出した。
「クリエイトウェポン」
言い終えると同時に、その手に右手の物と全く同じ剣が現れた。二刀流となった伸行は、自分からオーガへと向かって走り出す。
3体のオーガは横一列に並んで走ってきており、左のオーガのみ丸太のような棍棒を持っている。それを確認すると、伸行は中央のオーガに狙いを定めた。
中央のオーガが腕を振りかざす。伸行はそのまま走り続ける。そして、オーガの腕が唸りをあげて襲い掛かった。
ギリギリ、掠らせるような最小限の動きで左にかわし、右手の剣をその腕に思いきり突き立て、地面に縫い付ける。悲鳴を上げるオーガに構わず、その腕を駆け上がると、左のオーガが棍棒を構えた。
棍棒が振り下ろされる瞬間、伸行はオーガを蹴って空中に飛び上がる。獲物を失った棍棒は中央のオーガの頭を粉砕し、それを見た伸行は笑う。
「いくら力が強かろうと、ここまで馬鹿じゃあな」
空中で身を翻し、棍棒を持ったオーガの首の後ろに剣を突き刺す。そこで、右のオーガが襲い掛かろうとしたのだが、パリンと何かが割れる音が響き、オーガの動きが目に見えて鈍った。
「お、宮田さんナイスアシスト!んじゃまあ、クリエイトウェポンっと」
今度は両手持ちのバトルアックスを作り出し、動きの鈍ったオーガの足を断ち切り、転倒したところで首を断つ。
手強いはずのオーガが、まるで雑魚のようにあっさりと倒され、良治もエウファンも唖然として伸行を見つめる。
「さ、佐々木さん、滅っ茶苦茶強いんですね」
「うぇんえんえんえんあ。あーりや」
洸太も見ていて楽しかったらしく、やや興奮気味に何やら語っている。
「まあ、戦闘は3歳の頃からやってますんで。それより宮田さん、さっきの動きってサッカーッスよね?高校とかでサッカーやってたんスか?」
「Jリーグ発足でハマったクチですよ。小中とやりましたが、色々あって高校からはやってないですね」
オーガの腕に刺した剣を回収し、スキルで作り出した武器を消してから、伸行は二人の元へ戻って来る。ほぼ一人でオーガを3体相手したにもかかわらず、怪我一つないというのは、控えめに言っても異常な腕である。
再び移動を開始しつつ、良治は伸行に話しかける。
「それにしても、さっきのスキルは武器を好きに作り出せるって感じのものですか?」
「そうッスね。触ったことがある武器なら、自由に作り出せるんスよ。たとえば、ちょっと宮田さんの武器、触らせてもらっていいッスか?」
伸行はフレイルに軽く触れると、スキルを発動した。するとその手に、まったく同じフレイルが出現する。
「クリエイトウェポン。こんな感じッスね」
「すごいなこれ、ほんとに同じ……あ、いや、修理前の最初の形だなこれ?」
「あ~、壊れた武器を触っても、元の姿で作り出せるんスよ。それ、一回修理してるんスね?」
「色々あってぶっ壊しちゃいまして……」
そこでふと、良治は首を傾げた。
「あれ、でも変だな……?」
「何がッスか?」
「私のスキルって、相手のスキルも無効化するんですよ。なので、スキルで作られたこの武器も消えるような気がするんですが……消えないんですよね」
良治の言葉通り、スキルで作られた武器をいくら触っても、消える気配はない。それに対して、伸行は何か思い当ることがあるようだった。
「あ~、なるほど。あの、宮田さん。『大力無双』ってスキル、知ってます?」
「え?えーと、確かその場にいる中で最も力が強くなるスキル、ですよね?」
「それッス。で、もしそのスキル持ちが複数人いた場合って、どうなると思います?」
「複数人?それだと……たとえば100が最大だったら、全員101とかじゃないですか?」
良治の言葉に、伸行は笑った。
「そう思いますよね?ところが、誰かは103、また誰かが102、他のが101とかになるんスよ」
「え!?でも、それだと矛盾ありません!?」
「大有りッスけど、実際そうなるんスよ。で、これは仮説なんスけど、実はスキルには熟練度とか、レベルがあるんじゃないかって話なんスよ。あるいは、無意識に何か制限がかかってるとか」
そんな話は聞いたことがなかったため、良治はもちろん、エウファンまで伸行の話を聞いている。
「宮田さんの場合、スキルレベルってよりは、無意識レベルで範囲を操作してるんじゃないッスか?他にも似たようなこと、覚えありません?」
「他に?いや、他には別に……あ、いや、待てよ……?」
よくよく思い返してみると、おかしなことはあった。武器同士が触れても相手のスキルを無効化するにも拘らず、同じ馬車に乗った人物のスキルは、今まで無効化したことはなかった。つまり、同じ物に触れているにもかかわらず、スキルが発動していないのだ。
「言われてみれば、確かに……」
「たぶん、俺のスキルは武器を作り出すもの……つまり、作られた武器はただの武器ってことで、スキルだと認識してないんじゃないッスか?それが良いか悪いかは別として、そんな感じで無意識に選別してるんだと思うんスよ」
「……これって、鍛えたらどうにかなるものなんですかね?」
「んー、スキルに意識を集中したら、多少はどうにかなるかもしれませんけど、どうッスかね?あんまり無意識レベルの操作だと、どうにもならない可能性もあるッスから」




