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最強は私じゃなくて障害持ちの息子です  作者: Beo9
十一章 潜む災厄
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伝説の災厄

 その先には、漆黒の闇があった。ウィスプの光でも照らせないほどの深い闇に、コウタはリョウジの首にかじり付く。そんなコウタを抱えながら、リョウジは一番後に扉を潜った。

 直後、ゴォン!と大きな音を立て、扉が閉まった。そして、辺りに仕込まれていたと思しき、照明の魔道具が起動した。

「……あは、あっはははははは!!あははははははは!!」

 エリーの目は零れ落ちんばかりに見開かれ、狂った笑い声が辺りに響き渡る。しかし、それを止める者はいない。

「うそ……だ……こんな……こんな…………いやだ、いやだ……!」

 ティキアは顔を覆ってその場に蹲り、その隣ではジーリャが失神して倒れている。

「……母ちゃん……怖いよぉ……」

 アリッサは気丈にも立ってはいるものの、その目には涙が浮かび、掠れた声で抑えきれない弱音が零れ落ちる。

「に……逃げるんじゃ、リョウジ……!その子を連れて、逃げるんじゃぁ……!」

 唯一、ポテフだけはその目に恐怖と闘志を湛え、部屋の中を睨み付けていた。

「誰カァァァ!誰カ助ケテェェェ!」

「嫌ダァ!母チャアン!」

「許シテ!許シテクダサイ!マダ死ニタクナイィィィ!」

「ヤッテヤル!チクショオオォォ!」

「オ前達ハ先ニ逃ゲロォ!コノ、化ケ物メェェェ!」

「殺サレル前ニ殺シテヤル!ウオオォォ!」

「私ハコンナトコロデ死ネナイノヨォォォ!」

 部屋の中には、数えきれないほどの幽霊の群れがいた。恐らくは断末魔の言葉を繰り返し叫びつつ、全員が新たな仲間となる一行を見つめていた。

「あれは……レイス?ワイト?どっちです?」

「レイスじゃぁ……!こんな数……一国の軍隊でも、勝てるか怪しいんじゃぁ……!」

 既にエリーは発狂し、ティキアとジーリャは戦闘不能。アリッサがギリギリ戦えるかどうかというところで、ポテフとて恐怖に体が震えている。

 たぶん、結構な危機なんだろうなあと呑気に考えつつ、リョウジはコウタをポテフの隣に下ろした。

「な、何してるんじゃぁ!?」

「あ、うちの子頼みますね。私が何とかしますんで」

「ば、馬鹿な!?この子を残して逝くなど許されんぞリョウジぃ!!」

「いや、別に死ぬ気はないですが……」

 フレイルを抜きつつ、気のない感じで答えるリョウジ。そこに、一体のレイスが襲い掛かってきた。

「ヤッテヤル!チクショオオォォ!」

「うるさいですよ」

 フレイルすら使わず、リョウジは虫でも払うようにレイスを払った。直後、まるで何も存在していなかったかのように、レイスの姿が掻き消えた。

「……は?」

「……え……え、え!?な、なに!?なんだ、今の!?」

 ポテフとアリッサが、同時に声を上げた。驚いたのはレイスも同じだったようで、喧しかったいくつもの声が止まっている。

「あー、私の世界、アンデッドもいないので……触ると倒せるんですよ、ゾンビでもレイスでも」

 一瞬の沈黙の後、レイス達は大慌てで逃げ始めた。その後を、リョウジは笑みすら浮かべて追いかける。

「まあそんなわけで、私が一掃しますね!」

 まるで部屋の中の蠅を追いかけ回すように、フレイルをぶんぶん振り回して追いかけ回すリョウジに、逃げ惑うレイス達。その光景に、アリッサとポテフは完全に言葉を失っていた。ウィスプはリョウジを援護しているらしく、リョウジの視線の先へ光を放っている。

「誰カァァァ!誰カ助ケテェェェ!」

「許シテ!許シテクダサイ!マダ死ニタクナイィィィ!」

「嫌ダァ!母チャアン!」

「部屋の中で、いつまでも逃げ切れると思わないでほしいですねっと!」

「殺サレル前ニ殺シテヤル!ウオオォォ!」

「オ前達ハ先ニ逃ゲロォ!コノ、化ケ物メェェェ!」

「無駄ですよ、魔法も効きませんからね!」

 多少は生前の性格も残しているのか、何体かのレイスはリョウジに攻撃魔法を放つが、当然それは全く効いていない。物理攻撃であれば傷つけられるのだが、完全な霊体であるレイスでは物を持てず、リョウジに対抗できる手段は一つもない。

 本来であれば、どう足掻いても死という末路しかないはずの最悪の罠部屋は、今や完全に逆転していた。霊体とはいえ、ここの床や壁は通り抜けられないようである。つまりレイスの群れは、触っただけで消滅させられる、魔法が何も効かない天敵と一緒に閉じ込められているのである。

 そうして、十数体のレイスを倒した時だった。リョウジとコウタ以外の全員が、ぞくりとするような悍ましい気配を感じた。

「リョ、リョウジ、戻るんじゃぁ!何かが……何かが来るぞぉ!」

「何か……?ひとまず、わかりました!」

 リョウジは武器を構えつつ、一行の元に戻ってその先頭に立つ。レイス達は部屋の中央から、やや下がったところに集合し、ひと塊になって何かを待っているようだった。

「……随分と、騒がしいの。儂のレイス共をものともせぬとは、久方ぶりに殺し甲斐のある相手じゃのう」

 地獄の底から響くような声が響き渡り、部屋の中央から一体の霊体がせり上がってきた。リョウジの脳内では、年末恒例の歌番組でそうやって出てくる人いたなぁ、などと呑気な考えが浮かんでいた。

