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最強は私じゃなくて障害持ちの息子です  作者: Beo9
十一章 潜む災厄
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S級(スキル)の実力

「さあ、ゆくぞ!古代文明を滅ぼした破滅の魔法、ジェノサイドレイ!」

 巨大な魔力がリョウジの目の前に集まり、そして弾けた。その衝撃は遺跡どころか国をも吹き飛ばしかねないほどだったが、エルダーリッチはそれら全てを制御しきってみせ、全方位に散らばる衝撃を全てリョウジへと向け直した。

 爆発と、その衝撃波の全てが一気にリョウジに襲い掛かり、辺りには爆音が響き渡った。

 一瞬後、そこには変わらず無傷で立っているリョウジと、その前で平伏しているエルダーリッチの姿があった。

「誠に申し訳なかった、許していただきたい」

「言い残す言葉はそれでいいですか?」

「いや、本当に申し訳なかった。思い上がっておったのは儂の方じゃった。二度と敵対もしない、人も殺さない、なので命ばかりは助けてほしい」

「貴方をこの場で殺しても、誰も死ななくなるのは同じなんですけど?それについてはどのようにお考えですか?」

 いつもと変わらぬ調子で相手を追い詰めるリョウジに、すっかり敵意も威厳も何もかもなくなってしまったエルダーリッチ。その光景に、アリッサとポテフは唖然とするばかりである。

「あ、あの魔法もとんでもなかったけど……リョウジのスキルって、どんだけぶっ飛んだスキルなんだよ……?」

「ありゃ、二度と見ることはないじゃろうなぁ……魔法耐性すら突き破る魔法を、無傷で防ぎきるなど、それこそ、この世のスキルじゃないんじゃぁ」

 そんなことを喋っている間にも、リョウジとエルダーリッチの問答は続く。

「儂は研究がしたいだけでの、別に誰も殺さずとも研究はできるんじゃ」

「でも、散々殺してきましたよね?命乞いだって聞いたためしはないですよね?あのレイスの声聞けばわかりますよ」

「儂を生かしておけば、必ず役に立てる。たとえば、そうだの……そこの、兎の女の、頭のネジを締め直すこともできるぞ?」

 そう言って指さすのは、未だに笑い続けるエリーである。焦点の合わぬ目で笑い続けるエリーのことは、どうしようかと悩んでいたところでもあり、リョウジは少しの間思案する。

「精神を回復させる魔法ですか。そんなものがあるんですか?」

「儂が編み出したのじゃ」

 事もなげに言うエルダーリッチに、ポテフが驚いて反論する。

「そんなの不可能じゃぁ!魔法を編み出すなど、どれだけ難しい事か……!」

「確かに、凡人には不可能じゃの。しかし、儂は天才での。そもそも、精神に作用する魔法などいくらでもあるではないか」

 うんざりしたような口調で、しかしやや早口になりつつエルダーリッチは話し出す。

「沈静魔法や混乱魔法、これらはすべて精神に作用するものじゃな?であれば、魔法は精神に影響を及ぼせる。すなわち、精神を破壊することも、癒すことも可能という訳じゃの。ではどのように精神に作用するのか、そこを考えていけば、精神の回復魔法などすぐに編み出せるわ。まあ30年ほどは研究したがの」

