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最強は私じゃなくて障害持ちの息子です  作者: Beo9
十二章 もう一人の日本人 ウェイルース編
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暗君

 ウェイルース王国とファギア皇国の初戦は、ウェイルースの圧勝であった。しかし、そのまま雪崩れ込んでくるかと思ったウェイルース兵はその場を動かず、ファギア皇国を困惑させていた。

 相手は知る由も無かったが、ウェイルース王国では正体不明の武器を使ったジャレッドが国王に呼び出されており、侵攻を一時止めざるを得なくなっていたのだ。『竜鱗将軍』の呼び名通り、彼は王国の解放騎士団、他国からすれば侵略騎士団をまとめる存在であり、副将軍のバイドだけでは軍を動かせないのだ。

 ジャレッドは四方を近衛兵に囲まれ、王都へと向かう。そうして囲まれたままで謁見の間に通され、囲まれたままでの謁見が始まった。

「ジャレッドよ。お前が戦場で使ったという、奇怪な飛び道具は、一体どこの国の物だ?」

 前置きなどは一切なく、国王はそう問い詰めてきた。やはりこうなったかと、ジャレッドは天を仰いで溜め息をつきたい気分だったが、そんな様子はおくびにも出さずに答える。

「……この世界の物では、ありません」

「この世界の物ではない、だと?」

 鋭い眼光で射抜かれつつも、ジャレッドは落ち着き払って答える。

「先の戦いで、私はメイスで頭を強打されました。その時に思い出したのです。私はかつて、別の世界の人間であったことを」

 そして、ジャレッドは覚えている限りの記憶を王に話した。

 かつては異世界の日本という国に生まれたこと。そこで佐々木 伸行という名前で生きていたこと。その世界で使われていた武器を触ったことがあること。事故に遭って17歳でその生涯を終えたこと。

「――私のスキルは、触ったことのある武器を作り出せるというもの。そのため、前世で触ったことを思い出した結果、この世界でも作り出せるようになったものと愚考します」

 ジャレッドの話を、国王は厳しい顔つきでじっと聞いていた。そして聞き終えた後も、しばらくジャレッドを睨み付けていたが、やがて口を開いた。

「……そうか、わかった」

「では、前線に――?」

 言いかけたジャレッドの言葉を遮るように、王は勢い良く立ち上がると、大きく腕を振った。

「あくまでもしらを切るというのだな!?前世だと!?ふざけたことを!そんなことがあるものか!近衛兵!この裏切り者を捕えよ!そして、どこの国と通じていたか吐かせるのだ!」

 その言葉に、ジャレッドは目を見開き、慌てて口を開く。

「王!?王よ、誤解です!私の忠誠はこのウェイルースに捧げております!決して、他国と通じることなどありえません!」

「白々しい口を利くな!この裏切り者めが!」

「私は決して裏切りなど――王!お聞きください!王よ!」

 暗君ではないはずだった。しかし、急速に領地を拡大し、多大な恨みを買う王は、今や全てを疑うようになっていた。

 そんな王に彼の言葉は届くことなく、近衛兵は即座にジャレッドを拘束し、地下牢へと引っ立てた。そして両手足を縛られ、猿轡を噛まされた状態で、ジャレッドは不衛生極まりない地下牢へと繋がれることとなった。

 石造りの地面は冷たく、じめじめと湿っており、前にいた者の排泄物すら処理されておらず、ひどい臭いを放っている。それを求め、そこかしこにネズミやゴキブリが徘徊しているような、ひどい場所だった。

 そんな彼の尋問、すなわち拷問担当となった拷問官は、しかし非常に丁寧な扱いをしていた。

「将軍……一体、何があったんですか?貴方が裏切りだなんて……一体何の間違いが……?」

「……口を慎め。王に、間違いは、ない」

 返事のために猿轡を外されたジャレッドは、それだけ答えた。しかしその表情は暗く、精気はすっかり消え失せている。

「そんなわけがないでしょう!?将軍ほどこの国に尽くした人なんて、今まで……!」

「口を、慎め」

「……絶対に間違いだ……」

 拷問官の彼もまた、ジャレッドに見出された人物の一人だった。元々は兵士の一人だったのだが、あまり武の才能には恵まれず、しかし他者を甚振ることに強い興味と快感を覚える性癖の持ち主で、それを知ったジャレッドが拷問官へと推薦したのだ。

