隠された地下
遺跡への道すがら、リョウジはシーカーズの面々と話をし、自身の境遇やステータスなどを開示していた。今回はパーティに入って開示したため、これまでのような騒ぎは起きていない。そしてコウタのスキルに関しては見せるつもりが無かったため、コウタに関してはリョウジ以外は把握していない状況である。
「へーえ、つまり時空魔法でこっちに引っ張られちゃったのかぁ……災難だったねえ」
「ステータス オープン、リョウジ……すごいのぉ、何度見てもすごいのぉ。ほとんど不明、職業は異世界人。この先二度と見られないかもしれんのぉ」
「まあとにかく!魔法関連はリョウジに任せちゃっていいってことね!でもウィスプちゃんには触っちゃダメだから、気を付けてね!」
リーダーの兎獣人、エリーがぴょこぴょこ歩きながら言うと、ウィスプもそれに同調するようにちかちかと光った。
「お互い、元の世界に戻るまでは、気を付けましょう」
「だからなんでそれで深度が……もういいわ……」
遺跡に着く頃には、リョウジとシーカーズの面々は完全に打ち解けていた。コウタもそこまで暴れるようなこともなく、大人しくしているおかげで、ここまでは順調である。
問題の遺跡に到着し、早速中に入ったところで、エリーが大きな耳をピコピコ動かし始めた。
「じゃ、最初に簡単な索敵しちゃうね!みんな、静かにしてねー!」
遺跡内部だけあり、声が微かにこだまする。エリーが目を瞑り、全神経を耳に集中した瞬間、コウタが叫んだ。
「おわぁ!!おーわぁぁ!!」
「ちょっ、コウタぁ!!」
コウタとリョウジの叫び声を間近で受け、エリーは耳を押さえてブルブル震える。
「お……おおぉぉおおぉぉ……み、耳がぁぁぁ……!」
「す、すみません!大丈夫ですか!?」
「あ、あんまり大丈夫じゃない……キーンて、耳がキーンて……頭までキーンって……!」
「まあ、その……子供には、音が響くのが面白かったんだね、たぶん……」
ティキアが苦笑いしつつフォローを入れるが、リョウジは恐縮しきりである。
「本当にすみません、息子共々ご迷惑を……!」
「ど……どんまい、私……次は普通にやれるはず……」
結局、エリーの耳が治るまで3分ほどかかり、それから再び音での索敵を開始する。現状、遺跡には何も物音はなく、最後に自分で叫んでから耳を動かすと、エリーは何やら図面を書き始めた。
「……っと、これが聞こえた範囲の地図!この先は実際に確かめるしかないから、気を付けて進もうね!」
「これは……エコーロケーション、というやつですか?音の反射で地形を把握するという……」
「そうそう、それ!私の得意技なんだ、ふっふーん!」
胸を張って得意げな顔をするエリーに、アリッサが笑いかける。
「ま、そういうのばっかり得意で、戦闘はからっきしのお荷物なんだけどな」
「何よ何よー!閉所の探索じゃ必須でしょー!?戦闘できないからってお荷物じゃないもんねーだ!」
「まあね。あたしは逆に、戦闘しか能がないから、それが無い限りはお荷物なんだけどな」
「おっと私も負けませんよ?戦闘は苦手、探索も知識なし、手のかかる息子ありなので、ありとあらゆる場面で荷物になることが――」
「あんた達、荷物自慢してないで、真面目に探索しなさいね?」
ジーリャの突っ込みを受け、リョウジ達は黙って探索に戻った。
既に多くの者が探索した遺跡だけあり、どこも念入りに調べられた形跡があり、これといって変わったものは見つからない。
たまに迷い込んだような魔物が出ることはあったが、アリッサとティキアにより即座に仕留められ、危機に陥るようなこともない。
変わったことは何一つなく、あらかたの探索を済ませ、全員で話し合った結果、結論は一つに落ち着いた。
「やっぱり、な~んか地下が気になるよね!?」
「むしろ、地下しか惹かれないんじゃぁ。どこかに入り口があるはずなんじゃぁ」
「けど、どこにもそれらしいものってないわよね?もう一回全部探す?」
リョウジは何も感じなかったが、シーカーズの面々は地下が気になるという意見で一致していた。ギルドで聞いた話では、そう言いだした者達は一様に行方不明になるということで、リョウジは秘かに警戒を強めた。
結局、一行は再び遺跡の探索をやり直し、今度は壁面や床など細かい所も念入りに調べていく。さらには床に耳を付けて反響音を聞いたり、柱の一つ一つを叩いてみたりと、もはや執念を感じるレベルでの探索を行ったところ、ついにポテフが壁に隠されていたスイッチを発見した。
