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最強は私じゃなくて障害持ちの息子です  作者: Beo9
十三章 もう一人の日本人 邂逅編
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異世界転生人との邂逅

「あーりでーりで、とたお~。あーりでーりで、とたお~」

「その歌は、何?お父さんを讃える歌か何か?」

 ご機嫌で歌っているコウタに、手を繋ぎながら尋ねるリョウジ。二人は現在、ウェイルース王国付近の町で護衛依頼を探していた。

 以前にトリアの町のアイシャから聞いた通り、ウェイルース王国は現在もファギア皇国と戦争中とのことで、あまり近寄りたくはなかったのだが、前回の護衛任務でどうしてもこちら側に来る必要があり、仕方なくこの町に辿り着いたのだ。

 戦争している国の近くということで、人気は少ないかと思っていたのだが、意外なことに冒険者も商人もかなり多く、ギルド内はごった返している。

 できれば、ウェイルースから遠ざかる依頼があるといいなと思いつつ探していると、都合よく希望通りの護衛依頼が見つかり、即座にそれを受注する。依頼者は複数人での護衛を希望しており、受注した者は現在リョウジのみだということで、ひとまず挨拶だけ済ませようと冒険者ギルドを出る。

「それにしても、結構活気がある町だねえ。戦争特需ってやつかな?」

「りどーりどー、とあと。あーりどーりどー、とあと」

「なぜトマト……?」

 どうやら小腹が減っているらしいと判断し、リョウジは手近な屋台で串焼きを購入する。少し赤みがかった、元の世界では見ない野菜を挟んだもので、食べてみると独特の風味を持っていた。

「ん、結構おいしいね。コウタはどう?」

「とあと」

「この赤い奴?これはトマトじゃないよ」

「とあと!」

 リョウジの言葉に機嫌を損ねたようで、コウタはリョウジの目をじっと見つめながらトマトだと主張する。

「いや、だからトマトじゃ……」

「とあと!とーあーと!とあと!」

 しまいに、リョウジは顎を掴まれ、全力でトマトと言えと強要される。決してトマトではないのだが、争う意味もないということで、結局はリョウジが折れた。

「と、トマト……」

 すると、コウタは『それでいい』とでも言うように満足げな表情で、野菜を口に運んだ。絶対にトマトではないのだが、コウタの中ではトマトで確定しており、明らかに違う味も『変わったトマト』で済まされているようだった。

「何だったの、ほんとに……」

 皆目見当もつかないが、そもそもコウタの言う事を完全に理解出来たら、それはもはやコウタである。リョウジは息子を理解することを諦め、再び依頼人の元へと足を進める。

 しばらく歩いて、どうやら依頼人らしき人物を見つけたところで、その人物が誰かと揉めているのが目に入った。

「いや、ほんと頼みますって。俺腕は立つんで、絶対安全に送り届けますから」

「だから、無理だと言ってるでしょう?冒険者ギルドにも所属してない、出身もどこだか言えない、そんな人に護衛なんか頼めるわけないですから」

 どうやら、冒険者ギルドに所属していない、フリーの傭兵か何かが護衛させてくれと頼み込んできて、それを断っているようだった。その男は見るからに体格も良く、自分よりもよっぽど頼りになりそうだなと思いつつも、リョウジはそこに声をかけた。

「失礼します。護衛依頼を受けたリョウジと申しますが、冒険者ギルドに護衛依頼を出した、エウファンさんで間違いないですか?」

 リョウジの声に、言い合いをしていた二人は揃ってそちらに顔を向けた。

「え?ああ、私ですけど、冒険者の人ですね。待ってましたよ、変な人にしつこく食い下がられて、困ってたんです」

 ああ、早速護衛をしろということだな、と苦笑いしつつ、リョウジは傭兵らしき人物に顔を向けた。

「すみませんが、ギルドに依頼が出されている以上、依頼人さんもフリーの人は雇えないのです。申し訳ありませんが、今回はお引き取り願えませんか?」

 その人物は、リョウジを何やら驚いたように見ており、若干居心地の悪さを感じつつも、丁寧に断りを入れる。

「あ……えっと、すみま、せん。あの……リョウジ、さん、ですか?」

「はい、リョウジです」

「……苗字ってあります?」

 変なことを聞く奴だな、と思いつつも、知られて困る情報でもないので、リョウジは答える。

「ミヤタです。ミヤタ リョ……こっちだとリョウジ ミヤタですね」

 すると、その人物はそれこそ目を真ん丸に見開き、リョウジを見つめた。一体何なんだと思いつつも、襲ってくるような気配はないため、リョウジはごく軽く身構えるにとどめる。