「御託はいいので、実際にやってみせてもらえますか?失敗したらすぐに消えてもらいます」

「やれやれ、せっかちな上に恐ろしい若者じゃ……年寄りを少しは労わらんか」

「労わっているつもりですが?すべての苦しみやしがらみから解放しようとしてあげてるんですから、感謝してほしい所ですよ」

「おっそろしい若者だの……」

 そうぼやきつつも、エルダーリッチはエリーの前に立ち、頭に手をかざした。その間に、リョウジはコウタを回収し、肩車をせがまれて乗せてやっている。

「恐怖からの発狂……であれば、こうと、こう……ほれ、これでどうじゃ」

 エルダーリッチの声と共に、エリーの目に理性の光が戻った。

「え、あれ、わた……し……」

 その目ははっきりとエルダーリッチを捉え、たちまち焦点が合わなくなっていく。

「あ……あは、あはは、あははははは!」

「失敗してません?」

「いや、成功はしたんじゃがの。儂の姿を見て、元に戻った様じゃな……だからの、儂を触ろうとするのをやめてもらえんかの」

 消されてはかなわぬと、エルダーリッチは大慌てで再び手をかざし、何やらぶつぶつ呟き始めた。

「なれば、発狂せぬよう精神を強化……いや、恐怖を薄れさせるべきかの?完全に消えても不都合が出そうじゃから、効果時間は五分ほどで……よし、今度はどうじゃ?」

 再び、エリーの目に理性の光が戻る。そして今度は、エルダーリッチを見てもその光は消えない。

「あれ……何だろ?なんか、リッチもレイスも、あんまり怖く感じない……?」

「一時的に、恐怖を薄れさせてやったんじゃ。でないと、いつまでも同じことの繰り返しじゃからの」

 どうやら本当に様々な魔法を使えるようだとわかり、リョウジは仕方なくフレイルを収めた。

「ではとりあえず……どうしましょう?町まで連れて行きます?」

 リョウジの言葉に、その場の全員が驚いた。

「エルダーリッチを町に連れて行くとか何考えてるんだ!?」

「さすがにそれは危険すぎじゃないかな?」

「それはさすがにダメじゃぁ!何が起きるかわからんぞぉ!」

「なかなか興味深いが……行って平気なものかの?」

 エルダーリッチ自身からも突っ込みを食らったものの、リョウジは気にする様子もない。

「魔法契約で色々縛れば問題ないんじゃないですか?確か、血判が使えなくても、魔力での契約とかできましたよね?」

「いや、そりゃできなくはないだろうけど……や、やばすぎじゃないか?」

「消し飛ばすのが一番簡単ではあるんですけどね、確かに。でも、この人……人かな?少なくとも魔法の知識は凄まじいみたいですし、いっそ魔法を伸び伸び研究してもらって、それをみんなの役に立てればいいんじゃないですか?」

 はっきり言って、世界レベルでの部外者であるリョウジにとっては、アンデッドの共存もあり得るのではないかと軽く考えていた。だが、この世界の者からすれば、それは人類の敵と共存しろと言っているのに等しく、とても簡単に受け入れられるような提案ではなかった。

「わ、儂等では判断できんのじゃぁ……一度、ギルドに話を通した方が良さそうじゃぁ」

「でも、行って戻ってって面倒じゃありません?この際ですから、この方にはご同行願いましょう」

「……お主、変わっているどころではないの。一体何者じゃ?」

 結局、このエルダーリッチを御すことができるのはリョウジだけであり、そのリョウジが言うのであればということで、一行はエルダーリッチを連れて町に戻ることになってしまった。

 失神していたジーリャに、恐慌状態だったティキアもエルダーリッチの魔法で回復させ、一行は元来た道を戻る。さすがに、レイス達はお留守番となっていた。

 シーカーズの面々は、伝説クラスの怪物が近くにいることで気が気ではなかったが、リョウジは喋れるアンデッドが珍しいようで、色々と話しかけていた。エルダーリッチの方も、リョウジに刃向う訳にはいかないという事情もあり、仲良く喋っている。コウタはというと、再び罠を作動させないようにと、リョウジの腕の中に収まってご機嫌である。

「――と、そんなわけで、私と息子はこの世界に引っ張られたわけです。私達を元の世界に戻す魔法とか、使えません?」

「ふーむ、興味深い。実に興味深い。言われてみれば、息子もやばい存在だの。先程小石を浮かせて遊んでおったが、魔力を感じん。なのに、当たり前に思えてしまう……とんでもないスキルを持っていそうじゃな?」

「持ってますよ。私も息子も」

「やはりの。しかし、うーむ……出来るか出来ないかで言えば、異世界に送る魔法そのものは使える。しかし送る世界が分からんから、実質使えない、というところだの」

「そうですか……はぁ、正直、期待したんですが……」

「すまんの。魔法で記憶を探るなりできれば、また違うのかもしれんが、お主は魔力そのものを消してしまうからの……恐らく、お主にやられたレイスも、魂自体が消滅したんじゃろうな……」