「ここじゃぁ。ここだけ、埃が薄いんじゃぁ」
「わお、お手柄だね!それじゃあみんな、準備は良い!?押すよ!」
エリーが興奮気味にスイッチを押すと、ゴゴゴゴっと低い音を立てて壁が開いていく。その先には地下に続く階段があり、行く先は暗闇に隠されている。
「うーん、まったく見えないね。みんな、少し距離取ってね!ウィスプちゃんは私の隣に来て!」
エリーとウィスプを先頭に、一行は慎重に進んでいく。
これまでと打って変わって、遺跡の地下は恐るべき難易度の迷宮となっていた。罠の数も質も、殺意の漲る悪質な物ばかりであった。
「みんな、私が踏んだところ以外踏まないで!ここスイッチだらけで――」
「あんやい?あいやいや」
「ちょっ、コウタぁ!今お前っ……!」
コウタがふらっと横に逸れた瞬間、その足元からカチッと音が鳴り、天井が侵入者を押し潰さんと迫ってきた。
「アイスピラー!アイスピラー!アイスピラー!みんな、今のうちに早く!」
直後、ティキアが氷の柱を何本も形成し、迫る天井を押し留めた。しかし相当な重量があるらしく、その柱にはビシビシとヒビが入っていく。
「ティキアありがとう!ポテフ爺ちゃんとリョウジ親子、大丈夫!?」
「大丈夫じゃぁ。この程度なら何とかなるわい」
「はぁ、はぁ……う、うちの息子が、すみません……」
「うふふーぃ!あい~ぃぃい!?おぉー!」
コウタを抱えて走ったリョウジは、すっかり息が上がっていた。コウタは抱っこされての全力疾走が楽しかったらしく、リョウジの顔に顔をくっつけて何やらアピールしている。
「やめてコウタ……お父さん死ぬかと思ったからね、ほんと……」
「ま、まあ、気を付けな……」
しかし、この程度の罠など序の口であった。決まった手順でスイッチを押さないと毒ガスが噴き出る部屋や、至る所から刃が飛び出す部屋、一見何も無いように見えて極細の鋼鉄線が張り巡らされた部屋など、多種多様な罠の部屋があり、そのほぼすべてでコウタは足を引っ張る存在となっていた。
それでも、リョウジの全力での頑張りと、それを支えるシーカーズの面々によるサポートのおかげで、今のところは全員無事に探索を続けている。
また、それらの部屋では、やはり犠牲となった冒険者もかなりいるようで、所々に骨や荷物、ボロ布などが落ちているのが見えた。できれば回収したいところではあったが、罠の全容が見えない中で回収するのは危険だという話になり、ひとまずどのような物があったかを記録するに留めている。
そして次の部屋に入った瞬間、エリーの胸元に小さな赤い点が現れた。
「ん?これは……うおっとぉ!?」
バシュン!とやや大きな音が響き、エリーがいたところに魔力の塊が撃ち込まれた。エリーは驚異的な反応速度で回避するも、赤い点はいつまでも彼女を追い続ける。
「エリー下がって!そのままじゃやられるわ!」
「さ、下がりたいけど、さっ!次は誰がっ、狙われる!?」
次々発射される魔力をエリーはかわし続けるが、赤い点が少しずつ増えていき、それに従って発射される魔力も増えていく。これは危険だと、一行が撤退も考え始めたところで、リョウジがエリーの前に飛び出した。
「エリーさん、私の後ろに!」
「ちょっ、リョウジ!?あんたがこんなの避けられるわけ……あれ?」
リョウジが前に出た瞬間、赤い点は消滅し、魔力も発射されなくなる。エリーが首を傾げていると、ポテフがぽんと手を叩いた。
「なるほどのぉ。魔力が通じないからのぉ。狙いも付けられなければ、仮に発射されても怖くないと言う事じゃのぉ」
「そういうことです。私が先頭に立ちますので、皆さんは後ろからついて来てください」
「うーん、すっごく頼りになるけど、これほんと反則スキルだね……」
その部屋は魔法を撃ち出してくる以外に罠はないようで、リョウジは部屋の最奥に立って罠を無力化し、シーカーズは犠牲となった冒険者達の遺品やタグを回収する。結果として、ここでは13人ほどが犠牲になっているようだった。
「他の部屋も結構あったけど、この部屋はさすがに多いね」
「あたしだったら即死だね。リョウジがいなかったら、ここで全滅もあり得たかもね」
全員が集合したところで、リョウジは発射装置を触って破壊する。さらに通路を進むと、そこには明らかにこれまでと雰囲気の異なる扉があった。
「んー、扉には罠はないね!たぶんここが一番奥だけど、全員準備は良い!?」
エリーの言葉に、コウタを除く全員が頷いた。念のためということで、全員が武器を構え、エリーが扉を開ける。