「……黒目、黒髪……いや、でも……いや、でも、なあ……」

 その人物は何やらぶつぶつ呟くと、ぎこちない作り笑顔を浮かべ、何度か深呼吸をした。

「あ、あの、その、えっと……」

「はい、何でしょう?」

「そのー、ですね?な、名前が、その、ですね……」

「はい」

「その……に……」

「に?」

「日本人……みたいだなー、なんて」

 今度は、リョウジが驚きに目を見開く番だった。

「えっ!?なっ、なんっ……はぁ!?」

 思いもよらぬ言葉に、リョウジは思わず男に詰め寄ってしまう。

「に、日本人!?日本人なんですか!?え、でも違いますよね!?え、なんで知って……!?」

「ちょ、待って待ってください!よかった、やっぱり日本人なんスね」

「あ、あの、リョウジさん?」

 驚いた様子の依頼人をちらりと見て、リョウジは一度大きく深呼吸をする。そして、改めて目の前の男を眺めた。

 金髪に緑の目。肌の色は日焼けしているのか浅黒いが、少なくとも日本人の肌の色ではなさそうである。であれば、やはり日本人ではないようだったが、どこか日本人を感じさせる雰囲気は確かにある。

「ええと、エウファンさん。まず、すみません。少々取り乱しました。ただ、私は別の世界の人間でして……彼の言う『日本』とは、私が暮らしていた国の名前なんですよ」

「え、別の世界の人?そんなことが……?そ、それがなぜ、その男が知ってるんですか?」

「そこに関しては、本人に直接聞いてみましょう」

 そう言うと、リョウジは男に視線で話すよう促す。それを受けて、男は口を開いた。

「や、俺はササキ ノブユキッス。確かに、今は日本人じゃないんスが、17歳の時に、事故で死にまして……で、この世界の人間に生まれ変わったってわけッス」

「ああ、異世界転生って奴ですね。うわ、まさか本物をこの目で見るとは」

 リョウジの言葉に、ノブユキは首を傾げた。

「異世界転生?」

「ああ、そういうジャンルがネット小説とかで流行りまして……あ、死んだのはいつです?」

「ねっと……?まあいいや、えっと、97年の夏ッスね。高校遅刻しそうになって、坂道をノーブレーキでチャリぶっ飛ばして、止まれなくて車がドン、ッス」

「え、ちょい待ってください。97年で17ってことは、私より4歳上ですか!?」

「お、てことは宮田さんは昭和59年生まれッスか」

「そうですそうです!ああ、しかしホッとするその『宮田さん』呼び……こっちだと大体『リョウジ』ですからね」

 すっかり打ち解けている二人を、依頼人のエウファンは戸惑いの目で見ている。

「しっかし、宮田さんが生きてるってことは、1999年も無事に乗り切ったんスね。猫型ロボットはもうできました?」

「できるわけないです」

「ですよねー。あ、ちなみに宮田さんって今いくつなんスか?」

「今年で38ですよ。すっかりおっさんです」

「あの~、リョウジ、さん?」

 完全に依頼人置いてけぼりで盛り上がっていた二人だったが、リョウジはハッとして口を噤む。

「ん、ゴホン。失礼しました。えっと、エウファンさんは今、佐々木さん……こちらの方に、護衛をさせてくれと言われていたんですよね?」

「え、ええ。ただ、素性が分からない人に護衛してもらう気はなかったので、お断りしていたんですが」

 そこで、リョウジはノブユキの方へ視線を向けた。

「佐々木さんは、戦闘は得意なんですか?」

「得意中の得意ッス。スキルも戦闘向きなんで」

「わかりました。ではエウファンさん、私が彼を雇う、という形でもよろしいですか?私、戦闘は得意ではないので、出来れば戦闘が得意な人に入ってもらいたいんですよ」

 エウファンは一瞬悩んだものの、リョウジの人となりを見て頷いた。

「報酬は上乗せできませんが、それでもいいなら構いませんよ」

「わかりました。では、その形で」

 先にエウファンと握手し、続いてノブユキに握手を求める。

「なんか、すいません。気ぃ使ってもらっちゃって」

「私が戦闘苦手なのは本当ですし、色々お話してみたいので構いませんよ。エウファンさん、護衛の人数は何人のご予定ですか?」

「最低二人いれば、何とかなるかなとは思ってました。そっちの人は確かに強そうですし、これで出発してもいいかもしれませんね。ギルドには、あと1時間後に発つと伝えてきます」

「では、私はここで待ってますね。あっと、佐々木さんはどうします?何かやっておきたい事とかないですか?」

 リョウジが尋ねると、途端にノブユキはバツの悪そうな表情を浮かべた。

「あ、あの~……報酬、前借してもいいッスか?実は、金とか全然なくって、飯も何も……」

「……何があったかは聞きませんので、これで装備と体調整えてきてください」

 そう言い、リョウジは大銀貨を握らせた。思った以上の大金に、ノブユキは目を見開く。

「ちょっと太っ腹すぎじゃないッスか!?」

「色々あって、お金は滅茶苦茶あるので……自由に使ってください」

「ありがとうございます!じゃあ、ちょっと行ってきますね!」

 言うが早いか、ノブユキはダッと町の中へ駆けこんでいった。それを見送って、リョウジはコウタを抱き上げる。

「他の日本人の人と会えるとは思わなかったねえ、コウタ」

「どぅえっひ」

「まあ、純日本人ではないけど……正直、ちょっとホッとしたよ」

「ふひー、ふひー、ふひーぁっははははーぁ!」

「なんかご機嫌だねえ。コウタも嬉しかったのかな?」

「うひひひはーぁ!……とあと」

「なぜトマト」

 急に真顔になる息子に突っ込みを入れつつも、リョウジはどことなくワクワクしながら二人を待つのだった。

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