「え、なぜ魂が?」

「レイスは特に、魂が魔力を取り込んで動き出したものでの。つまり、魂と魔力が融合しているんじゃな。それを消し飛ばすわけじゃから、融合している魂も一緒にボン!じゃの。輪廻の輪にすら戻れるかどうか……くわばらくわばら」

 シーカーズの面々は何も言えず、ただただ黙って足を進める。全員揃って『S級っていうのは頭もおかしいんだな』等と思いつつ。

「しかし、お主は色々と発想が面白いの。どうじゃ?お主は魔法について、どのような力だと思っておる?」

「どのような?不思議な力ではありますが、具体的にはどういったことを聞きたいんです?」

「そもそも、魔法とは何か。これは魔法を研究する者にとって、永遠の謎なのじゃよ。逆に言えば、これが理解できれば、理論上は全ての魔法を作り出すことができるはずでの。じゃがさすがの儂でも、その真理には未だ辿り着けぬのよ」

「う~ん……熱を操る力、とかですかねえ?火にしろ、氷にしろ、雷だって、熱のやり取りで発生させられますよね?」

「斬新じゃの。じゃが、それでは魔法契約の効力の説明がつかんな」

「あっ、言われてみれば。やはり門外漢では、まともな意見も出せませんね」

「いやいや、そういう角度からの考えは儂には無かったからの、いい刺激になるわい。確かに、一般的に使われる魔法は熱のやり取りが多いしの」

 もはや、エルダーレイスとリョウジは仲良しと言っていいレベルである。少なくとも大学卒業レベルの教養を持っているリョウジの意見は、こちらの世界だとあまり見ないものであるらしく、今ではむしろエルダーレイスの方が積極的に話しかけている。

 リョウジの話自体は、シーカーズの面々も聞いたことがあった。曰く、最古のドラゴンを倒した人物であり、その後町に来たドラゴンとも普通に話し、パーティを組み、親交を結んだというものだったが、半分以上は噂に尾ひれがついたものだろうと思っていた。しかし、この様子を見る限りでは、ありえない話ではなさそうだった。

「あの……リョウジ、さん?」

 一行を代表して、ティキアが恐る恐ると言った様子で話しかける。

「そもそも魔力自体、私の世界では存在しない物なので、この世界特有の法則があるはずですが……あ、はい、何でしょう?」

「その、ドラゴンを倒した後、新たに来たドラゴンとパーティを組んだ、という話を聞いたことがあるんですけど……」

「ああ、ジェラルドさんのことですね。確かに組みましたよ」

「お主、ドラゴンとパーティを組んだことがあるのか……そんな奴はさすがに、儂も初めて見るの」

「一緒に屋台の肉を食べまくりまして、最後に人間の町を案内したお礼ということで、鱗を一枚もらいましたよ。えっと、確かここに……あったあった、これです」

 リョウジが真っ青な鱗を見せると、エルダーレイスを含めた全員の顔色が変わった。

「うぅっわ!?生ドラゴンの鱗!?欲しい!めっちゃ欲しい!」

「そ、それはすごいな……あたしの鱗と違って、格の違いを感じる……」

「おおおぉぉぉおおおおぉぉ……ほ、欲しいのぅ……!」

「す、すごいですねそれ……剥がれかけた鱗、かな?でも……いや、すごい……」

「と、とんでもない物出てきたわね……わ、私達が見ていい物なのか、ちょっと悩むわ」

「どんご」

「素晴らしい……蒼穹の剛竜の物かの?随分と大きくなったものじゃな」

「蒼穹の剛竜?」

 聞き慣れない名前にリョウジが首を傾げると、エルダーレイスはうんうんと頷いた。

「力に優れたドラゴンでの、翼も四肢もがっしりした作りで、将来は強力なドラゴンになると言われておったのよ。比較的若いドラゴンで、好奇心の強い奴じゃったが、死なずにしっかりと生きておるようじゃの」

 こいつ何歳だ、とその場の全員が思ったが、口には出さなかった。最低でも300歳は超えているはずだが、この様子だとその倍以上の歳でもおかしくは無さそうである。

 そんな話をしている間に遺跡を抜け、一行は地上に辿り着く。さすがに町には先触れが必要だろうということで、エリーが一足先に町へと向かい、その他の面子はゆっくりと町に向かう。

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