 結果、人体をいかに効率的に痛めつけるか、また痛みの強い場所はどこか、どうすれば精神を破壊できるかなど、ありとあらゆる拷問術を編み出し、また副産物として医学の発展にも寄与していた。

「無駄口を叩かず、お前はお前の、責務を果たせ」

「正気ですか!?お、俺に、将軍を拷問しろって!?」

「それが、お前の責務だ。責務を、全うしろ」

 その言葉が、優しさからのものであることはすぐにわかった。敵兵や、人間以外の種族には一切の情け容赦なく振舞うジャレッドだが、仲間や同国民には無愛想ながらも優しく、寛容な人物だった。

 だからこそ、拷問官は迷った。しかし、責務を果たさなかった場合に自分がどうなるかを考えれば、彼の言葉に従うほかはなかった。

「……あんまり痛かったら、言ってください。加減しますから」

「拷問官がそれはダメだろう」

 思わず笑いながら答えるジャレッドに、拷問官は心底情けない気分になりつつも、長い針を十本用意し、それを真っ赤に熱していくのだった。


 地下牢に囚われて十日が経った頃、ジャレッドは牢から出され、地下への入り口まで引きずり出された。拷問官の計らいにより、身体を大きく損傷するような拷問は受けていなかったが、代わりに爪や指先など、神経の集中する場所を執拗に攻められていたため、動きは多少歪になっていた。

 一体何事かと思っていると、猿轡が外されると同時に、周囲の者が頭を下げ、国王が姿を見せる。ジャレッドも思わず頭を下げるが、国王はそれを鼻で笑う。

「ふん、偽りの忠誠など要らぬ。それよりも、喋る気にはなったか?」

 その言葉に、ジャレッドの心はさらに深く沈んでいく。もはやその瞳に光はなく、何も映してはいないようにすら見える。

「正直に話せば、家族は助けてやろう。どうだ、少しは話す気になったか?」

 直後、ジャレッドはバッと顔を上げた。

「クリエイトウェポ――!」

「っ!?衛兵!」

 言い終えるより一瞬早く、周囲の者がジャレッドを殴りつけ、スキルを中断させる。そしてすぐさま猿轡が噛まされ、全身をひどく殴打される。

「もうよい!この者は喋る気はないようだ!父母共々、首を刎ねよ!それまで、この儂に牙を剥こうとしたことを後悔させるぐらい、徹底的に痛めつけておけ!」

 ジャレッドは文字通り地下牢へと引きずり戻され、苛烈な拷問を受けることとなった。しかし、彼は呻き声一つ上げず、ただじっとその苦痛に耐えた。

 熱したペンチで肉を千切り取られ、爪に刺した針をさらに火で炙られ、脛を尖った岩で殴打される。それでも、ジャレッドは声を上げず、ただ何かを決意したような目で、それを耐えきって見せる。

 やがて、拷問官の方が音を上げる頃、彼の隣の牢に、二人の新たな囚人が連れて来られた。隻腕の男性と、こんな場所でも凛とした佇まいを見せるその女性は、間違いなくジャレッドの両親であった。

 散々に痛めつけられた息子を見つけると、父親はそんな彼に声をかけた。

「ジャレッドよ、本当にこの国を裏切ったのか?」

「……」

 ジャレッドは口を開かず、黙って首を振る。

「だろうな……お前が国を裏切るなど…………国が大きくなり、王は変わってしまったのか……」

「……」

 やはり、ジャレッドは何も答えなかった。すると、今度は母親が彼に声をかけた。

「ジャレッド……貴方は、このまま死して忠誠を見せるつもりですか?」

「……」

 ジャレッドは答えず、ただ真っ直ぐに母親の目を見つめ返した。

「……そう」

 それきり、親子の会話は終わった。あとはどちらも何も話すことなく、処刑の時までただじっと待つのだった。

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