 しかし、アリッサとポテフは驚愕に目を見開いていた。

「しゃ、喋るレイスだと!?なんだ、あいつ……!?」

「違うわ!ありゃレイスじゃないわい!ま、間違いない……エ、エ、エルダーリッチじゃぁ!!」

 ポテフの絶望に満ちた叫びに、リョウジは視線を離さず尋ねる。

「エルダーリッチ……?長生きしてるリッチって感じですか。生前は魔法使いとか、そんなでしたっけ?」

「は……はは……こ、こんな大物に殺されるなら……ほ、本望という奴、じゃのぅ……」

 もはやポテフすら生きることを諦めたらしく、その手からするりと武器が落ちていった。そんな一行の様子を見て、エルダーリッチは不敵に笑う。

「この儂を見て、正気を保っている奴が三人もいるとはの。優秀なレイスになりそうじゃわい」

「やっぱり、貴方がレイスを作り出していたんですか」

「ほうほう、話しかける度胸もあるとは!いよいよもって、楽しみな男よ!」

 楽しげに笑うエルダーリッチに、リョウジはいつもの調子で話しかける。

「この場所は、貴方が作ったんですか?であれば、何のために?」

「ああ、そうとも。ここは儂の研究所での、もう300年以上は魔法の研究を続けておる。このレイス達は、その副産物よ」

「素材は、誘い込まれた冒険者達ですね?どうやって誘い込んで、なぜそう変えていく必要があるのか聞いても?」

「少し特殊な魔力を発して、それに同調する者をおびき寄せておる。レイスに変える理由は単純じゃよ。主には実験材料であり、レイスに変われば助手にも、儂の代わりに侵入者を殺す役目も担えるからの」

「であれば、途中の罠はいらなくないですか?」

「あの程度も潜り抜けられん奴など、興味はないんでの。せっかくレイスにするなら、優秀な者を変えてやるべきじゃろう?」

「選別のためですか、よくわかりました。では、聞きたいことも聞けましたので――」

 リョウジは改めて武器を構え、エルダーリッチを気負うことなく見つめる。

「この世から、ご退場願います」

「ほっほっほ!この儂に勝つつもりとは!いいのう、その無謀、あるいは無知!人間の若僧如きが、この儂に勝てると思うなよ!」

「久々ですね、若造扱いは……特にこっち来てから、基本おっさん扱いでしたからね……」

「冥途の土産に、300年を超える研鑽を見せてやろう!ゆけぇ!」

 エルダーリッチの周囲の空気が揺らめいた。リョウジにすら目視できるほどの魔力を動かし、エルダーリッチはリョウジに向かって手をかざした。

 直後、その手からありとあらゆる属性の魔法が飛び出し、リョウジに襲い掛かっていった。炎、氷、風、石、水、雷、光、闇による凄まじい弾幕が張られ、リョウジの姿を一瞬にして覆い隠す。

「リョ、リョウジぃ!!」

 アリッサが思わず叫んだところで、魔法が途切れる。そして、まったくの無傷のリョウジが姿を現した。

「そんなものですか?」

「む……属性防御、ではなさそうじゃの?魔法耐性か?なるほどなるほど、思い上がるのも致し方なし、じゃの」

 そう言いつつも、エルダーリッチは焦る様子もなく、再びリョウジに手をかざした。

「じゃがのう、古代の魔法には、そういった耐性すら突き破るものがあるのじゃよ。もっとも、その制御に失敗した結果、滅びたのじゃがの、ほっほっほ!」

「笑いごとですか、それ」

「笑いごとじゃよ。自身が作り出した魔法で、敵も味方もすべてを滅ぼす……とんだ喜劇だと思わんかの?何より、そんな未熟な腕でこんな高等魔法を生み出したこと自体が、大した喜劇じゃわい」

 エルダーリッチの手に、恐ろしい程の魔力が集まってゆく。念のためバックラーを構えつつも、リョウジはそれを無感動に見つめている。

「一応言っておきますが、うちの息子に傷一つ付けたら全力でぶっ殺しますよ」

「安心せい、そこまで下手ではないわ。それにお主の息子は、レイスにする価値もなさそうでの」

「そうですか、なら信じてみましょうかね」

「余裕じゃのう。だが、どこまで余裕ぶっていられるかのう!」

 エルダーリッチの手には、もはや魔法使い数人がかりでも制御不能となるような魔力が集まっていた。それに怯えているのか、ウィスプもリョウジの後ろに隠れている。

「ポテフさん、アリッサさん。皆を連れて私の後ろへ」

「お、お前一人で……こ、こんな、こんなすごい魔力……どうにか、できるのかよっ!?」

「まあ、たぶん?」

「たぶんっておまっ……!?」

「ダメなら死ぬだけです。まあ試してみましょう」

 あまりに軽く言うリョウジに、実はこいつも既に発狂しているのではないかという疑念がちらりと頭を掠めるも、もはや生き残るにはリョウジのスキルに賭けるしかない状態である。二人は何とか全員を回収し、リョウジの後ろに固まった。

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